女による女のためのR-18文学賞

新潮社

二次選考通過作品発表(受理順)

作品名
わたしと安田君の一生
作者名
にしまあおり
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保育園から大学まで(たまたま)一緒だった二人の話。「おんなおとこ」だというので、いつもセットで標的になり、凄絶ないじめに遭うが、そのつかず離れずの関係がなかなかいい。互いを認め合いながら、余計な干渉はしない。友達でもない。どちらかというと内気な女装好きのわたし、いつも堂々としているメイク好きの安田君。成長するにつれて周囲の関心が(勝手に)薄れていく様もよく描けている。そんな二人の人生が、大学の卒業式の後に一瞬交錯する。出会い、長い助走、そして旅立ち。二人の人生にエールを送りたい。
作品名
わらいもん
作者名
にしまあおり
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女子高生が漫才コンビを組んでから、初舞台を踏むまでの青春小説。漫才を文章で表現するというのはかなり難しいことだと思うのですが、ネタそのものが思わず「くすっ」と笑えたので、「高校生が書いたネタ」というのを上手く表現されているなと思いました。ファミレスで高校生が「好き」を熱弁する姿には、若者の青臭さ、まぶしさがそのまま描かれているような気がして、そのまっすぐな表現に好感を持ちました。主人公が抱えているトラウマに襲われるシーンは、少しありきたりに感じたので、そのあたりもう少し工夫があると、物語にぐっと奥行きが出ると思います。
作品名
放課後の校則違反
作者名
義井優
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人物の描写やセリフがうまいです。堅物で生徒たちから煙たがられる女子高教師・木穂子は、実は女子高生アニメのコスプレが趣味。ある日パパ活中の生徒を見かけて咎めると、「若さの価値が高いうちに使って何が悪い」と、アニメではない生身の女の子の本音をぶつけられ、答えに窮する。木穂子がやがて校則やきれいごとではなく、自分の実の言葉で生徒と向き合おうと変わる姿が丁寧に描かれていました。ラストも彼女の程よい脱力と、腹をくくった一歩を感じ、心地よかったです。
作品名
出っ歯
作者名
本田かおる
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歯並びのコンプレックスのせいで人生の勝負どころでいまいち本気になれず、職場の人間関係にも気後れしがちだった主人公が、娘の小学校受験の親子面接のために歯列矯正を始めたことで内面にも変化を感じていく様がユーモラスに描かれています。子供時代に矯正したいと言い出せなかった主人公が、親になって歯列矯正を「娘の受験のため」とは言いつつも過去からの自分を救い直しているようにも感じられました。校閲者である主人公が「出っ歯」という文字を見るたびに抱く感情や、夫のフォローに対し自嘲ぎみに返して困らせようとする甘え方、さりげなく半歩ほど心に踏み込んでくる同僚に抱く恋心など、ひとつひとつに作者ならではのセンスが光る作品だと思います。
作品名
階段のその先
作者名
白川計子
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結婚した主人公の男性が妻といる時に、初恋の人に出会ってしまうというのがストーリーの主軸。とにかく、文章が上手! 小説の世界にひきこむ力もあり、食い入るように読みました。主人公が初恋の人に抱いている心情も丁寧に書き込まれていて、彼の目線で描かれる妻と初恋の人の描写も素晴らしい。男性が心ここにあらずの時は、自分勝手に色々と妄想しているのかなと、しみじみ実感させられ、著者の洞察力にはとりわけ感服しました。
作品名
みどりうお
作者名
坂本七美
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ある日、自宅マンションのプールで「みどりうお」と出会った主人公。水を綺麗にするというその生物は、日が経つにつれ徐々に「変化」し、そのうち主人公の周りで不思議なことも起こるように……。みどりうおという架空の生き物がファンタジックな魅力に溢れていて、プールでの静謐感ある描写も含めて引き込まれました。また、夫との日常生活、自分を慕う同僚との会話など一つひとつのシーンにおいて、主人公の微妙な感情が的確に伝わってきました。終盤の展開は驚きがあり、もっとこの世界の続き、そしてみどりうおの仕組みを知りたいなと思いました。
作品名
暗闇を掘る女の歌
作者名
西東子
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回想と現在への移り方が映像のようで素敵でした。本好き女子とギャル、スクールカーストの違う女子同士の交流がかわいかったです。大人になって、知らず知らずのうちに誰かに与えていた影響に気づいて感じる嬉しさや後悔、思い通りにならない人生を過ごす中で置かれた場所での主人公の前の向き方に共感する人は多いはず。
作品名
檻の中
作者名
松原凛
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つかみは現実に話題になったニュースであるものの、それに寄りかかりすぎることなく、主人公が一歩前に踏み出す物語が丁寧に紡がれていて、読後はとても温かい気持ちになりました。主人公と上司の浅野さんの距離の縮め方も、猿の飼育や後輩の言葉、浅野さんの娘の存在を介して自然で、傷ついた者同士が心を通わせる過程が素直に描かれていたと思います。
作品名
遠火に矢を放つ
作者名
遠峰愛矢
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アナウンサーを目指す就活女子の物語。極道ミスコンのエピソード、ボランティアや留学経験をネックレスにたとえる比喩、彼氏とご飯を食べるシーンの心ここにあらずの状態の描写など、物語の細部にきらめきを感じる。ストーリーは途中まで想像の範囲内だったが、終盤の友達からの宣言には驚かされた。主人公が心を開いていくラストもいい。タイトルは再考が必要。
