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最初から難民だった人はいない! ファインダー越しに見つめた、難民たちの真実。

君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―

安田菜津紀/著

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2016/04/22

読み仮名 キミトマタアノバショヘシリアナンミンノアシタ
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 159ページ
ISBN 978-4-10-350031-5
C-CODE 0095
ジャンル 社会学、地理・地域研究
定価 1,728円
電子書籍 価格 1,382円
電子書籍 配信開始日 2016/10/14

一瞬にして家族を、生活を、故郷を奪われた人々――残酷な映像ばかりが注目される中、その陰に隠れて見過ごされている難民たち一人一人の“今”にフォーカス。彼らの「置き去りにされた悲しみ」に寄り添い、小さな声に耳を澄ましながら、明日への希望を託してシャッターを切り続ける若き女性フォトジャーナリストの渾身のルポ。

著者プロフィール

安田菜津紀 ヤスダ・ナツキ

1987年神奈川県生まれ。studio AFTERMODE所属フォトジャーナリスト。16歳のとき、「国境なき子どもたち」友情のレポーターとしてカンボジアで貧困にさらされる子どもたちを取材。2016年4月現在、カンボジアを中心に、東南アジア、中東、アフリカ、日本国内で貧困や災害の取材を進める。東日本大震災以降は陸前高田市を中心に、被災地を記録し続けている。2012年、「HIVと共に生まれる―ウガンダのエイズ孤児たち―」で第8回名取洋之助写真賞受賞。著書に『それでも、海へ 陸前高田に生きる』(ポプラ社)、共著に『アジア×カメラ 「正解」のない旅へ』(第三書館)、『ファインダー越しの3.ll』(原書房)。上智大学卒。

書評

安田さんが「あの場所」へ行った理由

高橋源一郎

 この本のいちばん最初に、一枚の写真のことが書かれている。それは、「家族と共にシリアから逃れようとした3歳の男の子、アイラン・クルディくんが、息絶え、トルコの浜辺に打ち上げられた写真だった」。その写真を見て、たくさんの人が何かを考え、感じただろう。けれども、写真も事件も次々にやって来る。だから、どんなに強烈な印象を受けた事件があっても、わたしたちは、やがて忘れてしまう。一枚の写真の背後に、どれだけ多くのことが秘められているかも忘れてしまう。けれども、その写真のことを、たまに思い出すと、わたしたちは、心のどこかでぼんやり、痛みのようなものを感じる。動画だったらもっと生々しいはずなのに、写真の方がいつまでもひっかかっているような気がすることがある。それはいったいなぜなんだろう。
 この本には、たくさんの写真もおさめられている。それは、ただの写真ではなく、わたしたちが、ニュースや論説で、情報だけは少し知っているけれど、実際にはなにも知らない「あの場所」の写真だ。車の上に子どもたちが乗って(そう、屋根の上にも!)笑いながら拍手をしている。どうして、そんなに楽しそうなんだろうか。それから、夜、近くの山の上から見下ろした街の写真。明るく、美しく、宝石みたいに(陳腐な言い方だけど)輝く街が、そこにある。もちろん、それだけではなく、どこまでも続く難民キャンプの写真も、その困難な環境の下で懸命に学んでいる子どもたちの写真もある。いや、もっと悲しい写真だってあるのだ。そして、わたしたちは、なんともいえない感覚に陥るのである。
 写真は、わたしたちを否応なく、「あの場所」に連れてゆく。それなら、テレビの映像や動画だって同じだ。違うのは、写真は、その瞬間を永遠に切り取ってしまうことだ。そして、その瞬間を、いつまでも見続けるように、促されることだ。撮影した人間が、直視しなければならなかったものを、わたしたちも見なければならない。ただ通りすぎるだけの傍観者ではなく、なにをしていいのか混乱しているひとりの人間として、見続けること。それが写真の力だ。そして、そんな力だけが、「あの場所」という言い方しかできない抽象的な存在を、もっとずっと異なった具体的なものに変えてゆけるのだ。
 ここまで考えて、ようやく、わたしは、安田菜津紀さんの本、『君とまた、あの場所へ―シリア難民の明日―』について書くことができる。
 安田さんは、あるきっかけがあって、「シリア」を知った。でも、そのときのシリアといまのシリアは違う。わたしたちは、以前のシリアをほとんど知らなかった。では、いまのシリアについてはどうだろう。わたしたちは、確かに、知っている。いま、「あちらの方」では、禍々しいことがたくさん起っている。凶暴で狂信的な集団が、テロを世界中にばらまいていることも、それから、その狂信的な集団が生れたあたりの国々や地帯では、政府やら反政府勢力やら、どちらともいえない集団が跋扈し、それに、アメリカやヨーロッパやロシアや、それから、「あちら」にあって、お金持ちだったり、大きかったりする国なんかが入り乱れて、学校で習った「戦国時代」のようなことが起っていることも、なんとなく知っている。その結果として、すごい数の難民が生れていることも知っている。そう、そうして、最初に書いた、海岸に流れついた男の子のことも。それらの断片的な知識や情報が合わさって、わたしたちは、なんとなく、「シリア」というのは「あちら」のシンボルのような国で、そこの人たちは、とても可哀そうだ、ということだけは知っているのである。
 では、この本の中に、安田さんが書いていることは何なのだろう。わたしたちは、この本を読みながら、安田さんが出会った人たちと(安田さんの背後から、そっと眺めるように)出会う。そして、そこに、わたしたちと同じように生き、苦しむ、人たちを見る。いや、そうではない。彼らの苦しみは、わたしたちより深く、だからこそ、小さな喜びにも心を震わせている。そんな彼らと出会うとき、わたしたちは、思わず、こう呟くのである。「わたしたちは、ほんとうに生きている、といえるのだろうか」
 誰かが「あの場所」へ行く。それは、そこにわたしたちを連れてゆき、わたしたちを生き直させてくれるためなのだ。

(たかはし・げんいちろう 作家)
波 2016年5月号より

目次

SYRIA 2008
はじめに
“遠い地”シリアとの出会い 2007
美しきシリア、温かな輪 2008-2011
ヨルダン、帰る日を待ちながら 2013
託された祈りを 2014
共に歩む道を探って 2015
アンマンの冬 2016
おわりに

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