※受理順
作品名 作者名 コメント
ツボミとハザクラ 中沢由美子 二十九歳独身実家暮らしの「私」が見つけたとあるブログ。そこには一人の七十代の女が突如アメリカでストリップショーへの出演を目指す日々が綴られていた――。変わり者の主人公、癖のある同僚や家族、何よりぶっ飛んだおばあちゃんの奇行から、終始目が離せません。細やかな情景描写と奇天烈な展開は、強い存在感を放っています。読んでいて思わず「えっ」と声が出た作品でした。
青春の終わり 桑島ぺり子 知り合いのSNSを舐めるようにチェックし、Twitterや同人活動で発表するBL漫画のネタにして満足していた主人公が、オタク仲間の活動離脱やBL妄想していた男性の突然の結婚に衝撃を受け、自身の中で完結させていた世界の小ささに打ちのめされる。そこからのエンディングがとてもよく、その崩れた足場でまっすぐ立ちあがろうともがく主人公の心情の描き方に、粗削りながらも、豊かなきらめきを感じました。
ちんのこつ 松藤かるり なかなか悲惨な状況の中でもコミカルさを忘れない地の文の調子が非常に好ましかったです。いやな人間のいやな部分、主人公の中にある弱さなどのつかみ方が非常にうまく、正妻のキャラクター立ちも個人的にすごく好きです。が、やや「ちんのこつ」を連呼しすぎというか、頼りすぎというか……。そこに託されるものをつかめる読者とつかめない読者とで物語にはまれるかが如実に分かれると思います。もう少し、読み手の手助けになれるものを足すことができれば、「なるほど」とうならせる力は十分あるのではと感じました。
朔丸、座れない女 大平一枝 シーンごとの描き方がシャープで、書き手の目線の解像度の高さを感じさせます。近親者の死という重くて身近なテーマを扱いつつ、ラストに少しひねりがあるのも魅力的。タイトルはぜひご一考を!
海馬の子 水野みちる 子供と大人の中間にいる主人公の不安定さが綺麗な文章で丁寧に描けていて、とても好感が持てました。主人公と愛、ビリー、そして母親、それぞれの人間関係も主人公を起点に上手く交差して、登場人物それぞれの造形や展開に奥行きを与えています。同じ経験をしたことがなくとも、物語に流れている空気に共感する読者は多いと思いますし、愛の「女子」に対する問いかけなど、心に刺さる一文も多くありました。
数学28点 桃山ひるね お母さんの再婚によって「海老真代(エビマヨ)」という名前になってしまった主人公が、転校先の中学校で、志村君という男の子と仲良くなっていく。登場人物が皆それぞれに魅力的で、読んでいて全員を好きになってしまうようなお話でした。随所で言葉選びのセンスが光り、ユーモアのある表現にもクスッとしました。数学記号を使った仕掛けも面白かったのですが、中学時代のエピソードが素晴らしいだけに、後日談パート(特に主人公が初恋を昇華させる瞬間の描き方)はまだ推敲の余地があるように感じました。
何言ってんだ、
今ごろ
秋ひのこ 自殺した友人をいじめた主犯格とされて学校にいられなくなり、母の再婚相手の実家のど田舎に引っ越してきた高校生。でも、田舎には大人のいじめがあり、母親がその標的に。そして、こんな田舎では絶対に浮くであろう、いとこで「ジェンダーレス」にあこがれる男子・トウカは、主人公が手伝った女装がバレて親にボコボコにされる。母やトウカの側に立つ、という決意表明のような、主人公のラストの行動には胸がすきました。彼女は物語の中で、確実に成長しています。
万の月 堀みずき 主人公が「万子(まんこ)」という名をつけた両親をうらんではいないところや、自分とは正反対の峰岸さんと仕事の息はぴったり合うと感じているところなど、ディテールにほどよい意外性がありました。文章もとても達者で、「枯れた魅力、という言葉は一般に男性に対して使われるものかもしれないが」から始まる一段落は特に素晴らしかったです。ラストの「ないときというのは、あたらしいものを待っているとき」という言葉も心に残りました。
そと海の十月十日 日吉真波 応募作の中では珍しいSFチックな設定が目新しく感じたのですが、実在する代理出産などと置き換えても、あまり変わらない物語が書けたのでは?と少しもったいなく思えました。せっかくこのテーマを選んだのであれば、新しい価値観や世界観を示すようなラストにもできたと思いますので、ラストはちょっと残念でした。職場の人間模様がリアルだったところは◎で、きっと他のテーマでも書ける方だろうと期待しています!
