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「全世界史」講義 II近世・近現代編―教養に効く!人類5000年史―

出口治明/著

1,540円(税込)

発売日:2016/01/18

  • 書籍

文明の誕生から現代まで、人類5000年の歴史を一気読み!

複雑な歴史の流れが手に取るようにわかる、「教養の達人」による渾身の名講義! 人類共通のたったひとつの歴史「5000年史」を学べば、世界がひとつにつながり、歴史がいきいきと動きだす。テロや難民問題から世界経済の行方まで、今を知るための教材はすべて歴史のなかにある。現代人必読のグローバルスタンダードの教養。

目次
第4部 第五千年紀前半=1001-1500
第5章 1401-1500 クアトロチェント
〔1〕ティムールの死と永楽帝の即位
〔2〕クビライへのライバル心から鄭和の大艦隊が生まれた
〔3〕ティムール朝の動静がユーラシアに影響を与えた
〔4〕オイラトのエセン、土木の変で明の英宗を捕虜とする
〔5〕騎馬軍団、歩兵と鉄砲に完敗
〔6〕鄭和の大船団が万里の長城に化ける
〔7〕ハンガリー王ジギスムント、ローマ皇帝戴冠。シスマを解決するが、フス戦争で敗北
〔8〕百年戦争が再開される
〔9〕エンリケ航海王子のアフリカ西海岸探検が始まった
〔10〕メディチ家のコジモがフィレンツェに帰ってきた
〔11〕ローマ帝国の滅亡、百年戦争終結、ローディの和
〔12〕イングランドは薔薇戦争へ
〔13〕「世界の蜘蛛」ルイ一一世とシャルル突進公、そしてハプスブルク家の幸運
〔14〕メディチ家はロレンツォが当主に、イタリア・ルネサンスが全面開花
〔15〕スペインの誕生と異端審問所の開設
〔16〕一四九二年に起きた、時代を特徴付ける出来事
〔17〕ロレンツォの長男ピエロの失政と、修道院長サヴォナローラの神権政治
〔18〕アレクサンデル六世の政治と、大西洋を分割したトルデシリャス条約
〔19〕ドイツで「神聖ローマ皇帝」の名称が多用され始める
〔20〕イタリック体(活字)の誕生、アメリゴ・ヴェスプッチの新大陸探検
〔21〕イタリアの世紀の終焉とメディチ家の最後
第5部 第五千年紀後半=1501-2000
第1章 1501-1600 アジアの四大帝国と宗教改革、そして新大陸の時代
〔1〕サファヴィー朝のイスマーイール、髑髏杯で酒を飲む
〔2〕オスマン朝によってヨーロッパという地域概念が生まれる
〔3〕ムガール朝のインフラをつくったスール朝
〔4〕明が北虜南倭に苦しんだ時代、日本では石見銀山が発見され、鉄砲が伝わり、ザビエルがやってきた
〔5〕共通点の多い同時代人、アクバルと織田信長
〔6〕明の少年皇帝と張居正の政治改革
〔7〕文禄の役(壬辰倭乱)と慶長の役(丁酉倭乱)
〔8〕好戦的なローマ教皇ユリウス二世
〔9〕メディチ家出身のローマ教皇により後期ルネサンスが開花した
〔10〕贖宥状の販売と宗教改革の始まり
〔11〕その後のメディチ家。フィレンツェのコジモ一世とフランスに嫁いだカトリーヌ
