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人は満ち潮どきに生まれ、引き潮どきに死ぬ? 亡き面影に謂れをたどるミステリアスな最新短篇集。

逆事

河野多惠子/著

1,620円(税込)

本の仕様

発売日:2011/05/31

読み仮名 サカゴト
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 190ページ
ISBN 978-4-10-307810-4
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 1,620円
電子書籍 価格 1,296円
電子書籍 配信開始日 2011/11/25

人の生死は潮の満ち引きに同調すると、子ども時分に聞かされた。引き潮どきに逝った谷崎潤一郎。いわれに逆らうように「満ち潮どき」の死を択んだ三島由紀夫。相次いで逝った父と母、戦没した息子を思いつづけた伯母の死は……。亡き面影をたどり、生と死の綾なす人間模様を自在な筆致で描きだす「逆事」ほか珠玉の全五篇。

著者プロフィール

河野多惠子 コウノ・タエコ

(1926-2015)1926(大正15)年、大阪生れ。大阪府女専(大阪女子大学)卒。〔文学者〕同人になり、1952(昭和27)年、上京。1961年「幼児狩り」で新潮社同人雑誌賞、1963年「蟹」で芥川賞を受賞。著書に、『不意の声』『谷崎文学と肯定の欲望』(共に読売文学賞)、『みいら採り猟奇譚』(野間文芸賞)、『後日の話』(毎日芸術賞、伊藤整賞)、『秘事』『河野多惠子全集』など。日本芸術院会員。文化功労者。

目次

いのち贈られ
その部屋
異国にて

逆事

インタビュー/対談/エッセイ

波 2011年6月号より 【『逆事』刊行記念インタビュー】小説のなかの「本当のこと」

河野多惠子

人は満ち潮で生まれ、干き潮で死ぬという――幼いころ知った謂れを手がかりに、先に逝った人びとの面影を辿る表題作「逆事」をはじめ、ミステリアスな五篇を収める短篇集がこのほど刊行になります。

――『逆事』にはほぼ一年ごとに書かれた五つの短篇が発表順に収められています。日常の小さな変事が描かれ、一冊にまとまるとそれぞれが有機的につながって読めました。
河野 とくに意識はしなかったけれども、私はもともとミステリアスなものを読むのも書くのも好きですから、そういうつながりはあるかもしれませんね。
――表題作の「逆事」はなかでも強い印象を残します。三島由紀夫をはじめとする作家たち、みずからの家族、また戦死したわが子への強い思いを持ち続ける伯母ら思い出深い人たちの面影と、それぞれの死が語られます。作中、「人は満ち潮どきに生まれ、干き潮どきに亡くなるという」とお書きになっていますが、その流れが逆になる死が「逆事」の意味するところでしょうか。
河野 三島さんがああいう亡くなり方をしたとき、私は何よりもまず、死亡時刻が満ち潮か干き潮かを調べたんです。谷崎潤一郎、佐藤春夫のお二人にしても干き潮で亡くなっています。だけど三島さんは、やっぱり違っていましたね。満ち潮のただなかで亡くなっていました。どんなことも自分で択びとる三島さんでも、さすがにあの状態でそこまで考えるのは不可能でしょう。でもそういう生命と宇宙との関係が私は面白いと思ったんです。
「逆事」とは、さかさまのこと。満ち潮で死ぬのも逆事ですし、親より子供が先に死ぬ、いわゆる逆縁もまた逆事です。
――この作品では幽霊を書いてみたい気持ちもあったとか。
河野 ありましたね。
――「逆事」にも本書の冒頭に収められた「いのち贈られ」にも、夢の中に死んだ人が出てきて口をきいたら、その人は生まれ替わっている、という言い伝えが出てきます。不思議なリアリティーを感じる挿話です。
河野 これも小さいころから聞いていることですよ。大阪では昔から言われていることじゃないかしら。私自身が人間は生まれ替わると信じているわけではありませんけどね。

