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全世界史 上巻

出口治明/著

880円(税込)

発売日:2018/06/28

  • 文庫
  • 電子書籍あり

歴史に国境なし。つながるからわかる。わかるから面白い。最高の世界史教科書の登場。

複雑きわまる世界史も、たったひとつの歴史=全世界史として読めばもっとわかる、もっと面白い。歴史書一万冊を読んできた著者ならではの切り口で文字の誕生から混迷の現代までを縦横無尽に語る。古代オリエントからローマ、中国、イスラム、モンゴルの歴史がひとつに融合することで日本史の見え方も一新する。現代社会を見る目が変わる、世界史教科書の新・定番。『「全世界史」講義I』改題。

目次
まえがき
前史 人類が文字を発明するまで
第一部 第一千年紀――第二千年紀
第一章 文字の誕生と最初の文明
〔1〕文字の発明はトークンから
〔2〕メソポタミアから文明が始まった
〔3〕アッカド王サルゴン、人類最初の帝国をつくる
〔4〕なぜ人間は交易をするのか
第二章 チャリオットによる軍事革命
〔1〕東地中海に君臨し、ギリシャ文明のもとになったエジプト中王国
〔2〕中国の二里頭文化は伝説の王朝「夏」か
〔3〕ハンムラビのバビロニア王国、メソポタミアを統一
〔4〕ヒクソスのチャリオットがエジプト中王国を圧倒
〔5〕鉄器を手にしたヒッタイトがバビロニア王国を滅ぼす
第三章 黄河文明の登場とBC一二〇〇年のカタストロフ
〔1〕エジプトは新王国へ
〔2〕黄河文明、興る
〔3〕世界最古の国際平和条約
〔4〕海の民、東地中海を襲う(BC一二〇〇年のカタストロフ)
〔5〕ヒッタイトの滅亡により鉄器時代が始まる
〔6〕フェニキア人が活躍 辺境の地で生まれたアルファベットが広まる
〔7〕アーリア人がインドに侵入 バラモン教や『リグ・ヴェーダ』が成立
〔8〕中国で商周革命が起きる
第二部 第三千年紀
第一章 世界帝国の時代
〔1〕最初の世界帝国アッシリア
〔2〕ダレイオス一世が実現したグローバリゼーション
〔3〕アレクサンドロス大王の実像
〔4〕パルティアの建国とローマが帝国になるまで
〔5〕アレクサンドロス・ショックでインドが統一
〔6〕中国を統一した天才、秦の始皇帝
第二章 知の爆発の時代
〔1〕前兆(1)ギリシャ フェニキアに対抗するためにギリシャ・ルネサンスが起きた
〔2〕前兆(2)インド 因果応報思想と輪廻思想が融合してウパニシャッドが生まれた
〔3〕前兆(3)中国 西周が滅んで漢字が広まり、中華思想が生まれた
〔4〕前兆(4) 鉄器の普及が知の爆発を引き起こした
〔5〕知の爆発(1)ギリシャ ソクラテスによる哲学の転回、プラトンの二元論
〔6〕知の爆発(2)インド アジタ・ケーサカンバリンの唯物論、仏教とジャイナ教の誕生
〔7〕知の爆発(3)中国(1) 自然破壊、文書行政、諸子百家
〔8〕知の爆発(4)中国(2) 孔子、墨子、老子、商鞅
〔9〕知の爆発(5)中国(3) 孟子の易姓革命と荘子
〔10〕知の爆発(6)中国(4) 本音は法家、建前は儒家、知識人の道家
〔11〕知の爆発(7) ユダヤ人のディアスポラが旧約聖書成立の引き金となった
第三部 第四千年紀
第一章 漢とローマ帝国から拓跋帝国とフランク王国へ
〔1〕ヒンドゥー教に対抗して大乗仏教運動が始まった
〔2〕クシャーン朝で仏像がつくられ始める
〔3〕王莽による西漢の簒奪と東漢の成立
〔4〕イエスの刑死とパウロの回心、そして新約聖書の成立
〔5〕ローマ帝国は「人類の最も幸福な時代」へ
〔6〕ユーラシアの寒冷化が巨大な民族移動を引き起こした
〔7〕遊牧民が簡単に入れなかった国、インドとペルシャ
〔8〕漢が滅亡 晋は北を捨てて南へ逃げる
〔9〕北魏が華北を統一 拓跋帝国の始まり