〔12〕恋に病んだスペインの女王とカール五世
〔13〕ポルトガルが東方への交易ルートを制圧
   スペインはアステカ帝国、次いでインカ帝国を滅ぼす
〔14〕スウェーデンで起きた大虐殺
〔15〕カール五世とフランソワ一世の戦い、プロテスタント諸侯の動向
〔16〕イエズス会とイングランド国教会の誕生
〔17〕カルヴァン、スイスで宗教改革
〔18〕オスマン朝がフランスにカピチュレーションを与える。不平等条約の始まり
〔19〕スペインの悪政、エンコミエンダ制
〔20〕プロテスタントの攻勢のなかで退任したカール五世
〔21〕リヴォニア戦争とロシアの苦境
〔22〕ユグノー戦争と三アンリの戦い
〔23〕スペイン、没落へ。フェリペ二世と血の純潔規定
〔24〕アンリ四世、ナントの勅令を出してフランスの宗教戦争を終らせる
第2章 1601-1700 アジアの四大帝国が極大化、ヨーロッパにはルイ一四世が君臨
〔1〕世界初の株式会社、東インド会社の誕生
〔2〕三十年戦争前夜
〔3〕ドイツで三十年戦争が始まる
〔4〕三十年戦争にデンマーク介入、第二幕へ
〔5〕三十年戦争、第三幕へ。スウェーデンの介入の裏にフランス宰相リシュリュー
〔6〕ローマの反宗教改革とジャンセニスム
〔7〕三十年戦争の終幕と神聖ローマ帝国の死亡診断書
〔8〕三王国戦争(清教徒革命)でイングランド共和国が誕生
〔9〕サファヴィー朝とムガール朝の極盛期
〔10〕ヌルハチ、清の前身となる後金を建国
   日本では関ヶ原の戦いと大坂夏の陣
〔11〕ホンタイジ、国号を後金から清へ。四重帝国という特異な帝国
〔12〕明が滅亡し、清の順治帝が中国を統一
〔13〕クロムウェルの航海条例でイングランド・ネーデルランド戦争が勃発
〔14〕ポーランド・リトアニアの受難、東ヨーロッパの覇権はロシアに
〔15〕イングランドとネーデルランド、第二次戦争へ
〔16〕ルイ一四世が親政開始。イングランドとフランスが組んで第三次ネーデルランド戦争へ
〔17〕ロシアのピョートル一世即位とオスマン朝の第二次ウィーン包囲
〔18〕名誉革命でイングランドとネーデルランドが同君連合に
〔19〕ルイ一四世のプファルツ戦争(大同盟戦争)により第二次英仏百年戦争が始まる
〔20〕アウラングゼーブ、ムガール帝国を拡大
〔21〕清の康熙帝の親政
〔22〕一七〇〇年の世界
第3章 1701-1800 産業革命とフランス革命の世紀
〔1〕大北方戦争。カール一二世の転戦
〔2〕スペイン継承戦争とプロイセン王国の誕生
〔3〕ドイツ人の王が君臨し、議会が統治するグレートブリテン
〔4〕バルト帝国からロシア帝国へ。イタリアにサルデーニャ王国が成立
〔5〕オスマン朝のチューリップ時代
〔6〕アウラングゼーブの治世にムガール朝はガタガタに
〔7〕清は名君、雍正帝の時代を迎える
〔8〕雍正帝、人頭税を土地税へ変革
〔9〕サファヴィー朝の滅亡と「最後の征服者」ナーディル・シャー
〔10〕各国利害の縮図、ポーランド継承戦争
〔11〕オーストリア継承戦争が始まる
〔12〕マリア・テレジアの外交革命と七年戦争
