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その種類400以上、創業1560年。庖丁こそ、和食である。

有次と庖丁

江弘毅/著

1,728円(税込)

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発売日:2014/03/18

読み仮名 アリツグトホウチョウ
雑誌から生まれた本 から生まれた本
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判
頁数 207ページ
ISBN 978-4-10-335411-6
C-CODE 0095
ジャンル グルメ
定価 1,728円
電子書籍 価格 1,382円
電子書籍 配信開始日 2014/09/26

桶狭間の合戦と同年の創業以来、自己革新を続けてきた老舗、有次。錦市場にある「鰻の寝床」の店舗は、いまや世界中の料理人が集う新“名所”だ。つくる人とつかう人の間で京料理、“和食”を支え、京都と共に歩む世界のARITSUGU─全面協力のもと、ものづくりの精髓とその類まれな存在、軌跡をたどる。写真とイラスト満載!

著者プロフィール

江弘毅 コウ・ヒロキ

1958年、大阪・岸和田生まれの岸和田育ち。神戸大学農学部卒。『ミーツ・リージョナル』の創刊に携わり12年間編集長を務めた後、現在は編集集団「140B」取締役編集責任者に。「街」を起点に多彩な活動を繰り広げている。著書に『「街的」ということ』『岸和田だんじり祭り だんじり若頭日記』『ミーツへの道』『街場の大阪論』『「うまいもん屋」からの大阪論』『飲み食い世界一の大阪』など。

目次

第一章 京都・錦市場の[有次]
「ややこしい」京都
錦市場と[有次]の町内会
創業1560年。錦市場[有次]の日常
ミシュランはみんな「流れ星」でええんや
庖丁1本で三十年のつながり
第二章 親戚の家の3本
ネギが転がるねん
鋼の刃物としての庖丁
庖丁、[有次]と違うんや
第三章 [有次]のルーツをさぐる
御所出入りの小刀屋弥次兵衛
土方歳三の愛刀「兼定」が同門
たたらの玉鋼
刀は無理や、小刀にしとき
第四章 庖丁屋としての[有次]へ
築地の牛刀と京都の和庖丁
堺へ行った村上水軍の刀鍛冶
新しい牛刀は東京、そして関
第五章 [有次]と堺
鉄砲量産がつくった堺の分業体制
出刃庖丁と与謝野晶子の堺
名人・沖芝昂の仕事
名人・沖芝昂の鍛冶仕事を見に行く
「沖芝」のを「野村」で刃付けして柄は「辰巳」
第六章 錦市場、祇園の味。庖丁づかいの現場
錦市場の[まる伊][大國屋]
「ぽんと置いた瞬間に勝手にすっと入って切れてる」[近又]
「祇園の味」の京都の中華。[飛雲][鳳舞][芙蓉園][平安]
第七章 大阪の[有次]
[福喜鮨]の[有次]
[福喜鮨]の蛸引庖丁の謎
第八章 [有次]の蕎麦切庖丁
「見て感じた」麺切庖丁。北新地[喜庵]
京・先斗町[有喜屋]
第九章 板前割烹の誕生
鯛一匹を前に。板前割烹の世界[浜作][たん熊]
修業と和庖丁
庖丁を研ぐ感性
第十章 海外へ
[イル・ギオットーネ]東山
[ミチノ・ル・トゥールビヨン]大阪・福島
第十一章 ものをつくる、ということ。
引き寄せられるように[有次]へ。[燻]赤坂
生ハム切り庖丁と葉巻切り庖丁
あとがき