〔10〕ローマ帝国は分割統治を経て、東に重心を移す
〔11〕ユーラシアの西方ではフランク族が抜け出す
第二章 一神教革命の成就
〔1〕隋建国、拓跋部が中国の覇権を握る
〔2〕最強のトルコ系遊牧民、突厥がモンゴル高原に建国
〔3〕ローマ帝国のユスティニアヌス一世、東西統一を夢見る
〔4〕サーサーン朝のホスロー一世と二世もペルシャ帝国の夢を追う
〔5〕ローマ帝国とサーサーン朝によるシリア・エジプト争奪戦
〔6〕預言者ムハンマドがイスラム教を興し、一神教革命が成就する
〔7〕隋唐世界帝国の成立
〔8〕ハルシャ・ヴァルダナによる北インドの統一
〔9〕白村江の敗戦ショックと倭国の鹿鳴館政策
〔10〕女帝・武則天、大唐世界帝国の実力者となる
〔11〕宮宰ピピン二世、フランク王国(メロヴィング朝)の実権を握る
第三章 ムハンマドなくしてシャルルマーニュなし
〔1〕フランク人の改宗 ローマ教会はローマ帝国からの自立を目指す
〔2〕カロリング朝が誕生 ローマ教皇は領土を持つ「君主」に
〔3〕シャルルマーニュ、ローマ皇帝として戴冠する
〔4〕イラン東部からアッバース革命が始まる
〔5〕バグダード建設が生みだした巨大な有効需要
〔6〕「ムハンマドなくして、シャルルマーニュなし」の意味
〔7〕安史の乱とアッバース革命は連動していた?
〔8〕チベットでインド仏教(密教)が中国仏教を圧倒した理由
〔9〕ヴァイキングの登場
第四章 イスラムの大翻訳運動とヴァイキングの活躍
〔1〕製紙技術を学んだイスラムが大翻訳運動を始めた
〔2〕アッバース朝がマムルークを採用する
〔3〕イスラム教とトゥルクマーン、マムルークの関係
〔4〕サーマーン朝のマムルークビジネス
〔5〕唐の武宗による宗教弾圧とトゥプトの滅亡
〔6〕唐で黄巣の乱が起きる
〔7〕カンボジアにアンコール朝が成立
〔8〕フランク王国は三つに分かれ、ローマ帝国にはマケドニア朝が成立
〔9〕ヴァイキングが活動開始 東はロシアへ、西はイングランド、フランスへ
〔10〕マジャール族がパンノニアに侵入 ハンガリー建国へ
第五章 唐宋革命とイスラム帝国の分裂
〔1〕唐が滅びて五代十国時代へ
〔2〕フランク王国(カロリング朝)の滅亡 ドイツはザクセン朝、フランスはカペー朝へ
〔3〕オットー一世がローマ皇帝戴冠 帝国教会政策を採る
〔4〕アッバース朝が衰え、三人のカリフが並立する
〔5〕バシレイオス二世が再現した東のローマ帝国の黄金時代
〔6〕宋が建国 唐宋革命と呼ばれるほど大きな変化が生まれる
第四部 第五千年紀前半
第一章 ユーラシアの温暖化と商業の隆盛
〔1〕キタイと宋がセン淵の盟(ODA)を結ぶ
〔2〕仏教伝播の第三波 上座部仏教がスリランカからビルマへ
〔3〕宋の名宰相、王安石の構造改革 小さな政府で中間層を育成して富国強兵を図る
〔4〕インドで二つの大王朝が繁栄 ガズナ朝とチョーラ朝
〔5〕ファーティマ朝のハーキム、「知恵の館」を建設
〔6〕トゥルクマーンによる初の帝国、セルジューク朝の誕生
〔7〕セルジューク朝の大宰相ニザーム・アル=ムルク
〔8〕ムラービト朝の成立とイスラム勢力のアフリカ進出
〔9〕スペインにキリスト教の王国が出現
〔10〕アルフォンソ六世がトレドを掌握 トレドの翻訳学派がルネサンスの扉を開く
〔11〕ムラービト朝のユースフ、アンダルスを征服
〔12〕ノルマン人がイングランドを征服(ノルマン・コンクエスト)
〔13〕シチリアにもノルマン朝が誕生
〔14〕一〇七一年の敗戦後、ローマ帝国は軍事戦から外交戦へ
〔15〕イタリアで海の共和国の活動が活発になる
〔16〕東西教会は大シスマ(分裂)へ
〔17〕カノッサの屈辱 叙任権闘争と三身分思想「祈る人、戦う人、耕す人」
〔18〕十字軍が始まる その主目的は「聖地奪回」か「出稼ぎ」か
