ホーム > 書籍詳細:1988年のパ・リーグ

1988年のパ・リーグ

山室寛之/著

1,705円(税込)

発売日:2019/07/16

  • 書籍
  • 電子書籍あり

2球団身売りと、熾烈を極めた優勝の行方……
球史に残る、昭和最後の1年を追う。

リーグ制覇は共に10回、日本一は3回と2回――阪急・南海という、名門球団の電撃的な身売りの裏では、取引先銀行の特命チームによる水面下の秘密交渉があった。そしてペナントレースも終盤、ロッテとのダブルヘッダーの結果如何で、近鉄の優勝が左右される事になった88年のパ・リーグ。その激動の舞台裏を、新証言と資料で綴る。

目次
プロローグ 1988年10月19日
いざ決戦! 川崎球場へ向かう近鉄ナイン/異常気象が続いた「昭和最後の夏」/重なった電撃発表/球界が激変した1988年
第1章 「福岡にプロ野球を!」10・19の序曲・球団誘致活動
川崎「劇場」となった10・19/福岡にプロ野球チームを!/「ハレー作戦」始動/誘致運動に距離置く福岡の政財官界/稲尾和久の福岡誘致への思い/「カープ応援歌」が市民球団創設論文を呼ぶ/ロッテが福岡に来る!?/勢いづく2年目の球団誘致活動/「貴球団誘致運動の経過報告」/球団福岡誘致に深まる確信/球団買収へ動き始めたダイエー
第2章 無敵の若鷹軍団を創った中内功の野球熱
平成最後の日本一/「プロ野球の球団を持ちたい」/甲子園50万席を狙え!/スーパー業界の苦悩が続く1974年/西武ライオンズ、所沢に誕生/「野球は西武、買い物はダイエー」/「ボールが止まって見える」/女性が集う場所に男は集まる/売り上げ減でも衰えぬ野球への執念/鈴木啓示と中内の投手論/1985年、阪神初の日本一
第3章 ロッテ、阪急、南海――水面下で進む駆け引き
ダイエーの買収先に南海浮上/古代遺跡発見と平和台球場移転構想/「関西があるかも知らんぞ」/中内と福岡市長の極秘会談/ダイエー・ロッテの破談/ロッテ交渉打ち切りの背景/宮古島の雑談から派生した阪急身売り/「情報をビジネス化せよ」三和銀の戦略/「社名浸透に球団でも買うか……」/「お荷物は2ついらない」/売却に向けた3社合同プロジェクト/放たれた特大スクープ/特ダネが生んだ伝説/熾烈な報道合戦を生んだ背景/大スクープか、マボロシか/「野球より、やるべき仕事がたくさんある」/「野球なんか嫌いだ」
第4章 一筋縄では進まない球団買収を巡る虚々実々
巨人軍オーナーの爆弾発言/「先のことは明日の天気と同じ」/オーナー宅で緊迫の記者会見/ついに両トップが認めた/「囲み取材」の天国と地獄/「九州へ移ることがリーグのためになる」/「市民球団として福岡に本拠を置く」/「やっぱり嘘はいかん」/南海が「中内と手を握った」瞬間
第5章 パ・リーグ最古球団、阪急の終幕
「球団売却の工程表を作れ」/球団売却最終ライン10・21/身売りをいつ発表するか/身売り直前に初の宣伝ビデオ/阪急売却を中内が知っていたら……/パ・リーグ終盤の日程変更/近鉄、驚異の快進撃/闘将上田の「知」と「情」
第6章 そして迎えた、伝説のダブルヘッダー
壮烈なドラマ第1戦/9回二死から夢つながる/「野球の使命を達成」阪急身売り発表/「大事な時に……選手やファンにすまない」/冒頭から波乱含みの第2戦/CMなし野球中継続行/「this is プロ野球!」/ロッテ、非情の抗議/執拗な抗議・有藤はヒールなのか?/阿波野・高沢の読み合いと勝負のアヤ/Nステ視聴率は30.9%!/1日だけのフィールド・オブ・ドリームス
あとがき
関連年表
1988年公式戦出場選手生涯記録
参考文献

書誌情報

読み仮名 センキュウヒャクハチジュウハチネンノパリーグ
装幀 報知新聞社/カバー写真提供、新潮社装幀室/装幀
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-352731-2
C-CODE 0095
ジャンル ノンフィクション
定価 1,705円
電子書籍 価格 1,705円
電子書籍 配信開始日 2019/08/02

