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全世界史 上巻

出口治明/著

724円(税込)

本の仕様

発売日:2018/07/01

読み仮名 ゼンセカイシ1
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-120772-8
C-CODE 0195
整理番号 て-11-2
定価 724円

著者プロフィール

出口治明 デグチ・ハルアキ

1948(昭和23)年三重県美杉村生れ。ライフネット生命保険株式会社会長。京都大学法学部を卒業後、1972年日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006(平成18)年に退職。同年、ネットライフ企画株式会社を設立し、代表取締役社長に就任。2008年4月、生命保険業免許取得に伴い現社名に変更。2013年より現職。旅と読書をこよなく愛し、訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊を超える。歴史への造詣が深く、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では歴史の講座を受け持った。著書に『生命保険入門 新版』『仕事に効く教養としての「世界史」』『「全世界史」講義 教養に効く!人類5000年史(I・II)』『50歳からの出直し大作戦』『人生の教養が身につく名言集』『座右の書 「貞観政要」』などがある。

書評

学びを超えた知的エンターテインメント

成毛眞

 のっけから著者に反論申し上げたいことがある。出口さんは「まえがき」で、「積み重ねられた歴史を学んで初めて、僕たちは立派な時代をつくれるのではないか」という。つまり本書は良き未来を創りあげるという目的のために、テキストとして読むことができると言っているように聞こえるのだ。
 たしかに歴史から学ぶべきこと、いや本書から学べることはあまりにも多い。それは歴史だけでなく、生き様や人間関係、組織経営に至るまで、読んでいて気付かされることが多いのに驚くばかりだ。
 しかし、本書は時代をつくるという崇高な目的のためだけのものではないように思われるのだ。いやそれ以上に、純粋に読む愉悦に浸ることができる本だと断言できる。これからの時代を考えることはひとまず脇に置いて、早く次のページを開きたいと思わせる本。本書は高度に知的なエンターテインメントでもあるのだ。
 本書を読むときのイメージは「人類5000年史」という名前が付けられた、一辺が100メートルほどの体育館のようなものがあって、その中をツバメになって自由に飛翔するという感覚が近いように思う。底面には世界地図、側面に5000本の年代ラインが描かれた巨大な立方体があり、空間には農政史、出版史、経済史などと名付けられたさまざまな色の帯が縦横無尽に舞っている。そしてその帯には重要な人名や制度などの短冊が無数に付けられている。その中を自由自在に、しかも高速で飛び回るという感覚だ。
 この感覚は本書が「ですます」体で書かれていることが鍵になっているからかもしれない。出口さんは京都大学で「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義を担当していたことがある。当時の参加者からお聞きしたところ、まったく何の参考文献も持たずに、きわめて詳細な歴史を、正確な数字をあげながら、じつに柔らかい口調で講義されていたという。語られる歴史に聞き入る前に、まずは講演者としての出口さんのすごさに唖然としたと教えてくれた。
 本書の持つ不思議な空間感覚は、まさに出口さんの頭脳の中の広大な空間を投射したものだからではないのだろうか。II巻には参考文献がなんと500冊近く列挙されている。その中では全集なども一冊として扱われている。
 それでも出口さんが読んだ本のわずか5%でしかない。この膨大な知識と見識、そして世界1200以上の都市を旅したという体験と感覚が、言葉となって迸り出たのであろう。
 その結実として本書のなかで、読者はじつに歯切れの良い文章に出くわすことになる。
「中華思想とは、結局、漢字の魔力だったのです。漢字が広まって初めて周の歴史を読んだ人が、中華は立派であると勝手に思ってしまった」
「国家独自の異端審問制を確立したスペインの偏狭なイデオロギーが、スペインの経済を破壊したのです」
「産業革命がなぜグレートブリテンで起きたのか。それは産業革命が、インドのまねをすることから始まったからです」
 これらのじつに興味深い歴史的事実が断片としてではなく、前後左右上下に繋がって一冊の本に仕上がっているのだ。
 長年蓄えられていた横溢する知識を披露するいっぽうで、出口さんは少年時代にかえって歴史を紐解くこともする。中学生のときに、アレクサンドロス(大王)についての「一〇年間戦争をして、インダス川まで行きました」という記述を読み、10年も戦争していたら兵士もかなり減っていたはずなのに、どうやってインダス川で戦ったのだろうと不思議に思ったというのだ。
 多くの子供たちがテストのためのいわば雑学として聞き流していた史実を、あたかもその時代の当事者として受け止め、それを知るために何冊もの本を読み漁った出口少年は、ついに答えを見つけている。
 そこで本書のもう一つの読み方を提案しておきたい。本書は5部21章で構成されている。親と子が1章を1カ月かけてじっくり読むのはいかがだろうか。手元に世界地図を用意する。判らない言葉が出てきたらすぐに検索できるようにパソコンも準備する。その時代を背景とした映画を選んでおいてもよいだろう。親も少年時代にもどって、子どもと一緒に学ぶのだ。来年の秋には読み終えることができるだろう。やがて、子どもは出口少年のように素朴な疑問を持つかもしれない。その答えは未来を作る子どものなかにあるはずだ。

