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あふれる本をどうにかしたい、実家の思い出を残したい――。

書庫を建てる―1万冊の本を収める狭小住宅プロジェクト―

松原隆一郎/著、堀部安嗣/著

2,052円(税込)

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発売日:2014/02/28

読み仮名 ショコヲタテルイチマンサツノホンヲオサメルキョウショウジュウタクプロジェクト
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 222ページ
ISBN 978-4-10-335291-4
C-CODE 0052
ジャンル 建築、住宅建築・家づくり
定価 2,052円

“イエ”の歴史そのものである祖父の半生を遡りながら新たな“家”を建てる――気鋭の建築家に思いを託し、たった8坪で始まった家づくり。土地探しから竣工まで、その過程を施主と建築家、それぞれの立場から描いたドキュメント。施工の詳細や図面など図版多数。小説家・ 松家仁之による書庫訪問記も収録。

著者プロフィール

松原隆一郎 マツバラ・リュウイチロウ

社会経済学者。東京大学大学院総合文化研究科教授。1956年、兵庫県神戸市生まれ。東京大学工学部都市工学科卒、同大学院経済学研究科博士課程単位取得退学。著書に『消費資本主義のゆくえ』(ちくま新書)、『分断される経済』(NHKブックス)、『日本経済論』(NHK出版新書)、『ケインズとハイエク』(講談社現代新書)、『失われた景観』(PHP新書)など。

堀部安嗣 ホリベ・ヤスシ

建築家。京都造形芸術大学大学院教授。1967年、神奈川県横浜市生まれ。筑波大学芸術専門学群環境デザインコース卒業。益子アトリエにて益子義弘に師事。1994年、堀部安嗣建築設計事務所を設立。2002年、〈牛久のギャラリー〉で吉岡賞受賞。主な作品に〈南の家〉〈由比ガ浜の家〉〈市原の家〉など。著書に『堀部安嗣の建築 form and imagination』(TOTO出版)。

書評

波 2014年3月号より 記憶と鎮魂の場としての書庫

田中真知

父が亡くなったあとに見つけた古いアルバム。そこにまじっていた船の進水式の写真。写っていた祖母らしき女性。しかし、それ以上くわしいことはわからない――。
「この写真が何なのかを知らないということは、『イエ』の由来が分からないということ……家屋としての『家』は相続しても、『イエ』の歴史や記憶は引き継いでいないのです」
まるで小説のようにはじまる本書は、施主である社会経済学者の松原隆一郎さんと建築家の堀部安嗣さんが阿佐谷にユニークな書庫を建てるまでのドキュメントである。
書庫をもつことは俗に男のロマンとも呼ばれるが、松原さんにとって書庫の建設は、たんに一万冊の本の収納の場をつくることにとどまらなかった。思い出のつまった実家は阪神淡路大震災で全壊。その後父が再建した家には過去の記憶の手がかりは見出せなかった。モノとしてのイエの喪失は、著者のアイデンティティのありかともいうべき「記憶」の危機でもあった。その記憶をどのようにして救済し、引き継いでいけるのか。それが書庫建設のもうひとつの重要なモチーフだった。つまり、そこは書物を通した知的生産の場であるとともに、祖父の仏壇をはじめとした過去の思い出を納める鎮魂の空間でなくてはならなかった。
一見矛盾するかに見えるこみいった施主の希望を形にするにあたって堀部さんが最終的に考えたのは、きわめて奇抜なプランだった。それは地下から地上2階にいたる円筒形の吹き抜けの空間をコンクリートでつくり、その壁を本棚で覆い、その一角に仏壇を安置し、まわりにらせん階段をめぐらすというものだった。
完成された書庫を筆者も訪ねたことがある。写真で見るかぎり、けっして広くはないし、これが本で埋め尽くされていたら圧迫感があるのではないかと思った。でも、実際に身を置いてみると、予想に反して、はるかにゆったり感じられる落ち着く空間だった。時の止まったようなこの落ち着きや不思議な静けさはなんだろう。
そのとき思い出したのは、以前訪ねたアレクサンドリアに残るローマ時代の地下共同墓地だった。円筒形の空間をらせん階段で地下へ降りていくという構造が似ているばかりではない。この場所を包み込む気配には、あの古代の死者たちの家にただよっていた静けさと同質のものが感じられた。古代の墓地は密閉空間ではなく、ひとがしばしば入って供物を捧げたり、死者と対話をするための場所でもあった。そこでは時が歩みを止め、生者と死者が自由に言葉を交わす。
じつは本を読むという行為にもそれに通じるものがある。とくに古代において書物とはほとんどの場合、死者の言葉だった。本を読むとは死者の言葉に耳を傾けることだ。だとすれば、この書庫全体にしみわたる不思議な静けさも納得がいく。
のちに本書を読んで、堀部さんがこの書庫の設計と並行して、高知のお寺の納骨堂の設計も手がけていたと知った。「阿佐ヶ谷書庫と納骨堂を同時期に設計しているときには、この二つの計画の“違い”を感じていた。……しかし、こうして二つの建築が完成し、冷静に考えてみると、潜在的には同じテーマを追求してきていたのだ」と堀部さんは書いている。
「家屋としての『家』は相続しても、『イエ』の歴史や記憶は引き継いでいない」という松原さんの言葉のように、現代の日本ではイエについても、街並みについても、その記憶は引き継がれるどころか、上書きされる一方だ。街を歩いていても、それまでの土地の記憶とは縁もゆかりもない建物や街並みが次々とつくられ、以前そこになにがあったかすら思い出せないこともしばしばだ。その行く末に広がる風景を想像すると寒々しい気持ちにならざるをえない。
いつの時代も、世界のどの場所でも、この世に豊かさをもたらしているのは死者である。書庫を建てるとは、彼らの声なき声に耳を傾ける場所をつくる、ということにほかならないことを、この本は教えてくれる。

(たなか・まち 作家・翻訳家)

目次

記憶のたたずまい 松家仁之
はじめに
家を建てるわけ 2008.09―2011.06
松原隆一郎 家の来歴 戦前
松原隆一郎 家の来歴 戦後
松原隆一郎 家を継ぐ
松原隆一郎 実家を売却する
松原隆一郎 書庫と仏壇の家を探す
堀部安嗣 依頼を受ける
どんな家を建てるのか 2011.06―2012.05
松原隆一郎 阿佐ヶ谷の土地柄
松原隆一郎 堀部建築との出会い
堀部安嗣 施主との出会い
堀部安嗣 ふたつの目[コラム]
松原隆一郎 住み手から見た堀部建築
松原隆一郎 どんな書庫住宅を望むか
堀部安嗣 初期プラン
堀部安嗣 第二プラン
松原隆一郎 仰天の最終プラン
堀部安嗣 最終プラン
堀部安嗣 墓[コラム]
堀部安嗣 プレゼン
堀部安嗣 実施設計
堀部安嗣 図書館[コラム]
建ち上がる家 2012.05―2013.03
松原隆一郎 施工会社の奮闘
堀部安嗣 工務店探し
堀部安嗣 着工
松原隆一郎 職人の仕事
堀部安嗣 施工プロセス
松原隆一郎 建ち上がる書庫と仏壇の家
堀部安嗣 竣工
堀部安嗣 記憶[コラム]
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