作品名
救われてんじゃねえよ
作者名
上村ユタカ
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八畳一間の家に、難病の母と金遣いの荒い父と3人で住むヤングケアラーの女の子の話。介護の描写が読んでいて辛くなるほどリアルです。また、学校の先生やクラスメイトの「家庭環境の複雑な生徒」に対する接し方、それを感じ取る主人公の心の機微もよく書けていました。主人公が何歳なのか不確定な箇所があり、設定はもう少し整理して書く必要がありますが、重い内容ながらもぐいぐいと物語に引きこませるパワーを感じました。
作品名
マイ・ボディ
作者名
栗山あいこ
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巨乳にコンプレックスのある主人公が、はじめてストリップを見たときの心の揺れ、戸惑いを経ての感動がよく伝わってきました。正直なところ筋立てや設定に目新しさはあまりなく、展開が読めてしまうところはありますが、主人公の心理描写の巧みさ、劇場内の情景描写の細やかさなどに優れていて、何よりボディ・ポジティブなメッセージを決して押しつけがましくなく、物語全体でうまく表現できているのに好感を持ちました。
作品名
驚愕は0.5オンス
作者名
春田佐雨
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最初の方の夫との会話から、自然にそして的確に、主人公のキャラクターが浮かぶ。一人で過ごす大みそかの、心地よい解放感の描写も上手い。そして、ある種特殊な関係となってしまった会社の先輩・杉田さんとの距離感もほどよく気持ちがいい。会社が舞台の小説だと、信じられないくらい意地悪な同僚などが出てくるのがよくあるパターンだが、本作の登場人物はみな普通の人たちでリアリティがあり、それでも物語はきちんと展開される。読後感がとても良い。
作品名
ユスリカ
作者名
村崎夏生
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マンネリの恋人と花屋の青年との関係性から描かれる「多様性が叫ばれる中での窮屈さ」というテーマに強く共感しました。マスクに表れる個性など、細やかな視点にいちいち惹かれます。意表をつくエンディングは温かで、とても好感を持ちました。中盤の「ビールは二杯目とか二本目からいきなりおいしくなくなる」という一文のように、主人公の主観や感情を情景で代弁する描写を全編に凝らすと、より読者を圧倒するような作品になると思います。
作品名
海のふち
作者名
平石蛹
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身重で戻った故郷の漁師町で、いまは骨壺に入った骨を指で少しずつ舐めながら暮らす主人公。その家に転がりこんできた、潜伏中の少年。設定としてはてんこ盛りにもかかわらず、わざとらしさを微塵も感じさせずにこの作品世界を作り上げた手腕に唸りました。通りすがりの無責任な関係だからこそ、救われることがある。少年が心の支えにしている漫才の、「飛ばなしゃあないやん」がずしりと切なく響きました。
作品名
空気を売る星男
作者名
七瀬沙耶
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突然、仕事を辞め「空気を売る」と宣言した同棲中の恋人。その後の彼の言動もかなりぶっ飛んでいるのですが、不思議と展開に無理がなく、物語全体に独特の心地よさが漂っています。何気ない描写に思える部分にもしっかりと意味を持たせ、随所で「空気」というワードが効いている点からもセンスを感じました。ラスト(「初音は泣いた。~まあ、そうかもしれないな。」の辺り)は、主人公の心の変化をもう少し丁寧に描くと、より収まりが良くなったかもしれません。
作品名
パーキングエリアで生まれたい
作者名
湾野
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父親が誰なのか分からない子どもを妊娠した「ほーさん」と奇妙な共同車中生活を送る、19歳のツヨシ。肉体関係も恋愛関係もない二人が、分かり合えなさを抱えたままそれでも歩み寄ろうとするところが、嫌みなく書かれている。産む/産まないという女性の問題だけでなく、男性の生きづらさを描いているところも好印象でした。
作品名
いい人じゃない
作者名
古池ねじ
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夫の浮気の理由が、娘を産んで母になった主人公は言葉遣いや生活態度に気を配り、つまらない女になったから――というのが印象的でした。学生時代の友人との再会を通じて、性格の悪さを取り戻していく主人公。最後にさらに衝撃の事実が明らかになり、読みながら思わず「こわい……」と声が出てしまいました。読み終えてみると、タイトルにも納得。ぜひ他の人が読んだ感想を聞きたい、と思わされた作品でした!
作品名
染める
作者名
佐藤百々子
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前の席の中島君のネイルに気づいてしまったことで始まる関係。すっきりした過不足のない文章で、手指や爪の描写、また中島君の繊細な感情などがみずみずしく描かれ、好感をもちました。「爪を染める」ということに絞ったシンプルなお話に仕立てており、読みやすいですが、枚数に余裕があるので、もう少し書き込んでもよかったのではと思います。
作品名
指先の話
作者名
早蕨光乃
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淡々としながらも非常に官能的な指の描写が素晴らしかったです。思春期に家族と暮らす少女が感じる閉塞感、理由のない生理的嫌悪のようなものも上手く表現されていて、読んでいると自分も高校時代に引き戻され、実家のベッドに寝転んでいるような強烈な感覚を覚えました。主人公の姉に対する愛情、羨望、侮蔑の入り混じった複雑な感情は丁寧に描かれていたと思うのですが、それ以外の登場人物の人物像がもう少しはっきりすると物語がもっと立体的になるのではと思いました。