  ひとつは本当のことを入れる

――三つの短篇に河野さんご自身を思わせる作家が登場しますが、家族関係など設定がいろいろと異なり、そのねじれを面白く感じました。
河野 この中でいちばん実際に近いのは「異国にて」です。短篇長篇にかかわらず、私は自分のことをそのまま書くことはあまりありません。けれども、どの作品にもひとつはありのままの話を入れる。ごく小さいことでも、そうすると話全体の活きが違ってきます。
事実そのままではないけれど、「逆事」に書いたことでは、家から近い靖國神社で戦死者の遺書や家族へのたよりを集めた本を読んだというのは実際にあったことです。宗教心はとくにありませんが、英霊のご両親方ももう亡くなっているでしょう。せめて私ぐらいの年代の者が読んで覚えておこうと。
一番心に残っているのは「僕は唱歌が下手でした」という遺書。「きやうだいみんな下手でした……唱歌の時間は泣きながら 歌へば皆も先生も 笑つて『止め』と言ひました」。この方は出征してから十二年、日本に帰還することなく、ジャワで三十二歳で法務死されています。「冷たい風の獄の窓 虫の音聞いて月を見て 母さん恋しと歌つたら 皆が泣いて聞きました/僕のこの歌 聞いたなら 頬すり寄せて抱き寄せて 『上手になつた良い子だ』と 誉めて下さることでせう」と。異国で刑死されたことが殊にお気の毒です。
――そのことが、靖国神社に泊まって戦死した息子に夢でひとめ会いたいという、「逆事」のなかの母親の思いにつながっていくんですね。実際の経験が小説の核にある。
河野 嘘が書いてあるとすぐわかりますもの。今でも小説で新幹線に乗る場面があれば、東京駅まで行きますよ。

  言わない、知らせない

――「緋」という作品は、「性」がテーマになっています。
河野 「新潮」と、中国、韓国の文芸誌が共催するプロジェクトの一環として書いたものですね。
――一挙掲載された各国の六作品中、「性」がもっともくっきり描かれているように思いました。「緋」も、それから今回収録された「その部屋」「異国にて」でも、最後の一節が全体の色彩を変えるほどの強い効果を持っています。偶然ですがこの三作では、「言わない」「知らせない」といった引き算の行為が日常に小さな裂け目を作ります。
「異国にて」で、アメリカの大学の学会に招かれた「私」が、夜、たまたまひとりでゲストハウスに残されかけたとき、警報機が鳴り出す。火事か強盗か――というときに、男子学生に「ぜひここに泊まってくれ」と言いますね。
河野 泊まるには許可がいる。その係りの人はもう帰ってしまっていて、学生は結局泊まってはくれなかったけれど、泊まってもらおうとしたことを夫に言いかねるんです。
「緋」で、夫が海外出張から帰ってくる。留守中に泥棒が入ったとか、大変なことがあったら、若い奥さんならすぐ言いたいでしょうけど、いい年をした妻なら、疲れて帰ったんだからもう少しあとでと思うはずです。そうすると、変事の際に助けてもらった人とマンションで偶然出会っても夫はそうと知らなくて……とそういう小さなすれ違いが起きてくるものなんです。

  出会うべくして出会う

――「その部屋」に「鉄筋コンクリートの大きな集合住宅で暮らしていると、感受性まで無機めいてくるのか」とあるのに共感しました。「十一階建のマンションの三階」「四十二階建のアパートの二十二階の部屋」など空間の正確な描き方も記憶に残ります。
河野 場所によって見えるものすべて変わってきますからね。私は今のマンションに住んで四十年になりますけど、長いことマンションの話は書きませんでした。小説のエピソードには実際にうちのマンションで起きたこともあります。面白い話はもっといろいろあるけど、全部書いたら出ていかないといけなくなる(笑)。
――「人間に対する認識の絶えざる更新が必要」とかつて書かれたことがあります。人間のとらえ方は今も刻々、変わっていますか。
河野 意識してつとめて、ということはないですけど、今もはっとするようなことありますよ。それと、やっぱり私は自分の読むべきものとは自然に出会っています。聴くべき音楽とも自然に出会っていると思います。人についてもそう。
――コンスタントに新作を発表されていますが、一方で短篇は年をとると難しいとおっしゃったことがあります。
河野 短篇は瞬発力なんです。長篇のほうが体力がいるみたいですけど、長篇は持久力、持続力。体力の質が違います。瞬発力は、年齢とともに減るらしい。年をとって書かれた短篇の名作はあまりないと思います。
私も高齢にはなったけれど、いやまだそちらへ引っ張らないでくれとがんばってるのよ、どんなに足が痛くても(笑)。瞬発力がなくなったら短篇は書かないでしょう。早く完成させたい長篇も抱えています。短篇と長篇、書き上げたときの気分にはそれぞれちがった良さがありますから、長篇を書き上げたときの気分に浸りたくなってもいるのですが……。

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