〔13〕七年戦争が終結、マリア・テレジアとフランスが失ったもの
〔14〕なぜ産業革命が起きたのか
〔15〕中華帝国の最後の輝き、乾隆帝の時代
〔16〕東インド会社、インド支配を強める
〔17〕乾隆帝の時代が終幕へ
〔18〕エカチェリーナの攻勢。オスマン朝の自浄作用とポーランド・リトアニアの消滅
〔19〕アメリカの独立
〔20〕フランス革命
第4章 1801-1900 ヨーロッパが初めて世界の覇権を握る
〔1〕皇帝ナポレオン
〔2〕会議は踊る。ウィーン会議とタレーランの手腕
〔3〕ウィーン体制という反動
〔4〕シモン・ボリバルによるラテンアメリカ独立運動とアメリカのモンロー宣言
〔5〕アジアの黄昏、仕掛人は連合王国
〔6〕アヘン戦争と南京条約
〔7〕連合王国の巧みな侵略戦争
〔8〕革命の余波と反動の嵐が、ヨーロッパでせめぎ合う
〔9〕労働者階級の台頭と共産党宣言
〔10〕一八四八年のヨーロッパ革命。ウィーン体制の終焉とルイ・ナポレオンの登場
〔11〕太平天国の乱と日本の開国。アメリカが日本に求めたこと
〔12〕連合王国の横暴。第二次アヘン戦争とインド第一次独立戦争(インド大叛乱)
〔13〕明治維新とは何だったのか
〔14〕クリミア戦争とイタリアの誕生
〔15〕南北戦争とメキシコの英雄
〔16〕宰相ビスマルクによるドイツの統一
〔17〕ロシアの野望を挫くビスマルクの調整能力
〔18〕ビスマルク体制と呼ばれた時代
〔19〕ビスマルクの解任と仏露の接近
〔20〕ドレフュス事件とシオニズム
〔21〕ボーア戦争が始まる
〔22〕近代化へ歩み始めた日本
〔23〕日清戦争と三国干渉
〔24〕フィリピンの独立運動とアメリカの門戸開放政策(open door policy)
〔25〕義和団の乱(北清事変)
第5章 1901-1945 二つの世界大戦
〔1〕大英帝国と日英同盟
〔2〕3B政策と3C政策
〔3〕日露戦争の見事な幕引きと日比谷焼き討ち事件
〔4〕英仏協商、英露協商から三国協商へ、列強の野望が波紋を広げる
〔5〕第一次世界大戦の引き金になったのは、ハプスブルク家の愚かさだった
〔6〕日露戦争後の日本の進路
〔7〕ガンディー、南アフリカで非暴力・不服従運動を開始
〔8〕孫文と辛亥革命の展開
〔9〕第一次世界大戦の展開とロシア革命、大英帝国の“三枚舌”外交
〔10〕ウィルソン大統領の一四カ条の平和原則と第一次世界大戦の終結
〔11〕ヴェルサイユ体制の問題点
〔12〕ウィルソンの提唱した民族自決の理念は世界に拡がった
〔13〕パレスチナの混乱とトルコ共和国の誕生
〔14〕国際協調と軍縮の潮流、ドイツではハイパーインフレーションが起きる
〔15〕ヒトラーの登場を、なぜドイツ人は許したのか
〔16〕孫文の国共合作と蒋介石の登場
〔17〕蒋介石の北伐と張作霖爆殺事件
〔18〕不戦条約と暗黒の木曜日
〔19〕日本の満洲侵略
〔20〕ガンディーの独立運動
〔21〕電光石火の勢いでヒトラーが総統に
〔22〕第三帝国の伸長
〔23〕中国共産党の大長征、毛沢東の台頭
〔24〕日本で軍部大臣「現役」武官制が復活した
