明治43(1910)年から大正11(1922)年までの「山中すてら」の半生を描くこの小説は、良い意味でのノスタルジックな香りを感じさせる。レトロな感覚といっても良い。 貧しい生まれのすてらは、倉敷の倉敷紡績に勤める十六歳。同年輩の少女たちとの寄宿舎での共同生活は、細井和喜蔵の『女工哀史』に倣えば、“女工情史”と言えるだろうか。もちろん、工女たちの色恋沙汰が中心ではない。[→]全文を読む
江戸の人々に雪国の風物や綺談を教えたい。越後塩沢の縮仲買商・鈴木牧之が綴った雪話はほどなく山東京伝の目に留まり、出板に動き始めるも、板元や仲介者の事情に翻弄され続け──のちのベストセラー『北越雪譜』誕生までの長すぎる道のりを、京伝、弟・京山、馬琴の視点からも描き、書くことの本質を問う本格時代長篇。
木内昇(キウチ・ノボリ) 1967年生まれ。出版社勤務を経て独立し、インタビュー誌「Spotting」を創刊。編集者・ライターとして活躍する一方、2004年『新選組 幕末の青嵐』で小説家デビュー。2008年に刊行した『茗荷谷の猫』が話題となり、早稲田大学坪内逍遙大賞奨励賞を受賞。2011年に『漂砂のうたう』で直木賞を受賞。2013年に刊行した『櫛挽道守』は中央公論文芸賞、柴田錬三郎賞、親鸞賞を受賞した。他の作品に『よこまち余話』『光炎の人』『球道恋々』『火影に咲く』『化物蝋燭』『万波を翔る』『占』『剛心』『かたばみ』『惣十郎浮世始末』など多数。
日露戦で満蒙権益を獲得した日本は、その維持を最重要課題として勢力拡張に舵を切る。だが国益追求に邁進する外務省は、次々と変化する情勢の中で誤算を重ね、窮地を打開するため無謀な秩序構想を練り上げていく。小村寿太郎から幣原喜重郎、重光葵まで、国際派エリートたちが陥った「失敗の本質」を外交史料から炙り出す。
熊本史雄(クマモト・フミオ) 1970年、山口県生まれ。筑波大学第二学群日本語・日本文化学類卒業。筑波大学大学院博士課程歴史・人類学研究科中退。博士(文学)。外務省外交史料館外務事務官などを経て、2025年5月現在、駒澤大学文学部教授。専門は日本近代史、日本政治外交史、史料学。主な著書に『大戦間期の対中国文化外交─外務省記録にみる政策決定過程』(吉川弘文館)、『近代日本の外交史料を読む』(ミネルヴァ書房)、『幣原喜重郎─国際協調の外政家から占領期の首相へ』(中公新書)。共編著に『近代日本公文書管理制度資料集─中央行政機関編』(岩田書院)。