〔19〕シトー修道院創設 エル・シッド伝説生まれる
第二章 中世の春
〔1〕ヴォルムス協約で叙任権闘争が終結 教皇権が強化される
〔2〕北イタリアの有力都市がコムーネ(自治都市)となる
〔3〕ザンギー朝の誕生と第二回十字軍
〔4〕アンジュー帝国(プランタジネット朝)の成立
〔5〕アイユーブ朝のサラディン、エルサレムを奪回する
〔6〕三人の君主と第三回十字軍
〔7〕ローマ皇帝ハインリヒ六世が急逝 カタストロフが生じる
〔8〕ヨーロッパで「中世の春」 一二世紀ルネサンスが興る
〔9〕宋と金、海上の盟を結ぶ
〔10〕靖康の変 宋は南宋へ
〔11〕宋と金の和議 秦檜と岳飛の対立
〔12〕セルジューク朝とガズナ朝が滅亡し、ゴール朝が北インドを支配
第三章 パクス・モンゴリア
〔1〕第四回十字軍、コンスタンティノープルを襲う
〔2〕フィリップ二世対ジョン、アンジュー帝国が瓦解する
〔3〕カタリ派弾圧のためにアルビジョア十字軍が結成される
〔4〕一二一二年に起きた三つの事件
〔5〕マグナ・カルタ(大憲章)成立、第一次バロン戦争
〔6〕ローマ教会が耳聴告白制を確立
〔7〕カタリ派対策としてドミニコ会がつくられる
〔8〕「中世で最初の近代人」フリードリヒ二世、ローマ皇帝戴冠
〔9〕異端審問の制度化、第六回十字軍、マムルーク朝の誕生
〔10〕フリードリヒ二世の死とホーエンシュタウフェン朝の断絶
〔11〕最後の十字軍
〔12〕ドイツでハプスブルク家が台頭
〔13〕第二次バロン戦争から模範議会へ
〔14〕シチリアの晩鐘、シャルル追放される
〔15〕一三世紀の地中海とヨーロッパの交易 フローリン金貨、アフリカの砂金、シャンパーニュの大市、バンコ
〔16〕アンダルスのナスル朝と北アフリカのマリーン朝
〔17〕中央ユーラシアに二つの太陽が昇り、チンギス・カアンが勝利する
〔18〕モンゴル帝国の合理的発想
〔19〕ゴール朝のマムルークのアイバク、インドのデリーにマムルーク朝を樹立
〔20〕チンギス・カアンの後はなぜか三男ウゲデイが継ぐ
〔21〕グユクが即位するも倒され、モンケが四代カアンとなる
〔22〕マムルーク朝の英雄バイバルス
〔23〕モンケから始まったモンゴルの世界暦
〔24〕「タタールの軛」の真実
〔25〕現実を熟視した英傑クビライ
〔26〕一四世紀につながる二つの出来事 オスマン朝の成立と、フランス王と教皇の確執
第四章 寒冷化とペストの時代
〔1〕モンゴル世界帝国は極盛期を迎える
〔2〕「マルコ・ポーロと呼ばれる誰か」について
〔3〕北インドのトゥグルク朝、デカン高原に遷都
〔4〕ペスト、発生す
〔5〕大元ウルスが衰え、紅巾の乱が起きる
〔6〕大明建国とティムールの台頭
〔7〕モンゴル史と歴史の真実について
〔8〕フランス王フィリップ四世と教皇ボニファティウス八世の死闘
〔9〕ヴェネツィアの繁栄とアフリカの金
〔10〕教皇のアヴィニョン捕囚と一三日の金曜日
〔11〕スイス三州がハプスブルク軍を撃破 この頃からヨーロッパは大雨に
〔12〕フィリップ四世が死去 カペー朝が終わり、ヴァロア朝が始まる
〔13〕モスクワ大公国の誕生とセルビアの興亡
〔14〕イングランド王エドワード三世、百年戦争をフランスに仕掛ける
〔15〕ペストがルネサンスのきっかけの一つになる
〔16〕ドイツの分割固定化とハンザ同盟の成立
〔17〕百年戦争はフランスが巻き返す。「税金の父」登場
〔18〕オスマン朝にイェニチェリ誕生
〔19〕ハンザ同盟、魚の塩漬けでバルト海の覇権を握る
〔20〕アヴィニョン捕囚は終わるが、小シスマ(分裂)が始まる
〔21〕イングランドでワット・タイラーの乱 「人民の、人民による、人民のための統治」
〔22〕ヤギェウォ朝、ドイツ騎士団に大勝する
〔23〕急伸するオスマン朝、対抗馬はティムール朝
〔24〕大明暗黒政権