〔25〕スペインとフランスの人民戦線の行方
〔26〕盧溝橋事件から日中戦争へ
〔27〕ヒトラーがズデーテンを併合し、「水晶の夜」事件が起きる
〔28〕第二次世界大戦始まる
〔29〕日本が太平洋戦争を始めるまで
〔30〕アメリカの国力が世界大戦の帰趨を決めた
〔31〕第二次世界大戦、終幕へ
第6章 1945-2000 冷戦の時代
〔1〕第二次世界大戦直後の東アジア
〔2〕早くも激化する東西対立、チャーチルの「鉄のカーテン」演説
〔3〕米ソは冷戦体制に入る。マーシャル・プランとコミンフォルム
〔4〕ソ連のベルリン封鎖と第一次中東戦争
〔5〕NATOの設立、ソ連の原爆実験
〔6〕極東戦略の転換を迫られたアメリカと運命の風向きが変わり始めた日本
〔7〕朝鮮戦争と日本の復興
〔8〕米ソの水爆実験と第三世界の台頭
〔9〕ナーセル大統領のスエズ運河国有化宣言
〔10〕フルシチョフのスターリン批判とハンガリー動乱
〔11〕ド・ゴールがフランス大統領に就任
〔12〕キューバ革命、ダライ・ラマ亡命
〔13〕ソ連のロケットが月面着陸、フルシチョフは得意の絶頂へ
〔14〕戦後の世界秩序が固まった一九六〇年
〔15〕ケネディの登場、ガガーリン宇宙へ、ベルリンの壁
〔16〕アデナウアーとド・ゴールの見識
〔17〕キューバ危機、部分的核実験禁止条約、ベトナム戦争
〔18〕中ソ対立、フルシチョフ失脚、第三世界勢力の後退
〔19〕毛沢東、大躍進政策の失敗から文化大革命へ
〔20〕ベトナム戦線の泥沼化、人心が荒れていくアメリカ
〔21〕第三次中東戦争、プラハの春
〔22〕中ソの武力衝突、アポロ一一号の月面着陸、ブラントの東方外交
〔23〕米中の関係正常化
〔24〕ウォーターゲート事件からベトナム戦争終結まで
〔25〕ピノチェトのクーデタ、第四次中東戦争とオイルショック
〔26〕東西ドイツ基本条約、サミット、スペイン・ブルボン家の復活
〔27〕毛沢東が死去してトウ小平体制へ。日中国交正常化
〔28〕サーダートによるイスラエルとの和平、ローマ教皇にヨハネ・パウロ二世選出
〔29〕ポル・ポトの大虐殺と中国の先富論
〔30〕イラン革命とテヘラン大使館人質事件、ソ連のアフガニスタン侵攻
〔31〕ユーゴスラビア内戦、イラン・イラク戦争、ポーランドの「連帯」
〔32〕トウ小平はキングメーカーに。フォークランド紛争と国連の海洋法条約
〔33〕ゴルバチョフの登場、プラザ合意
〔34〕冷戦の終結(マルタ会談)
〔35〕ソ連の崩壊と消滅、湾岸戦争
〔36〕ブッシュの冷戦勝利宣言、地球サミット
〔37〕パレスチナに平和をもたらすかに思えたオスロ合意だったが……
〔38〕マンデラが南アフリカ大統領に就任、アメリカはベトナムと国交回復
〔39〕上海協力機構、トウ小平死去、アジア通貨危機、京都議定書
〔40〕EUがユーロ導入、日銀がゼロ金利へ
〔41〕二〇〇〇年、ヨハネ・パウロ二世の特別ミサ
〔42〕二〇世紀の後半は冷戦の時代だった。その後に平和の配当が生まれた
終章 どしゃ降りの雨で始まった第六千年紀
参考文献
索引

