2023年10月18日発売
目次
- プロローグ試し読み全文公開
- 大学院生の「僕」は就職活動のエントリーシートで手が止まった。「あなたの人生を円グラフで表現してください」 僕はなんのために就職するのだろうか? そこに何を書くべきなのか、さっぱりわからなくなった僕に、恋人の美梨は言う。「就職活動はフィクションです。真実を書こうとする必要はありません」
- 三月十日
- 東日本大震災から3年後の3月11日、僕は高校の同級生たちと酒を飲んだ。あの日、どこで何をしていたか――誰もが鮮明に憶えているのに、前日の3月10日については、ほとんど憶えていない。僕はその日、何かワケあって二日酔いになるほど飲んでいたらしいのだが……失われた一日の真相とは?
- 小説家の鏡
- 博士課程に進み小説家になった僕に、高校時代の友人西垣から相談が持ち掛けられた。「妻が小説を書きはじめ、仕事を辞めて執筆に専念したい」と言い出したという。しかも青山の占い師のお告げに従って。友の頼みとあって、インチキを暴こうと占い師に接近する僕に、思いもかけない「その瞬間」が訪れる。
- 君が手にするはずだった黄金について
- 片桐は高校の同級生。負けず嫌いで口だけ達者、東大に行って起業すると豪語していたが、どこか地方の私大で怪しい情報商材を売りつけていたらしい。それが今や80億円を運用して六本木のタワマンに住む有名投資家。ある日、片桐のブログはとつぜん炎上しはじめ、そんな中で僕は寿司屋に誘われる……。
- 偽物
- 新幹線のグリーン車で偶然再会したババリュージという名の漫画家。人の良さそうな痩せた男で、僕は彼に好感をもっていたのだが、一緒にいた轟木は正反対のことを言う。「あいつはヤバい奴だね。偽物のロレックス・デイトナを巻いているから」。他人を見た目で判断するなよ。いや、かくいう僕はどうなんだ?
- 受賞エッセイ
- 僕は31歳になり、山本周五郎賞最終候補の報せを受けた。だがその日、僕は不思議な電話を度々受けることになる。「アメリカのデパートで買物をしましたか?」。そして見知らぬ番号からの電話に折り返すと、「どちらの小川さまですか?」 僕はどちらの小川なのだろう。そもそも僕は何者なのだろう?
著者紹介
小川哲
オガワ・サトシ
1986年、千葉県生まれ。東京大学大学院総合文化研究科博士課程退学。2015年、「ユートロニカのこちら側」で第3回ハヤカワSFコンテスト〈大賞〉を受賞しデビュー。2017年刊行の『ゲームの王国』で第31回山本周五郎賞、第38回日本SF大賞を受賞。2019年刊行の短篇集『嘘と正典』は第162回直木三十五賞候補となった。2022年刊行の『地図と拳』で第13回山田風太郎賞、第168回直木三十五賞を受賞。同年刊行の『君のクイズ』は第76回日本推理作家協会賞〈長編および連作短編集部門〉を受賞している。
書籍紹介
認められたくて、必死だったあいつを、お前は笑えるの? 青山の占い師、80億円を動かすトレーダー、ロレックス・デイトナを巻く漫画家……。著者自身を彷彿とさせる「僕」が、怪しげな人物たちと遭遇する連作短篇集。彼らはどこまで嘘をついているのか? いま注目を集める直木賞作家が、成功と承認を渇望する人々の虚実を描く話題作!
- 1,760円(税込)
発売日:2023/10/18