書評

まだドラマが隠れている「10・19」

山田雅人

 著名人の生涯や様々なスポーツの名場面を、マイク一本で再現する「かたりの世界」という舞台を始めて10年になります。その第一作は、元西鉄ライオンズ「稲尾和久物語」でした。「神様、仏様、稲尾様」と言われた大エースでした。
 30年以上前の事ですが、すでに西鉄ライオンズは西武ライオンズとなり、福岡から所沢へと移転していました。大阪のテレビ番組で共演させて頂いていた稲尾氏から、何度も聴いたのが、福岡の野球愛。
「平和台球場ではな、球場入れない人であふれるんよ。皆、外にある木に登って観戦するんや。凄いやろ。あれだけ野球熱の高い地域は無いと思う。もう一度、プロ野球チームを福岡に作りたい」
 本書は、福岡へプロ野球を誘致すべく動いていた稲尾氏の活動と、その姿勢に感銘を受けた福岡青年会議所の有志達が立ち上がり、本格的なプロ野球誘致活動が始まった1986年を入り口に、1988年のパ・リーグ激動の1年が描かれています。
 88年の衝撃――関西にあった二つのパ球団、南海ホークスがダイエー、阪急ブレーブスがオリエント・リースへと身売りしました。ホークスは大阪から福岡へと本拠地を移すことになりますが、その源流に、稲尾氏や福岡青年会議所の有志たちの活動があったことを、本書を読んで初めて知りました。
 記憶に残る名選手や、印象的な試合を詳細に綴る野球史も好きですが、グラウンドの外で起きたドラマや、球史を塗り替えた奇跡や秘話の数々もじっくりと読みたい。
 著者の山室氏は、元は辣腕の読売新聞社会部記者でしたが、東京読売巨人軍代表を務めた経験もあるからオーナー以下、球団スタッフが身売りで直面する問題やファン対応、取引先銀行との折衝にマスコミ対策など、身売りの背景で奔走する「背広組」の苦労話も余すところなく描かれていてドキドキします。
 さて、88年のパ・リーグといえばこの試合、これも本書で描かれている「10・19」。近鉄バファローズがシーズン最終戦をロッテオリオンズとダブルヘッダーで戦った。近鉄が連勝すれば逆転優勝という、今や伝説となっている試合です。
 私は、稲尾さんがそうであったように、野球選手に「自分たちにはできない、無理だと思う事をやってくれる、スーパースターであって欲しい」と常々願っています。
「10・19」では、近鉄・梨田昌孝がその一人。
 第1試合、同点で迎えた9回表。2アウト、ランナー2塁。引き分けでは近鉄の優勝はない場面。この年、梨田は引退を決めていた。長くチームを支えた功労者の彼を重要な場面で代打に送った仰木彬監督の決断と思い。打席に立った梨田は、ファンとベンチ、そして自らの思いの全てをバットに乗せ、センター前ヒットにつながる。
 もう一人、近鉄のエース阿波野秀幸。
 2日前の阪急戦で120球を投げ、心身共に疲れ切っていたはずなのに「10・19」では連投した。特に第1試合。リリーフで登板し、打者5人に16球投げ、梨田のタイムリーでもぎ取った1点を死守したあの姿は、まさに、「エース」だった……。
 語り継ぎたい「10・19」は、この第1試合で近鉄が勝利していなければ伝説も生まれていません。この辺りを書き出すと感動と涙が止まらなくなるので、後はぜひ、本書をお読みください。
 山室氏の筆致は実に細かく、それでいて優しい。ビッグプレーの瞬間に起きている出来事をスローモーションで再生するかのように、多角的重層的に読ませてくれます。
 もう一つ、第2試合を実況された朝日放送の「アベロクさん」安部憲幸氏の名実況が本書で再現されています。熱烈な近鉄ファンだった安部さんが、第2試合をどんな思いで実況したのかと思うと、また涙が止まらない……。
「10・19」は書き尽くされ、語り尽くされた感が有りますが、まだまだ隠れているドラマの数々がこの奇跡を生んだということが、本書を読むと実によく分かります。
 本書が店頭に並んだら、それを買って稲尾氏と安部氏のお墓参りに行きたいと思います。

(やまだ・まさと 話芸家・タレント・俳優)
波 2019年8月号より
単行本刊行時掲載

著者プロフィール

山室寛之

ヤマムロ・ヒロユキ

野球史家、日本エッセイスト・クラブ会員。1941年北京生まれ。1964年九州大学文学部卒、読売新聞社入社。広報部長、社会部長、西部本社編集局長を経て、1998年6月東京読売巨人軍代表、2001年読売新聞社総務局長、2003年読売ゴルフ社長を歴任。社会部記者時代は警視庁クラブで「プロ野球黒い霧事件」、「富士銀行不正融資事件」などを取材。警視庁キャップ時は「三浦和義事件」、「グリコ・森永事件」、社会部次長時に「リクルート事件」担当デスク、社会部長時は「オウム真理教事件」、「阪神・淡路大震災」などへの取材対応を指揮した。巨人軍代表として2000年の「ON決戦(ダイエーホークスと巨人による日本シリーズ)」を体験。『マネー犯罪』(ダイヤモンド社)、『野球と戦争』『プロ野球復興史』『巨人V9とその時代』(中央公論新社)、『背番号なし 戦闘帽の野球』(ベースボール・マガジン社)、『1988年のパ・リーグ』(新潮社)など著書多数。

この本へのご意見・ご感想をお待ちしております。

感想を送る

新刊お知らせメール

山室寛之
登録

書籍の分類