書誌情報

読み仮名 ゼンセカイシコウギ2キンセイキンゲンダイヘンキョウヨウニキクジンルイゴセンネンシ
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 416ページ
ISBN 978-4-10-336473-3
C-CODE 0095
ジャンル 世界史
定価 1,540円

書評

学びを超えた知的エンターテインメント

成毛眞

 のっけから著者に反論申し上げたいことがある。出口さんは「まえがき」で、「積み重ねられた歴史を学んで初めて、僕たちは立派な時代をつくれるのではないか」という。つまり本書は良き未来を創りあげるという目的のために、テキストとして読むことができると言っているように聞こえるのだ。
 たしかに歴史から学ぶべきこと、いや本書から学べることはあまりにも多い。それは歴史だけでなく、生き様や人間関係、組織経営に至るまで、読んでいて気付かされることが多いのに驚くばかりだ。
 しかし、本書は時代をつくるという崇高な目的のためだけのものではないように思われるのだ。いやそれ以上に、純粋に読む愉悦に浸ることができる本だと断言できる。これからの時代を考えることはひとまず脇に置いて、早く次のページを開きたいと思わせる本。本書は高度に知的なエンターテインメントでもあるのだ。
 本書を読むときのイメージは「人類5000年史」という名前が付けられた、一辺が100メートルほどの体育館のようなものがあって、その中をツバメになって自由に飛翔するという感覚が近いように思う。底面には世界地図、側面に5000本の年代ラインが描かれた巨大な立方体があり、空間には農政史、出版史、経済史などと名付けられたさまざまな色の帯が縦横無尽に舞っている。そしてその帯には重要な人名や制度などの短冊が無数に付けられている。その中を自由自在に、しかも高速で飛び回るという感覚だ。
 この感覚は本書が「ですます」体で書かれていることが鍵になっているからかもしれない。出口さんは京都大学で「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義を担当していたことがある。当時の参加者からお聞きしたところ、まったく何の参考文献も持たずに、きわめて詳細な歴史を、正確な数字をあげながら、じつに柔らかい口調で講義されていたという。語られる歴史に聞き入る前に、まずは講演者としての出口さんのすごさに唖然としたと教えてくれた。
 本書の持つ不思議な空間感覚は、まさに出口さんの頭脳の中の広大な空間を投射したものだからではないのだろうか。II巻には参考文献がなんと500冊近く列挙されている。その中では全集なども一冊として扱われている。
 それでも出口さんが読んだ本のわずか5%でしかない。この膨大な知識と見識、そして世界1200以上の都市を旅したという体験と感覚が、言葉となって迸り出たのであろう。
 その結実として本書のなかで、読者はじつに歯切れの良い文章に出くわすことになる。
「中華思想とは、結局、漢字の魔力だったのです。漢字が広まって初めて周の歴史を読んだ人が、中華は立派であると勝手に思ってしまった」
「国家独自の異端審問制を確立したスペインの偏狭なイデオロギーが、スペインの経済を破壊したのです」
「産業革命がなぜグレートブリテンで起きたのか。それは産業革命が、インドのまねをすることから始まったからです」
 これらのじつに興味深い歴史的事実が断片としてではなく、前後左右上下に繋がって一冊の本に仕上がっているのだ。
 長年蓄えられていた横溢する知識を披露するいっぽうで、出口さんは少年時代にかえって歴史を紐解くこともする。中学生のときに、アレクサンドロス(大王)についての「一〇年間戦争をして、インダス川まで行きました」という記述を読み、10年も戦争していたら兵士もかなり減っていたはずなのに、どうやってインダス川で戦ったのだろうと不思議に思ったというのだ。
 多くの子供たちがテストのためのいわば雑学として聞き流していた史実を、あたかもその時代の当事者として受け止め、それを知るために何冊もの本を読み漁った出口少年は、ついに答えを見つけている。
 そこで本書のもう一つの読み方を提案しておきたい。本書は5部21章で構成されている。親と子が1章を1カ月かけてじっくり読むのはいかがだろうか。手元に世界地図を用意する。判らない言葉が出てきたらすぐに検索できるようにパソコンも準備する。その時代を背景とした映画を選んでおいてもよいだろう。親も少年時代にもどって、子どもと一緒に学ぶのだ。来年の秋には読み終えることができるだろう。やがて、子どもは出口少年のように素朴な疑問を持つかもしれない。その答えは未来を作る子どものなかにあるはずだ。

(なるけ・まこと 書評サイト〈HONZ〉代表)
波 2016年2月号より

インタビュー/対談/エッセイ

歴史はたった一つ

出口治明

――まず本書のコンセプトになっている「5000年史」について教えてください。
 5000年史とは、文字が生まれてから現在まで続く、世界のたった一つの歴史を名づけたものです。歴史というと、東洋史、西洋史などと分けることが多いのですが、昔は国境などなくて、世界はつながっていました。だから歴史も世界全体を一つとして見るのが自然だと思います。
 また、なぜ5000年かというと、文字の誕生が5500~5000年前だからです。現生人類が誕生してからの20万年を人間の歴史とする考え方もあるのですが、文字のない時代は、たとえ物証があっても、すべては想像の世界です。一方、文字があるということは、そこには人間が生きて考えた証拠があるわけです。そうすると歴史ときちんと呼べるのは、やはり5000年ではないかと。

――本書を読んでいると、歴史の大きな流れがよくわかり、歴史的な事柄がなぜ起きたのかということも理解できます。
 僕は素人ですから、自分の学説があるわけではありません。この本に書いてある説は、すべて世界中の優れた学者が書いたものです。たくさんの本を読んで、腑に落ちたものだけを自分の言葉で書き直したという感じでしょうか。そのときに気をつけたのが整合性です。面白い学説を選んでいくと、それらが矛盾することはよくあります。そこを徹底して考え、整合性があり、納得できるものを書きました。

