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地球は、壊れやすいエアに包まれた、小さな天体なのだ。2010年春から2011年春。特別な一年の記録。

小さな天体―全サバティカル日記―

加藤典洋/著

2,376円(税込)

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発売日:2011/10/31

読み仮名 チイサナテンタイゼンサバティカルニッキ
雑誌から生まれた本 考える人から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 410ページ
ISBN 978-4-10-331211-6
C-CODE 0095
ジャンル エッセー・随筆、ノンフィクション
定価 2,376円
電子書籍 価格 1,901円
電子書籍 配信開始日 2012/04/06

アイスランドの火山灰から福島第一原発の放射能まで。地球がいかに小さな天体であるか、改めて知らされたこの一年。春夏はデンマークのコペンハーゲン、秋冬はアメリカ西海岸サンタバーバラに暮らし、帰国したのは「震災後」の日本だった――。見ること、考えること、人とともに生きることを積み重ねた、サバティカルの全記録。

著者プロフィール

加藤典洋 カトウ・ノリヒロ

1948年、山形県生まれ。文芸評論家。東京大学文学部卒業。著書に『アメリカの影―戦後再見―』、『言語表現法講義』(新潮学芸賞)、『敗戦後論』(伊藤整文学賞)、『テクストから遠く離れて』『小説の未来』(桑原武夫学芸賞)、『村上春樹の短編を英語で読む1979~2011』『3.11死に神に突き飛ばされる』『小さな天体―全サバティカル日記―』ほか多数。共著に鶴見俊輔・黒川創との『日米交換船』、高橋源一郎との『吉本隆明がぼくたちに遺したもの』ほか。

書評

波 2011年11月号より その後を支える日々

堀江敏幸

二〇一〇年四月から翌年三月末日まで、著者はサバティカル休暇を得て、国外で過ごした。前半をデンマークのコペンハーゲンで、後半をアメリカはカリフォルニア州のサンタバーバラで。本書は、その一年間の生活に、帰国後の二ヶ月の日々の記録を組み合わせて成ったものである。
生活の細部と精神の切っ先の緊張を結ぶ、その思索の呼吸をより深くするために、まず言語の通じない国に身を置くことにしたのは正解だったろう。日常の言葉を奪われた場所では、ほんのわずかな理解の酸素が、ふだんの何倍も濃く感じられる。スーパーやお店でのやりとり、タクシー運転手や旅先の宿の人との会話。具体的なひとことふたことが、窒息しかかった身体に空気を送り込み、抽象的な思考の精度を高めていく。
一読印象に残るのは、奥様であるAさんの存在だ。長いあいだの共同生活のなかで培われてきた、どこか初々しささえ漂う「ふたりでいること」の呼吸が、コペンハーゲンでの日々を支えている。夫には実生活上の「穴」が多い。財布をすられて、クレジットカードどころか免許証もなくす。鞄をレストランに忘れる。旅先で道に迷う。空港から荷物が、書き上げた原稿がパソコン上から消える。訪ねるべき土地の名をまちがえる。そんな度重なる失敗にも動じることなく、Aさんはいつも不思議にあたたかい空気の層を張り巡らしている。共においしいものを食べ、おいしい酒を飲む。その記述の、なんと生き生きとして楽しげなことか。遠出を楽しみ、日々の会話に喜びを見出す人が身近にいて、言葉が文章になり、記述にも硬軟のリズムが生まれる。それは舞台をサンタバーバラに移してからも変わらない特徴だ。
米国の受け入れ先では、すぐれた日本文学者の導きを得て、著者はより広くより深い言葉の異郷に入って行く。今後の仕事の柱となるブリューゲルについての考察を進め、英訳を通じて日本の古典文学に開眼し、Jポップの魅力を再発見する。そして、新しい文学と未知の音楽に耳ばかりでなく、心を開く。自著『敗戦後論』に対する米国での批判に、英語で本格的な反論を試みる気になったのも、こういう思索の持続があってのことだ。
旺盛な仕事を後押しし、さまざまな情報を提供してくれるのは、劇的な進化を遂げたインターネット環境である。いまや「国外にいること」の意義が、表面的な情報レベルにおいてはほぼ意味をなさなくなり、既存のメディアから洩れたもの、そしてメディアが隠蔽していると思われるものまで、一瞬にして手に入るようになった。活字で育った人が、SkypeやKindleを暮らしのなかに異和感なく取り入れているのも、この滞在記の特徴だろう。しかし、どれほどインフラが整備されても、思索に不可欠な気力と知力は、ひとりひとりが手間暇を惜しまず磨いていかなければならない。むしろ、個の闘いよりは重要性を増してきている。
その事実を浮き彫りにしたのが、海外生活十二ヶ月目に日本で起きた大震災による津波と原発事故だった。歴史的な天災と人災が発生したとき国外にいたのは、また、その直前にアメリカの大学で核によって生まれた「ゴジラ」の意味について論じていたのは偶然ではあるけれど、これは書き手としての運命だったと言ってもいい。「補遺」に入ると言葉の質が固くなり、文章の色に灰が混じりだす。そこには、著者が山形、奥様が仙台の出身ということも、まちがいなく関係している。
滞在記の最後に立ち上がるのは、「戦後」について考えながらも、平和利用を装った核が兵器よりも獰猛な顔を持っている事実を、正面から受け止めていなかったという後悔と、それを乗り越えるための静かな決意である。だからこそ、三月十一日までの日々が、愉しいだけの記憶ではなく、今後の批評行為の糧にしうる希望の光を放ちはじめるのだ。たとえそれがどんなに細い光であったとしても。

(ほりえ・としゆき 作家)

目次

コペンハーゲン日記 2010年3月30日~9月17日
サンタバーバラ日記 2010年9月17日~2011年3月30日
帰国日記 2011年3月31日~5月31日
あとがき

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