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ニューヨークが選んだ一冊。3月31日、日本上陸!

象の消滅―短篇選集1980-1991―

村上春樹/著

1,404円(税込)

本の仕様

発売日:2005/03/31

読み仮名 ゾウノショウメツタンペンセンシュウ1980-1991
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 448ページ
ISBN 978-4-10-353416-7
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,404円

1993年Knopf社で編集、出版された短篇選集『The Elephant Vanishes』は英語圏で好評を博し、ロング・セラーとなっている。その日本語版がついに刊行! 英語版から著者みずから翻訳を試みた、新バージョンの「レーダーホーゼン」など初期短篇17作品。更に「New Yorker」誌デビュー当時を振り返る書下ろしエッセイも収録した話題作。

著者プロフィール

村上春樹 ムラカミ・ハルキ

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集、エッセイ集、紀行文、翻訳書など著書多数。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、 2016年アンデルセン文学賞を受賞。

書評

波 2005年4月号より 『The Elephant Vanishes』を編集していた頃  村上春樹『象の消滅―短篇選集1980-1991―』

ゲイリー・フィスケットジョン新元良一

『象の消滅―短篇選集1980-1991―』は、アメリカKnopf社から一九九三年に刊行された村上春樹氏の英語版短篇集『The Elephant Vanishes』の日本語版です。以下は英語版を編集したゲイリー・フィスケットジョン氏から寄せられたメッセージです。
(編集部)

十数年前、この短篇選集の出版を準備していた日々を思い出すと、心躍る記憶が蘇ってくるが、わたしがハルキと出会ったのはそれよりさらに前のことである。わたしたちは、ハルキが1980年代に翻訳をはじめた作家、レイモンド・カーヴァーを通じて知り合い、すぐに気心知れる仲となった。当時のレイとわたしは、長年の友人関係にあり、作家と編集者の間柄でもあった。わたしは三島由紀夫が好きで、日本文学に関心を寄せていたから、ハルキの作品が英訳されるとすぐに読破していた。それら数冊の翻訳作品は、日本の学生の英語学習用に作られたもので、講談社インターナショナルが『羊をめぐる冒険』と『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』の英訳出版を手がける随分前の話だ。どの作品にも感動を受けたわたしは、初対面のハルキにそう伝えた。しかしハルキは、さしたる出来ではないと考えていたらしく、英訳が出るのを楽しみにしていた、『ダンス・ダンス・ダンス』についても同様と答え、いま執筆中の新作が満足いくものになってほしいと語ったのだ。作家がこれほど自作を批判的に語ることに驚かされたが、同時にわたしはとても感心させられたのだった。ハルキのように、真に卓越した作家とは、過去の功績ではなく、常に未来へのチャレンジを見つめているものなのだ。

だが、ここでは過去、つまりクノップフ社から彼の最初の本が出版されたときに始まった、わたしたちの編集作業について話したい。わたしの仕事は、ふたりの翻訳家の力を借り、入手可能なハルキの短篇をすべて読み、その中から、最初の短篇選集として、最大限に強い印象をもたらすような小説を吟味し、編纂することにあった。収録した作品の他にどんなものがあったかよく覚えていないが、相当量の作品を選んだ思い出が、わたしの中にある。そして、このとき初めて、当時、現代アメリカ文学の最高峰であったレイの小説に、ハルキが惹かれ、彼らふたりの友情がどんどん深まっていった理由がわかった。二人の文体はいずれも平易で、小説の登場人物の多くは、いわゆるヒーローのタイプではない。本書の〈納屋を焼く〉や〈パン屋再襲撃〉などは、カーヴァー文学を彷彿とさせる。とは言え、この短篇選集のどこを読んでも気づくことだが、ムラカミ文学の醸し出す世界の奥深さ、日常生活を背景にした小説世界はハルキの独壇場だ。〈TVピープル〉で、「あなたや私より、ほんの少し、まあ、20パーセントか30パーセント小柄な」人間レプリカが語り手を訪ねる場面などはその好例で、〈沈黙〉において、男が高校時代に受けたいじめを述懐し、その時に受けた心の傷のおかげで、「眠る妻を揺り起こし、彼女の胸元で、一時間泣き続けることもある」と告白する場面など、悲しみが胸を打つ。そして、〈ねじまき鳥と火曜日の女たち〉は、数年後に世に出る傑作『ねじまき鳥クロニクル』の前触れとなるのだが、これを読んだわたしは、これこそが短篇選集の巻頭を飾るのにふさわしい作品だと信じて疑わなかった。

今通読すると、これら17の短篇は、まさしく、わたしが当初期待していた通りのものとなった。すなわち、作家として多くの引き出しを持つ、驚異的なハルキの才能は、国境を越えても揺るぎなく、それが証拠に、現在、クノップフが版権を持つ彼の作品は、年々、売り上げが上昇し続けている。1993年の時点で、本書を手にしたアメリカの書評家たちもこうしたことは察知していた。「ロサンゼルス・タイムズ・ブック・レビュウ」に至っては、「いずれを取っても普遍性に満ちた、近来稀に見る小説集であり、日本の近隣五千マイルの圏内に赴いたことのない人間ですら、世紀末に生きていく上で、時として、社会から離脱せざるを得ないような人生体験があることを実感させられる一冊」とまで言い切っている。彼がここまでの偉業を成し遂げようとは、当時、予見しようもなかっただろうが、『象の消滅』には、ハルキの作家としての豊かな才能を示すたしかなものが満ち溢れている。彼とのつきあいがこれまで以上に続き、手がける作品にさらなる実りがあることを、わたしは願って止まない。

(クノップフ社副社長兼編集次長)

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