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本物のファンタジーの肌触り

作家 冲方丁

 私がファンタジーを、そして「十二国記」を愛する理由は、いたってシンプルだ。

 現実と異なる世界を思い描くことは、人間の偉大な想像力の証しだからである。だがスペクタクルの連続がほしいのではない。ほしいのは、それを可能とする厳密な衣食住の描写、登場人物の体を通して読者に伝わる、優しいとは限らない世界の肌触りだ。

「十二国記」で最初にそれを感じたのは、少女の旅路の描写で、体のまるみが削げ落ち、男ものの服を着ても違和感がなくなった、というくだりだった。その瞬間、そこに描かれた世界が堅固なものとして記憶に焼きついた。私自身が実際にあの場にいたかのような記憶だ。

 以来、どの巻でも同じ肌触りを感じてきた。新刊の報は、過酷だがその価値がある旅への招待状を受け取った気分だ。きっと読者を打ちのめすほどの想像力がみなぎっているに違いない。今から頁を開くことが待ち遠しい。

yom yom vol.57 2019年8月号より)