書誌情報

読み仮名 ゼンセカイシ1
シリーズ名 新潮文庫
装幀 (C)Alamy/カバー写真、PPS通信社/カバー写真、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 448ページ
ISBN 978-4-10-120772-8
C-CODE 0195
整理番号 て-11-2
ジャンル 世界史
定価 880円
電子書籍 価格 737円
電子書籍 配信開始日 2018/12/21

書評

学びを超えた知的エンターテインメント

成毛眞

 のっけから著者に反論申し上げたいことがある。出口さんは「まえがき」で、「積み重ねられた歴史を学んで初めて、僕たちは立派な時代をつくれるのではないか」という。つまり本書は良き未来を創りあげるという目的のために、テキストとして読むことができると言っているように聞こえるのだ。
 たしかに歴史から学ぶべきこと、いや本書から学べることはあまりにも多い。それは歴史だけでなく、生き様や人間関係、組織経営に至るまで、読んでいて気付かされることが多いのに驚くばかりだ。
 しかし、本書は時代をつくるという崇高な目的のためだけのものではないように思われるのだ。いやそれ以上に、純粋に読む愉悦に浸ることができる本だと断言できる。これからの時代を考えることはひとまず脇に置いて、早く次のページを開きたいと思わせる本。本書は高度に知的なエンターテインメントでもあるのだ。
 本書を読むときのイメージは「人類5000年史」という名前が付けられた、一辺が100メートルほどの体育館のようなものがあって、その中をツバメになって自由に飛翔するという感覚が近いように思う。底面には世界地図、側面に5000本の年代ラインが描かれた巨大な立方体があり、空間には農政史、出版史、経済史などと名付けられたさまざまな色の帯が縦横無尽に舞っている。そしてその帯には重要な人名や制度などの短冊が無数に付けられている。その中を自由自在に、しかも高速で飛び回るという感覚だ。
 この感覚は本書が「ですます」体で書かれていることが鍵になっているからかもしれない。出口さんは京都大学で「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義を担当していたことがある。当時の参加者からお聞きしたところ、まったく何の参考文献も持たずに、きわめて詳細な歴史を、正確な数字をあげながら、じつに柔らかい口調で講義されていたという。語られる歴史に聞き入る前に、まずは講演者としての出口さんのすごさに唖然としたと教えてくれた。
 本書の持つ不思議な空間感覚は、まさに出口さんの頭脳の中の広大な空間を投射したものだからではないのだろうか。II巻には参考文献がなんと500冊近く列挙されている。その中では全集なども一冊として扱われている。
 それでも出口さんが読んだ本のわずか5%でしかない。この膨大な知識と見識、そして世界1200以上の都市を旅したという体験と感覚が、言葉となって迸り出たのであろう。
 その結実として本書のなかで、読者はじつに歯切れの良い文章に出くわすことになる。
「中華思想とは、結局、漢字の魔力だったのです。漢字が広まって初めて周の歴史を読んだ人が、中華は立派であると勝手に思ってしまった」
「国家独自の異端審問制を確立したスペインの偏狭なイデオロギーが、スペインの経済を破壊したのです」
「産業革命がなぜグレートブリテンで起きたのか。それは産業革命が、インドのまねをすることから始まったからです」
 これらのじつに興味深い歴史的事実が断片としてではなく、前後左右上下に繋がって一冊の本に仕上がっているのだ。
 長年蓄えられていた横溢する知識を披露するいっぽうで、出口さんは少年時代にかえって歴史を紐解くこともする。中学生のときに、アレクサンドロス(大王)についての「一〇年間戦争をして、インダス川まで行きました」という記述を読み、10年も戦争していたら兵士もかなり減っていたはずなのに、どうやってインダス川で戦ったのだろうと不思議に思ったというのだ。
 多くの子供たちがテストのためのいわば雑学として聞き流していた史実を、あたかもその時代の当事者として受け止め、それを知るために何冊もの本を読み漁った出口少年は、ついに答えを見つけている。
 そこで本書のもう一つの読み方を提案しておきたい。本書は5部21章で構成されている。親と子が1章を1カ月かけてじっくり読むのはいかがだろうか。手元に世界地図を用意する。判らない言葉が出てきたらすぐに検索できるようにパソコンも準備する。その時代を背景とした映画を選んでおいてもよいだろう。親も少年時代にもどって、子どもと一緒に学ぶのだ。来年の秋には読み終えることができるだろう。やがて、子どもは出口少年のように素朴な疑問を持つかもしれない。その答えは未来を作る子どものなかにあるはずだ。

