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貴子(きこ)と永遠子(とわこ)。ともに過ごした葉山の夏の日から25年――。恐るべき新鋭による瞠目の芥川賞受賞作! 

  • 受賞第144回 芥川龍之介賞

きことわ

朝吹真理子/著

1,296円(税込)

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発売日:2011/01/26

読み仮名 キコトワ
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 142ページ
ISBN 978-4-10-328462-8
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品、文学賞受賞作家
定価 1,296円
電子書籍 価格 1,037円
電子書籍 配信開始日 2011/07/01

葉山の高台にある別荘で、幼い日をともに過ごした貴子と永遠子。ある夏、とつぜん断ち切られた親密な時間が、25年後、別荘の解体を前にしてふたたび流れはじめる。ふいにあらわれては消えてゆく、幼年時代の記憶のディテール。やわらかく力づよい文体で、積み重なる時間の層を描きだす、読むことの快楽にみちた愛すべき小説。

著者プロフィール

朝吹真理子 アサブキ・マリコ

1984(昭和59)年、東京生れ。2009(平成21)年、「流跡」でデビュー。2010年、同作でドゥマゴ文学賞を最年少受賞。2011年、「きことわ」で芥川賞を受賞した。

書評

波 2011年3月号より 渋い。痺れる。

町田康

インタビュー取材を受けていて、小さいときはどんな子供でしたか、と訊かれ、咄嗟に答えが思い浮かばず、ええっと、あのお、普通の子供でした。と言うなどしてアホと思われたことが何度もある。
とはいうものの、こっちもまるっきりのアホではないので、どういうことを言えばアホと思われないですむかはわかる、すなわち、私は歌手をやっていたことがあるので、歌が好きな子供でした、とか、こんなことをして文章を書いたりするので、本を読むのが好きな子供でした、とか言えば筋褄が合い、アホと思われないですむのである。
それがわかっていながらそう答えられないのは、人に問われてではあるが、いま自分がいる場所からかつての自分を眺めるとき、歌と読書が好き、という風に大掴みに自分を捉えられないからである。
また、歌と読書が好き、というのも、そういえばそうだったのかも知れないが、それはいま現在の状況から逆算し、たまたま歌を歌っていて近所のおばはんに称賛されたのをことさら思い出したり、ただ、本を読んで過ごしたある日のことをたまたま思い出して、そういうことにしたに過ぎないかも知れない。
そして、もっと考えてみると、そういう粗い捉え方からはみ出る、というより、まったく無関係なことが無数にあって、しかもそれらは断片的で、なかには粉々に砕けてしまっているものもあり、拾い集めることもできないし、仮に一部を拾い集めたとしても、インタビュアーが納得するような、一定のある形にはけっしてならない。
しかし、そういう風に考えるのは恐ろしいことで、別にインタビューを受けなくても、自分はこんな子供で、こんな風にして生きてきて、その結果、いま現在、ここにいる、と粗く決めておかないと、自分の人間としての脈絡に自信が持てなくなり、下手をすると気がおかしくなってしまう。
なので人は記憶を大胆に整理して自身の脈絡と現実を保っているが、しかし記憶も黙って整理されている訳ではなく、整理された記憶、言い換えれば、殺された記憶は夢という形で蘇る。
ただまあ、それは所詮は夢であって、痴人、夢説く、と言い、また、なにを夢で屁ぇこいたようなこと吐かしとんねん、などと言うように、そんなものに拘泥していたら過酷な現実を生きていかれないと思われている。
しかしそうした夢があるからこそ現在が粉々になった過去によって侵蝕されないで済んでいるのであり、脈絡ある人間の現実は、整理された記憶と夢によって守られている。
その場合、大事なのは、右にも言うように、記憶と夢は現実を侵してはならないということで、自分は、この三者の調停者としてこの三者を峻別することによって、自分であり続けることができるのである。
『きことわ』はそうして、そういうことにしないと困るので一応そういうことにしている夢と記憶と現実を、実際の、というと奇妙だけれども、よくよく感じてみるとこう感じていた、みたいな実際の感じ、に基づいて書かれた奇跡的な小説であると思った。誰が。俺が。
なんかしとんじゃ、小説に奇跡があるかれ。然り。この小説を成り立たせているのは奇跡ではなく、時間そのもの、音楽そのものであるような、この小説の文章である。音楽について書くのではなく、言葉が言葉そのものの意味とは別に音楽のような意味をもって連なり、言葉のなかに時間の風が吹く。
いままでこんなことをやった人がありますか。と、俺はあの懐かしい田中角栄の口調で言ってしまう。俺は田中角栄にはなっていかないが、この本を読んだことで私はもはや整然とした記憶を失い、人格の脈絡を失い、パウダーみたいになってしまって、それがたのしい。
その、実際の感じ、を怪異として現実から隔てずに書くと、普通はそれ自体が怪異として隔てられるか、自ら隔ててしまうのだけれども、そうなっていない。
いたるところで、ばしっ、と決める手際が渋い。痺れる。酔う。死ぬ。なくなる。

(まちだ・こう 作家)

判型違い(文庫)

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