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楽隊のうさぎ

中沢けい/著

693円(税込)

発売日:2002/12/25

  • 文庫
  • 電子書籍あり

毎日がブラス! ブラス!! ブラス!!! 吹奏楽少年の成長物語。

「君、吹奏楽部に入らないか?」「エ、スイソウガク!?」――学校にいる時間をなるべく短くしたい、引っ込み思案の中学生・克久は、入学後、ブラスバンドに入部する。先輩や友人、教師に囲まれ、全国大会を目指す毎日。少年期の多感な時期に、戸惑いながらも音楽に夢中になる克久。やがて大会の日を迎え……。忘れてませんか、伸び盛りの輝きを。親と子へエールを送る感動の物語。

  • 映画化
    楽隊のうさぎ(2013年12月公開)

書誌情報

読み仮名 ガクタイノウサギ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 352ページ
ISBN 978-4-10-107231-9
C-CODE 0193
整理番号 な-46-1
ジャンル 文芸作品
定価 693円
電子書籍 価格 572円
電子書籍 配信開始日 2008/05/01

コラム 新潮文庫で歩く日本の町

宮崎香蓮

 博多座の舞台「熱血!ブラバン少女。」の公演が無事終わりました。博多に精華女子高という吹奏楽部が強い学校があるのですが、そこをモデルに、少女たちが全国コンクールを目指す物語です。私はトランペットを吹く部長で(女子高生役です!)、博多華丸さんが新しいコーチの先生。このコーチ、実は以前も顧問を務めていたのに(おかげで当時は強豪校だった)、ある事情で学校を去っていて――。
 実際の精華女子の部員たちも舞台に立って生演奏に加わるし、博多座は大盛り上がりでした。私は中学校の時、ブラバン(県大会で銀賞を取りました)に入って、トランペットを吹いていたので(この舞台のためにカラオケボックスに籠って特訓もしましたし)、あまり演奏の足手まといにならなかった、と信じたいです。
 その博多で読んだのが中沢けいさんの『楽隊のうさぎ』。奥田克久君は花の木中学の一年生。あるキッカケから吹奏楽部に入ります。担当は打楽器。小学校時代はいじめられていた様子です。公園にいるうさぎに親しみを感じて、やがて心の中に友達の〈うさぎ〉が現れるようになります。そんな克久君の成長と共に、ブラバンのコンクール出場(一年目は全国大会出場を逃し、二年目の雪辱を目指します)が描かれていきます。
 丁寧に選択されたエピソードや音楽の描写を読むだけでも胸が充たされます。「音の粒が揃うと、身体の血の巡りが良くなる。(略)胸の中でうさぎが(略)ちょうど心臓のあたりで、耳を澄まして、叩き出される音の粒が揃っているのを眺めていた」。
 この文章の直後、風呂に入ろうとパンツ一枚になった克久君がふいに思いついて、スティックで洗濯機を叩いて練習する場面になります。その姿を見て、「トランクス、買ってあげる」という母親とのやり取り。
 あるいは、「お父さんに恋人がいたら、どうする?」と言われていたのに、当の両親のキスシーンを克久君が目撃する場面。彼は慌てて家を飛び出し、フルートの田中さんとコンビニの前で会うことになります。彼女はキャミソール姿で、克久君は「丸い肩の線の上に乗った細い紐を目でたどっていく。すると、克久の視線は自然に田中さんの胸元にたどりつく。(略)顔を上げると彼女の茶色のひとみが克久を遠慮なく眺めている」。二人はコンビニのアイスを食べます。
 そんな〈色気〉めいたものもほんのりと現われながら、みんなで海水浴場へ行っても、男女の意識はまだ表面に出てきません。怒濤の思春期へ突入する直前の微妙な心の綾が細かく掬い取られます。
 もちろん、もうひとつの大きな読みどころは、吹奏楽という〈集団で作り上げる音楽〉を文章で描き切っているところです。一例ですが、大舞台の本番で指揮者を見た時に演奏者がどう思うか、そんな心境も実に正確に書かれていました。
 克久君は成長するにつれてフランクな言葉で喋るようになりますが、元は無口。私は〈無口な少年〉が主人公の小説って、やっぱり好きなんだなあ。実際に目の前にいられると、困ってアタフタしてしまいそうですが――。

(みやざき・かれん 女優)
波 2017年5月号より

著者プロフィール

中沢けい

ナカザワ・ケイ

1959(昭和34)年生れ。千葉県館山市に育ち、18歳の高校在学中に書いた「海を感じる時」で群像新人文学賞を受賞、単行本がベストセラーになる。1985年、『水平線上にて』で野間文芸新人賞を受賞。著書に『野ぶどうを摘む』『女ともだち』『豆畑の昼』『さくらささくれ』『楽隊のうさぎ』『うさぎとトランペット』『書評 時評 本の話 1978-2008』『動物園の王子』など。

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