(なるけ・まこと 書評サイト〈HONZ〉代表)
波 2016年2月号より
単行本刊行時掲載

インタビュー/対談/エッセイ

歴史はたった一つ

出口治明

――まず本書のコンセプトになっている「5000年史」について教えてください。
 5000年史とは、文字が生まれてから現在まで続く、世界のたった一つの歴史を名づけたものです。歴史というと、東洋史、西洋史などと分けることが多いのですが、昔は国境などなくて、世界はつながっていました。だから歴史も世界全体を一つとして見るのが自然だと思います。
 また、なぜ5000年かというと、文字の誕生が5500~5000年前だからです。現生人類が誕生してからの20万年を人間の歴史とする考え方もあるのですが、文字のない時代は、たとえ物証があっても、すべては想像の世界です。一方、文字があるということは、そこには人間が生きて考えた証拠があるわけです。そうすると歴史ときちんと呼べるのは、やはり5000年ではないかと。

――本書を読んでいると、歴史の大きな流れがよくわかり、歴史的な事柄がなぜ起きたのかということも理解できます。
 僕は素人ですから、自分の学説があるわけではありません。この本に書いてある説は、すべて世界中の優れた学者が書いたものです。たくさんの本を読んで、腑に落ちたものだけを自分の言葉で書き直したという感じでしょうか。そのときに気をつけたのが整合性です。面白い学説を選んでいくと、それらが矛盾することはよくあります。そこを徹底して考え、整合性があり、納得できるものを書きました。

――たとえばどんなものがありますか。
 白鳳・奈良時代の日本には女帝が何人も登場しますが、その女帝たちを病弱な皇帝たちの中継ぎだったとする説と、中国に誕生した強力な女帝・武則天をロールモデルにしたとする考え方があります。どちらが正しいかというと、後者だと思います。なぜなら白鳳・奈良時代の政策の多くは、武則天の政策を真似しているからです。そうすると、武則天をロールモデルにして東アジアに女帝の時代が到来した、と考える方が整合的だし、納得できます。

――私たちの想像以上に世界が密接につながっていたことがわかるエピソードです。中東・イスラム史や中央ユーラシア史がしっかり書かれたことで、世界のつながりがより分かりやすくなっているのも本書の特徴ではないでしょうか。
 これまでの歴史学は、基本的に西洋史と東洋史が中心でした。しかし実はイスラム・中東などにもたくさんの文献があったのです。それらが翻訳され始めたことで、研究が飛躍的に進みました。だから僕たちが学んできた歴史とは、かなり違う歴史像が出てきています。