(なるけ・まこと 書評サイト〈HONZ〉代表)
波 2016年2月号より
単行本刊行時掲載

インタビュー/対談/エッセイ

歴史はたった一つ

出口治明

――まず本書のコンセプトになっている「5000年史」について教えてください。
 5000年史とは、文字が生まれてから現在まで続く、世界のたった一つの歴史を名づけたものです。歴史というと、東洋史、西洋史などと分けることが多いのですが、昔は国境などなくて、世界はつながっていました。だから歴史も世界全体を一つとして見るのが自然だと思います。
 また、なぜ5000年かというと、文字の誕生が5500~5000年前だからです。現生人類が誕生してからの20万年を人間の歴史とする考え方もあるのですが、文字のない時代は、たとえ物証があっても、すべては想像の世界です。一方、文字があるということは、そこには人間が生きて考えた証拠があるわけです。そうすると歴史ときちんと呼べるのは、やはり5000年ではないかと。

――本書を読んでいると、歴史の大きな流れがよくわかり、歴史的な事柄がなぜ起きたのかということも理解できます。
 僕は素人ですから、自分の学説があるわけではありません。この本に書いてある説は、すべて世界中の優れた学者が書いたものです。たくさんの本を読んで、腑に落ちたものだけを自分の言葉で書き直したという感じでしょうか。そのときに気をつけたのが整合性です。面白い学説を選んでいくと、それらが矛盾することはよくあります。そこを徹底して考え、整合性があり、納得できるものを書きました。

――たとえばどんなものがありますか。
 白鳳・奈良時代の日本には女帝が何人も登場しますが、その女帝たちを病弱な皇帝たちの中継ぎだったとする説と、中国に誕生した強力な女帝・武則天をロールモデルにしたとする考え方があります。どちらが正しいかというと、後者だと思います。なぜなら白鳳・奈良時代の政策の多くは、武則天の政策を真似しているからです。そうすると、武則天をロールモデルにして東アジアに女帝の時代が到来した、と考える方が整合的だし、納得できます。

――私たちの想像以上に世界が密接につながっていたことがわかるエピソードです。中東・イスラム史や中央ユーラシア史がしっかり書かれたことで、世界のつながりがより分かりやすくなっているのも本書の特徴ではないでしょうか。
 これまでの歴史学は、基本的に西洋史と東洋史が中心でした。しかし実はイスラム・中東などにもたくさんの文献があったのです。それらが翻訳され始めたことで、研究が飛躍的に進みました。だから僕たちが学んできた歴史とは、かなり違う歴史像が出てきています。

――交易や商業などビジネス的な観点からも歴史を見ているので、ダイナミックな動きが感じられます。
 ビジネスとは、もともとグローバルなものなのです。ビジネスは国よりも歴史が古いので。たとえば紀元前300年ごろのアショーカ王時代のインドには、ギリシャ人の使節が訪れています。紀元1000年の宋の都・開封には、ユダヤ人街がありました。ビジネスは儲かるからやっているのであって、それを国内と海外で区別する発想はなかったと思います。ちなみに奈良の平城京は、人口の七割が外国人だったという説があります。今よりずっとグローバルですよね。

――君主を経営者のように見ているところも面白かったです。
 衣食足りて礼節を知るといいますが、人間は動物なので、ご飯が食べられて、安全に眠れることが一番大事なのです。だから為政者の仕事は、まずはご飯を食べさせること。為政者たちはそういうリアリティが分かっていたと思います。
 会社の経営も同じですよね(笑)。給料が払えて会社が伸びていけば、みんなハッピーなので。小さなベンチャー企業でも、大企業でも、国の経営でも、そこは変わらないと思います。

――本書では歴史上の人物が、とても身近に感じられます。
 歴史に出てくる人間も、今の人間と一緒ですから。男性はきれいな女性が好きだし、女性はかっこいい男性に惹かれる。欲もあれば嫉妬もある。それがわかると歴史もだいぶ身近になるのではないでしょうか。人間の脳はこの一万年間、まったく進化してないと言われています。そうすると、今も昔も考えることは一緒です。喜怒哀楽もすべて一緒。人間はずっと昔から同じような事を考えてきたし、人間がこれまでやってきたことは形を変えて何度も再現されています。だから歴史は最良の教科書だと思います。先の見えない時代においては特にそうではないでしょうか。

(でぐち・はるあき ライフネット生命保険会長)
波 2016年2月号より
単行本刊行時掲載

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