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『ノルウェイの森』の原点、「螢」を収めた初期短編集。

螢・納屋を焼く・その他の短編

村上春樹/著

464円(税込)

本の仕様

発売日:1987/09/30

読み仮名 ホタルナヤヲヤクソノタノタンペン
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-100133-3
C-CODE 0193
整理番号 む-5-3
ジャンル 文芸作品
定価 464円

秋が終り冷たい風が吹くようになると、彼女は時々僕の腕に体を寄せた。ダッフル・コートの厚い布地をとおして、僕は彼女の息づかいを感じとることができた。でも、それだけだった。彼女の求めているのは僕の腕ではなく、誰かの腕だった。僕の温もりではなく、誰かの温もりだった……。もう戻っては来ないあの時の、まなざし、語らい、想い、そして痛み。リリックな七つの短編。

著者プロフィール

村上春樹 ムラカミ・ハルキ

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集、エッセイ集、紀行文、翻訳書など著書多数。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、 2016年アンデルセン文学賞を受賞。

判型違い(書籍)

コラム 映画になった新潮文庫

原幹恵


 私の出演した「破裏拳ポリマー」が公開されました。往年のアニメを基にしたアクション映画です。坂本浩一監督は女性のアクションをきれいに撮るのに熱心な方で、主演の溝端淳平さんや山田裕貴さんなど男性陣が呆れるくらい(?)、衣装合わせから私にずいぶん時間をかけてくれました。
〔ポリマースーツ〕を着てのアクションがあるわけですが、私の着るものだけは、ボディの部分をあるメーカーさんに特注したのです。その会社のボディスーツは「キューティーハニー」の時も着させて頂いたことがあって、素材や縫製の具合か、確かに激しく動く女性の身体のラインが美しく見え、スタイルが映えます。監督は脚の見せ方にも拘りがあるので、アクション場面の前には両脚にオイルをたっぷり塗ったりもしました。ぜひ、映画館でご確認ください!
 にぎやかでカッコいい動の映画「破裏拳ポリマー」に出演した反動で、というわけでもないのですが、静かな恋愛映画が観たくなり、「ノルウエイの森」のDVDを借りてきました。主演は松山ケンイチさん、菊地凛子さん、水原希子さん。
 村上春樹さんの有名な原作(私が生まれた年に刊行されました)にはヘンな思い出があって、まだ子どもの頃ドラマを見ていたら、不倫中の男女がこの小説の上巻と下巻を分けて持ち合っている、という設定でした。二人がどういう運命を辿ったのかまるで覚えていませんが、てっきり明るい終り方の恋愛小説なんだろうと思い込んでいたのです。だって、わざわざ暗い結末の本を恋人同士で持ち合うとは思いませんよね。
 そのままたくさんの歳月が過ぎて、今回初めて映画版を観たら、明るいとは言えないエンディングなので吃驚しました。どんどん人は死ぬし、音楽(レディオヘッドのジョニー・グリーンウッド)がまた物語にとてもマッチしていて、つまり暗く切なくて、気持ちが少しやられそうになりました。
 観終って、『ノルウェイの森』の基になったという短篇小説「螢」を読むと、これには緑(映画では水原さん)はまだ出て来なくて、映画の最初の部分、直子(菊地さん)が精神を病んで京都の療養所へ入るまでを描いています。主人公(松山さん)は大学へ入るために上京して、奇妙な寮に住み、高校時代の親友(自殺している)の恋人直子と何度かデートするうちに……。
 実は私も高校卒業後上京し、事務所が用意してくれた女子寮に5年間住んでいました。JRの駅からバスで10分以上、10階建てで、門限が厳しくて、寮の中に友達もいなくて、ユニットバス付のワンルームでしたが、ランドリーは共同で、洗濯物がなくなったこともありました。東京と芸能界にまだ慣れてない頃で、寂しくて、早くここから出たいなあとずっと思っていましたが、自分を見失ったり、ブレたりしないでやってこられたのは、最初にあの寮生活があったからかも、と今もふと考えます。
「螢」のラストで、主人公は寮の屋上から瓶の中の蛍を夜の闇へと放ち、そっと手を伸ばします。「指は何にも触れなかった。その小さな光は、いつも僕の指のほんの少し先にあった」。あの寮に住んでいた頃、私はどんな蛍に、どんな小さな光に指を伸ばしていたのか、思い出そうとしています。

(はら・みきえ 女優)
波 2017年6月号より

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