インタビュー/対談/エッセイ

波 2014年4月号より ややこしい京都

江弘毅

永禄三年(1560)年創業という、とてつもない歴史をもつ京都・錦市場の庖丁屋[有次]について、この『』に連載した。1年半あまり取材し、『有次と庖丁』という1冊の本になったのは約2年後である。
京都の店や京都の人については、有名な「一見お断り」の側面と、観光地ゆえの「京都を知らない人」に親切なところがあって、そこがまた京都という旧くて特別な都市の「ややこしい魅力」を形成している。
京都をわかるということは、京都の歴史や文化についてあれこれ知識を得ることではなく、京都人とのコミュニケーションの仕方を身につけるということだ。京料理一つとってみても、有職料理、精進料理、茶懐石、仕出しやおばんざいの町方料理とそれぞれがルーツや成り立ち方が違い、それらの体系や様式によって店を座標軸にプロットしてもまったく意味をなさない。京料理を一律に「皿の上の料理」で格付けしたミシュラン・ガイドのつまらなさはそこにある。大小、新旧、値段の高い安いといった、一元的な物差しでは測りきれないところに京料理や京都の店の魅力があるのだ。
共通しているのは、そのバラバラさにおいての個性であるから、そのところを聞き出して抽出するということであり、京都について「一を聞いて十を知る」ということは、結局のところ十のバラバラさについて知ることになるから、京都は「ややこしい」のである。
案外長くかかったが、わたしは京都については、そのあたりの事情を「知っている」つもりなので、とりあえず「知らない」というところから入っていくことにしている。
京都ブランドの最たるものと目される[有次]の和庖丁が、堺でつくられているということは「知らない」。御所に出入りする刀鍛冶でありながら、小刀しか打ってなかったのではないか、という十八代目当主の寺久保社長の話には目が点になった。この取材で初めて知ったことであるから当然であるが、そういうスタンスは忘れがちだ。「わたしは他所から来ているので、京都のことはよく知らないのです」と言うと、京都の人は必ずやさしく接してくれて、いろいろと教えてくれる。
京都弁は音階が多様だ。日本語で一番音階が多い言葉だともいわれる。「おいしいお料理どすなぁ」の最後の「なぁ」のところをどう上げ下げするかによって、内と外を隔てるように相手との距離を測り、さらに自分の思いをやんわりとつたえる。
「~しはったらどうどすかぁ?」というのは、英語では「Why don't you~?」あるいは「Why not?」、勧誘のそれである。このフレーズは普段、「どちらはんどしたか?」などと他人との関係を無難に避ける京都人にしては、かなり踏み込んだ干渉気味の表現である。
「そこのあなた、早く~しなさい」であり、最上級の音階ともなると大阪弁で言うところの「~せんかい(どアホ)」と同等に耳に届く。
たとえば京都で漬物でも土産に買って帰ろうかと店に入る。キュウリのぬか漬、すぐき、千枚漬、しば漬、壬生菜、日野菜に芽生姜の酢漬けまである。どれにしようかと迷う。そこで前掛け、白長靴姿の店員が言う。「4つともしとかはったらどうどすかぁ?」「ほな4つともいっときますわ」……そういうことだ。
隣の隣の街の大阪の人間であり、同じ京都でも地域や職種で違う京言葉がわかるわたしは、そういうところが「おもろく」もあるのだが、もっとも京都なコトやモノは、いつでも他には類を見ない話ばかりである。

(こう・ひろき 編集集団140B編集責任者)

書評

波 2014年5月号より

技術の穂先
中沢新一



 以前に奥出雲地方でタタラの技術によって玉鋼を作る作業を見る機会があって、心を揺さぶられる体験をした。古代の最先端技術であったタタラ製鉄の現場には、技術に隠された内奥の秘密のようなものが露出されていた。
 ふつうの人の扱えない高熱で純度の高い鉄を溶かし出すタタラ製鉄。高熱源を覗き込むタタラ師の目は潰れ、そこから一つ目小僧の伝説が生まれたという。技術というものの内奥には、とてつもない力が秘められているが、私たちはふだんそのことに気づかないで、技術の穂先にあらわれる製品を、安心して何気なく使っている。
 こういう体験ののち、私は技術の生み出すものを見るたびに、それを奥に隠されている秘密の領域まで含めた全体性で考える癖がついた。それだから庖丁を使っていて、うっかり指を切ったときなど、私がすぐに思い浮かべるのは、この調理道具を作った技でその昔は刀が作られ、刀は玉鋼から打ち出され、その玉鋼は生まれたときは真っ赤に溶けた流動体だったという、庖丁の前史である。庖丁を作る技術の内奥では、いまでも火が燃え盛っている。たとえそれが俎の上で、板前のクールな手さばきで、魚の内臓をさばいているときにも、その火は冷え切っていない。
 江弘毅さんの『有次と庖丁』は、世の中にある蘊蓄本とはまったく違っている。庖丁をその前史まで含めた全体性でとらえ、その庖丁がなければなりたちえない料理という行為そのものを野生状態に引き戻し、描き出そうとしているからである。鉄がまだ熱い流動体だった頃からはじまって、その鉄が庖丁の名品に姿を変え、最高級の料理を供する板場で活躍するにいたるまでを、職人の技にたいする愛情と尊敬のこもった、簡潔で力強い文章で描き切っている。庖丁のなかに封じ込められている火を、この本は感じさせる。
 出発点は、京都錦市場の刃物の名店「有次」である。料理の好きな関西人なら、誰でも知っている老舗。この店の棚に並べられたありとあらゆる形をした庖丁は、玉鋼技術史の全体性の最後のフェイズをしめしている。刀剣を作った技術は、喧嘩停止令と大坂の陣を最後として、庖丁をつくる技術へと転身をとげていった。
 そのとたんに、刃物は形態の百花繚乱の進化時代に突入していった。刀の機能は限られていて、そのために刀剣を鍛える技術は、一方向に異常なほどの発達をとげた。ところが、俎の上で鯛や鱸や鰻や蛸を、それぞれの料理に最適な状態にさばいていくために、機能に合わせて、庖丁は千差万別の形態に変態をとげていかなくてはならない。その結果、形態美と機能の見事な結合が実現された。有次に行けば、その百花繚乱な技術進化の穂先に咲いた見事な華に出会えるのだ。
 しかし、その店棚に並ぶ庖丁の一本一本には、じつは内奥の火が隠されている。その火はいまも堺の職人の仕事場に燃え盛っていて、そこで真っ赤に燃える鉄のなかから刃物への転身が続けられている。火のなかでの誕生から、料理名店の俎の上でのパフォーマンスにいたるまで、この本は庖丁の全体性を、すばらしい筆致で描き出している。この本を読む前と後では、料理に対する心構えが変わってくる。
(なかざわ・しんいち 思想家)

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