――たとえばどんなものがありますか。
 白鳳・奈良時代の日本には女帝が何人も登場しますが、その女帝たちを病弱な皇帝たちの中継ぎだったとする説と、中国に誕生した強力な女帝・武則天をロールモデルにしたとする考え方があります。どちらが正しいかというと、後者だと思います。なぜなら白鳳・奈良時代の政策の多くは、武則天の政策を真似しているからです。そうすると、武則天をロールモデルにして東アジアに女帝の時代が到来した、と考える方が整合的だし、納得できます。

――私たちの想像以上に世界が密接につながっていたことがわかるエピソードです。中東・イスラム史や中央ユーラシア史がしっかり書かれたことで、世界のつながりがより分かりやすくなっているのも本書の特徴ではないでしょうか。
 これまでの歴史学は、基本的に西洋史と東洋史が中心でした。しかし実はイスラム・中東などにもたくさんの文献があったのです。それらが翻訳され始めたことで、研究が飛躍的に進みました。だから僕たちが学んできた歴史とは、かなり違う歴史像が出てきています。

――交易や商業などビジネス的な観点からも歴史を見ているので、ダイナミックな動きが感じられます。
 ビジネスとは、もともとグローバルなものなのです。ビジネスは国よりも歴史が古いので。たとえば紀元前300年ごろのアショーカ王時代のインドには、ギリシャ人の使節が訪れています。紀元1000年の宋の都・開封には、ユダヤ人街がありました。ビジネスは儲かるからやっているのであって、それを国内と海外で区別する発想はなかったと思います。ちなみに奈良の平城京は、人口の七割が外国人だったという説があります。今よりずっとグローバルですよね。

――君主を経営者のように見ているところも面白かったです。
 衣食足りて礼節を知るといいますが、人間は動物なので、ご飯が食べられて、安全に眠れることが一番大事なのです。だから為政者の仕事は、まずはご飯を食べさせること。為政者たちはそういうリアリティが分かっていたと思います。
 会社の経営も同じですよね(笑)。給料が払えて会社が伸びていけば、みんなハッピーなので。小さなベンチャー企業でも、大企業でも、国の経営でも、そこは変わらないと思います。

――本書では歴史上の人物が、とても身近に感じられます。
 歴史に出てくる人間も、今の人間と一緒ですから。男性はきれいな女性が好きだし、女性はかっこいい男性に惹かれる。欲もあれば嫉妬もある。それがわかると歴史もだいぶ身近になるのではないでしょうか。人間の脳はこの一万年間、まったく進化してないと言われています。そうすると、今も昔も考えることは一緒です。喜怒哀楽もすべて一緒。人間はずっと昔から同じような事を考えてきたし、人間がこれまでやってきたことは形を変えて何度も再現されています。だから歴史は最良の教科書だと思います。先の見えない時代においては特にそうではないでしょうか。

(でぐち・はるあき ライフネット生命保険会長)
波 2016年2月号より

著者プロフィール

出口治明

デグチ・ハルアキ

1948(昭和23)年三重県美杉村生れ。立命館アジア太平洋大学学長。京都大学法学部を卒業後、1972年日本生命保険相互会社入社。企画部や財務企画部にて経営企画を担当する。ロンドン現地法人社長、国際業務部長などを経て2006(平成18)年に退職。同年、ネットライフ企画株式会社(現ライフネット生命保険株式会社)を設立。2017年会長職を退任。2018年より現職。旅と読書をこよなく愛し、訪れた世界の都市は1200以上、読んだ本は1万冊を超える。とりわけ歴史への造詣が深く、京都大学の「国際人のグローバル・リテラシー」特別講義では歴史の講座を受け持った。著書に『生命保険入門 新版』『仕事に効く教養としての「世界史」』『全世界史(上・下)』『座右の書 「貞観政要」』『「働き方」の教科書』『0から学ぶ「日本史」講義 古代篇』などがある。

関連書籍

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