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向日葵の咲かない夏

道尾秀介/著

880円(税込)

発売日:2008/07/29

  • 文庫
  • 電子書籍あり

読み逃がすな! 新たな神話が、ここにある。最注目作家が描く、もう一つの夏休み。

夏休みを迎える終業式の日。先生に頼まれ、欠席した級友の家を訪れた。きい、きい。妙な音が聞こえる。S君は首を吊って死んでいた。だがその衝撃もつかの間、彼の死体は忽然と消えてしまう。一週間後、S君はあるものに姿を変えて現れた。「僕は殺されたんだ」と訴えながら。僕は妹のミカと、彼の無念を晴らすため、事件を追いはじめた。あなたの目の前に広がる、もう一つの夏休み。

書誌情報

読み仮名 ヒマワリノサカナイナツ
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫、電子書籍
判型 新潮文庫
頁数 480ページ
ISBN 978-4-10-135551-1
C-CODE 0193
整理番号 み-40-1
ジャンル ミステリー・サスペンス・ハードボイルド、文学賞受賞作家
定価 880円
電子書籍 価格 693円
電子書籍 配信開始日 2008/09/12

書評

夢中で読んだ3冊

いまみちともたか

 嫌なことや辛い目にあった際の心の避難先を、音楽としている人は多いと思う。子供の頃の自分がまさにそうだった。よっぽど肌に合ったのか、いつのまにか、その“音楽”を作り、送り出す側になっていたりして。
 実業の世界との関わり抜きでは成り立たないことは流石にわかってきたけれど、正直いうとビジネス然としたやりとりはいまだに少々苦手だ。“こと”が終わると毎度グッタリしている。そんなときの気分転換に最適なのが読書。小説に、“ここではない何処か”に連れていってもらい、物語の世界でしばらく遊べば、ストレスも消えていく。というわけで、俺の好きな新潮文庫を紹介します。

道尾秀介『向日葵の咲かない夏』
 ある夏、「裏切りやがってコノヤロー」という事件が起き、気分が思い切りささくれだった。おまけにエアコンまで壊れてしまい軽い熱中症状態に。こりゃもうダメだ、と冷房がギンギン(その当時はね)の大型書店に避難した。平積みされ目立っていたのが、この本。

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 いつも、目星を付けた数冊のそれぞれ出だしの数行をちらっと読んで、肌に合いそうか、そうじゃないかを判断して買っている。これはのっけから“油蝉の声~”だもの。その日の気分にぴったりで即購入した。
『向日葵の咲かない夏』は実際、ヤバい雰囲気に溢れていた。どちらかといえば不快なのに、なぜか惹き込まれ、エアコンの壊れた部屋で汗だくで一気読み。超面白い。
 この作品で知って以降、道尾秀介ファンになったのに、全編を覆うムードが強烈すぎて、『向日葵の咲かない夏』だけは再読を躊躇しているほど。パンチ、きいてます。

阿部和重伊坂幸太郎キャプテンサンダーボルト 新装版
 伊坂幸太郎は贔屓の作家で、ほとんどの作品を読んでいる。合作をするという告知を見た時から待ち遠しくて、珍しくハードカバーで発売日に購入し、ひと晩で読んでしまった。その後、店頭で新装文庫版を発見。早速ゲットして再読。書き下ろしの短編と合作の経緯にも触れた二人の対談も載っていて、大満足。

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 この作品、伊坂氏特有の“最初の設定からして荒唐無稽”ってテイストは特に主要キャラに顕著だけど、彼らが動き回る社会の状況や世情は、いつもより少しだけシリアスに描写されている。阿部氏の持ち味が反映されているのかも。二人が執筆を開始したのは、東日本大震災の後らしいけれど、コロナ禍や露ウ戦争の起こった“いま”を観た二人が、時を遡って書いたのじゃないかと思えるくらいリアルな世界観に興奮。痛快です。

アーヴィング『ガープの世界』(上・下)
 先に映画を観て、気に入っていた。原作があると知り、文庫本を購入して読んだ。ひとつひとつの出来事は相当ぶっ飛んでいる。だけど、ラストに“どんでん返し”を求める傾向が強まるより前の時代の作品だからなのか、意外なくらい、物語自体は淡々と進む。前述二作のようにひと晩で読み切るよりも、少しずつ読み進めて楽しむのに向いている。とはいえ一旦ハマると、「今日はここまでにしよう」と思っていても、「次は何が起こるんだろう」と気になり、つい次の頁に進みたくなってしまうはず。“鑑賞ペースは、あくまでも読者が決められる”という利点は、小説ならではで、自分は上下巻で一週間楽しんだ。

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 子供の頃、“大人”は自分らの好きな漫画や番組を楽しむことも面白がることもない、と信じていた。それらを作った者こそ彼らなのだとは思いつかなかったのだ。“大人”といわれる年齢に至ってから、気になりだしたことがある。
 諸外国の紛争原因や、政府が打ち出す諸々の政策の理由や根拠。なんか“でっちあげ方”が雑で、「嘘つくにしても詰めが甘い」と感じることないですか? 嘘がバレたときの開き直りや、放置っぷりにモヤモヤすることも増えた。
 代々、国や集団の親玉には聡明で優秀なブレーンが居て、彼らの意見を取り入れてきたそうな。ブレーンの読んだ小説が助言の発想の元ネタになる可能性もある。拍手喝采をしたくなる見事な伏線回収と、“粋”に収まる見事なオチ。そんな世の中にならないかな。“どんでん返し”はなしでいい。
 書かれた時期も場所も違うのに、どことなく現在の世情とリンクした三作を紹介しました。カオスな世の中をサバイブする為にも、疲れたときは音楽と小説でリフレッシュを!

(いまみち・ともたか ギタリスト/ソングライター)
波 2023年5月号より

著者プロフィール

道尾秀介

ミチオ・シュウスケ

2004(平成16)年『背の眼』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞し、デビュー。2007年『シャドウ』で本格ミステリ大賞、2009年『カラスの親指』で日本推理作家協会賞、2010年『龍神の雨』で大藪春彦賞、『光媒の花』で山本周五郎賞、2011年『月と蟹』で直木賞を受賞。ほかの作品に、『向日葵の咲かない夏』『片眼の猿』『ノエル』『貘の檻』『透明カメレオン』『いけない』『N』『きこえる』、犯罪捜査ゲーム『DETECTIVE X』などがある。

道尾秀介オフィシャルサイト (外部リンク)

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道尾秀介
登録
ミステリー・サスペンス・ハードボイルド
登録
文学賞受賞作家
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