テルテル姫子 三倉十月 恋を拗らせて処女喪失の機会を失った女性とそれを癒やす出張ホストの男性とのやりとりが心温まるディテールに溢れ、また、女性が女性のために出張ホストサービスを経営しているという描写も納得でき、非常に面白く読めました。が、おそらく最後のオチは賛否両論だと思います。現実的な手触りが急にコミカルになってしまったような、作り物感が出てしまい、そこまでの積み重ねがもったいないことになってしまったような。実はそうなのかも、ぐらいの方が終わり方としては美しかったかなと感じます。
サンロクの本は
あちらです
佐海コトリ 図書館でアルバイトをする女子大生・響子と、膝枕で耳かきをする専門店で働くまりん。一見噛み合わない2人が本をきっかけに、お互いのことを尊重しながら親しくなっていく様子や会話に好感を持ちました。それぞれの職場で起きる出来事に対しての2人の「怒り」は誠実で、力づけられるものでした。
夜をめくる 雨京香住 ひょんなことから同居が始まった、主人公とその叔母・タマちゃん、二人の女性の喪失と再生の物語。タイトルの、夜を「めくる」という言葉にラストの主人公が新たな視点を手に入れ、ポジティブに次のステージへ向かっていく様が上手く表現されていると思いました。情景と心象の描写も丁寧で美しく、洗練されている中にも女性たちの持つ逞しさが垣間見える、そんな作品です。
保てぬ夜 榎並崚 私と翔くんの、約束のない関係性。部屋の中にテントをはって、その中で小声で交わす会話の、相手と自分との関係性の確かさを少しずつ測っていくような繊細さが好きだと思いました。自販機の前で出会って会話するようになった翔くんと、ある重大な経験を通じて心を通わせるようになった経緯の描き方が誠実だと思います。始まりたくない、という主人公の心の動きと、翔くんとのやりとりを描く手つきが丁寧で、最終的に大きな感動に結びつきました。
スタンプ 有住唯 とにかくアキのキャラクターが◎! そしてラフに短くたたみかけるグルーヴィーな語りで、この物語の世界に一気に引き込まれます。このふたりがこの後どうなっていくのか、ぜひ続きを読みたい!と思った作品でした。
モニター1号の狂喜 宮島ムー 別れてしまった元彼女と復縁したときに「ちゃんとできるように」、セックスの練習台になってほしい――。それセフレとほぼ同義では!? と山吹くんに対して全力でツッコミを入れたくなりますが、「モニター」という語をこのシチュエーションに当てはめた発想に唸りました。終盤はとても切なかったです。山吹くんが元彼女の名前を「『舞の海』の舞」と説明するところや、メルカリの出品例文などのディテールも光っていました。
カラダカシの家にはカッコウが鳴く 梅田寿美子 マンションの一室にひっそり暮らす盛りを過ぎた百合のような中年女性、公香は、カラダカシといって、瞳や手など体の部分(の機能)を人に貸して生計を立てています。ごく普通の日常に魔女のような女がいるという設定、それをさらりと読ませてしまう文章にまず惹かれました。一方、助手の晴子は、有能なお手伝い兼秘書でありながら、雇い主に対して不穏な思いを抱いています。晴子の一人娘で9歳の陽向が公香に興味を持っているのを、恐れているのです。女同士のミステリアスな運命もさることながら、貸したカラダを通じて借り手の記憶がカラダカシに移動してくる様子や、鳩時計が3時を告げると、晴子手作りのケーキで晴子と公香がお茶をするときの和やかな日常もよく描けていて好感を持ちました。
相続 入江澄 回想でありつつ実質的な語り手の、少女の視野にはいる範囲の、些細な出来事を通して描かれた親族の複雑な関係、確かにある絆、それらの提示の仕方が洗練されており、引き込まれました。加えて、もう一歩推敲できるのでは、とも思いました。たとえば「西」に向かう結末は、作品の温かなムードにそぐわない、やや暗いイメージをまとってはいないでしょうか。ジャンルにこだわらず、自分だけに書けるものを追い求めてくださればと願います。