――交易や商業などビジネス的な観点からも歴史を見ているので、ダイナミックな動きが感じられます。
 ビジネスとは、もともとグローバルなものなのです。ビジネスは国よりも歴史が古いので。たとえば紀元前300年ごろのアショーカ王時代のインドには、ギリシャ人の使節が訪れています。紀元1000年の宋の都・開封には、ユダヤ人街がありました。ビジネスは儲かるからやっているのであって、それを国内と海外で区別する発想はなかったと思います。ちなみに奈良の平城京は、人口の七割が外国人だったという説があります。今よりずっとグローバルですよね。

――君主を経営者のように見ているところも面白かったです。
 衣食足りて礼節を知るといいますが、人間は動物なので、ご飯が食べられて、安全に眠れることが一番大事なのです。だから為政者の仕事は、まずはご飯を食べさせること。為政者たちはそういうリアリティが分かっていたと思います。
 会社の経営も同じですよね(笑)。給料が払えて会社が伸びていけば、みんなハッピーなので。小さなベンチャー企業でも、大企業でも、国の経営でも、そこは変わらないと思います。

――本書では歴史上の人物が、とても身近に感じられます。
 歴史に出てくる人間も、今の人間と一緒ですから。男性はきれいな女性が好きだし、女性はかっこいい男性に惹かれる。欲もあれば嫉妬もある。それがわかると歴史もだいぶ身近になるのではないでしょうか。人間の脳はこの一万年間、まったく進化してないと言われています。そうすると、今も昔も考えることは一緒です。喜怒哀楽もすべて一緒。人間はずっと昔から同じような事を考えてきたし、人間がこれまでやってきたことは形を変えて何度も再現されています。だから歴史は最良の教科書だと思います。先の見えない時代においては特にそうではないでしょうか。

(でぐち・はるあき ライフネット生命保険会長)
波 2016年2月号より
単行本刊行時掲載

どういう本?

タイトロジー(タイトルを読む)

「全世界史」という言葉はちょっと聞き慣れないかもしれません。普通、歴史は東洋史とか西洋史という形で勉強しますし、書店でもそのように棚が作られています。しかし、世界は本当に東洋と西洋に分かれているのでしょうか? 本書にはそういう予断をいとも簡単に反証してしまう例が満載されています。たとえば紀元前三百年頃のアショーカ王時代のインドには、遠くギリシャから通商使節が訪れていますし、紀元千年の宋の都、開封にはユダヤ人街があったそうです。インドにギリシャ人、中国にユダヤ人と聞くだけで、歴史ファンとしてはワクワクしてしまいます。

メイキング

本書は、出口治明さんが2017年末に会長職から退任したライフネット生命を起業する前に草稿を書き終えていたそうですので、構想から数えれば10年、まさにライフワークというべき作品です(当初は「小説5000年史」というタイトルだったそうです)。

装幀

上巻のカバーを飾るのはアケメネス朝ペルシャの首都ペルセポリスの遺跡の写真。この遺跡のハイライトはなんといってもペルシャ風スフィンクスで象られた「万国の門」(Gate of All Nations)。スフィンクスといえばエジプトですが、アケメネス朝の王カンビュセスがエジプトに遠征、支配したため、こうしてペルシャにスフィンクスが残っているのです。

東えりかさん「解説」より

 ビジネスマンから教育者へ、広い視野を持った出口さんの活躍の場はさらに増えていくだろう。私もお会いして話をするたびに蒙を啓かれ知識を得る楽しさを体感させてもらっている。
 本書によって初めて出口治明という人を知った人は幸いだ。彼を通じて歴史を知る醍醐味、本を読む喜び、そして知識を得る快感をさらに増やしてほしいと思う。(新潮文庫『全世界史 下巻』466ページ)

著者プロフィール

出口治明

デグチ・ハルアキ

1948(昭和23)年三重県美杉村生れ。立命館アジア太平洋大学学長。京都大学法学部を卒業後、1972年日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006(平成18)年に退職。同年、ネットライフ企画株式会社(現ライフネット生命保険株式会社)を設立。2017年会長職を退任。2018年より現職。旅と読書をこよなく愛し、訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊を超える。とりわけ歴史への造詣が深く、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では歴史の講座を受け持った。著書に『生命保険入門 新版』『仕事に効く教養としての「世界史」』『全世界史(上・下)』『座右の書 「貞観政要」』『「働き方」の教科書』『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇』などがある。

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