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街はことばでできている――。ぼくらの街のスーパーリアルな解剖図、全8篇。

このあいだ東京でね

青木淳悟/著

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2009/02/27

読み仮名 コノアイダトウキョウデネ
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 239ページ
ISBN 978-4-10-474103-8
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,728円

マンションの募集広告、江戸時代の旧町名、交通法規と道路標識、猫の生態、そして大手検索サイトの「ストリートビュー」機能まで。今最も注目される新鋭が、恐るべき手さばきで組み立てていく、誰でも知っている、でも誰も見たことのない、ぼくらの街の新しい見取り図。表題作を含む全8篇を収録。青木ワールドを堪能できる作品集。

著者プロフィール

青木淳悟 アオキ・ジュンゴ

1979年埼玉県生まれ。2003年「四十日と四十夜のメルヘン」で新潮新人賞を受賞してデビュー。2005年、同作を収めた作品集『四十日と四十夜のメルヘン』で野間文芸新人賞を受賞。2012年『私のいない高校』で三島由紀夫賞受賞。他の著書に『いい子は家で』『このあいだ東京でね』『男一代之改革』『匿名芸術家』『学校の近くの家』がある。

書評

波 2009年3月号より 二十一世紀の探偵は「ストリートビュー」を参考にして

高橋源一郎

簡単にいうと、青木淳悟のこの『このあいだ東京でね』という作品集は、ふつうの小説じゃない。
たとえば、収められた作品の一つ、「このあいだ東京でね」では、どうやら、新しい不動産(家)を購入する、ということについて書かれていて、そこには、東京やその周りの土地のことやら、ローンについてやら、その他もろもろ、不動産を購入することに関係するあらゆることが書かれている。でも、なにかが書かれていない。それは、その不動産を購入するのは「どんな人間なのか」ということだ。何十頁か過ぎて、ようやく、購入者である「私」が登場するのだが、こんな「私」が、いままで、小説に登場したことがあるだろうか。
「他日、個人信用情報いわゆる個信を調べてみるべく、東京は千代田区丸の内の一角を訪れる私」は、全国銀行協会「全銀協」を訪ねる。「ここに私が来所して、ほかでもない当の私本人が手ずから記入した申込書類に自身の身分証明書を添え、あたかもそうすることによってもうひとりの自分と出会えるとでもいうように、これから本人開示手続きを行おうとしているところなのだ」
まことにもってそんな面倒くさいことをしなければならないのは、銀行から融資を受けて、不動産を購入するからなのだが、そこで「私」が感じるのは、「私」が契約社会に生きているということなのだ。
「本人の直筆で、黒のボールペンで強く、はっきりと楷書で書く。当日の日付を入れる。届出印を押す。不鮮明、重ね押し、はみ出しには注意を払う。誓い文句はあらかじめ印刷済みであり、まさにその契約者の主語として人称代名詞『私』が使われている。『私は、……することに同意します』『私は、……されることに同意します』。書面の表欄にも裏の文書にもそれが出てくる」
青木淳悟の小説が「ふつうではない」ように思えるのは、まず「私」が出てこないことだと書いたが、ちゃんと「私」は出てくる。けれども、この「私」は、「ふつうの小説」の「私」とはぜんぜん違うのである。
青木淳悟のこの作品集は、なんだか私立探偵の報告書みたいに見える。ここで報告されているのは、車と新幹線と飛行機による同じ場所への移動だったり(「TOKYO SMART DRIVER」)、東京とパリ、二つの都市で平行して行なわれている留学風景だったり(「障壁」)、同棲中の男女と偶然出会った猫たち(?)の同時妊娠風景だったり(「夜の目撃談」)する。同じような事件を、ちゃんと事件を報告するスタイルで、かつての小説も描いただろう。なにしろ、現代文学とは、ひとりひとりが街を徘徊する探偵と化した時代の報告書だともいわれていたからである。だが、青木淳悟の「探偵報告書」は、かつての「探偵報告書」とは違う。かつての「探偵報告書」は、要するに「家政婦は見た」だったのだ。かつての探偵たち(小説家たち)は、そこに(事件に)、「人びとの葛藤」を見ようとしたのである。
青木淳悟は違う。この「探偵報告書」の文体にいちばん近いもの。それは「グーグルマップ」の新機能、「ストリートビュー」だとぼくは思う(なんと、この小説には「ストリートビュー」も登場している!)。「ストリートビュー」を初めて「見た」時の衝撃は忘れ難い。
「ストリートビュー」はあらゆる場所を高速で通過する。我々読者は、自分の部屋から一歩も出ることなく、世界を知る。
だが、そこに映っているのは、建物の克明な映像であり、それと深く関わりのあるはずの人間たちは、たまに映っていても、その顔は巧妙にボカされている。「人間」とは、ほんとうは、それほどまでに淡い存在なのかもしれないのである。
かつての小説は、人間社会という道路を走りながら、連続撮影する「車」だった。そこには、人間しか映っていなかった。それ以外の映像は、巧妙にボカされていた。そのことを、青木淳悟は、我々に初めて告げ知らせたのである。

(たかはし・げんいちろう 作家)

目次

さようなら、またいつか
このあいだ東京でね
TOKYO SMART DRIVER
障壁
夜の目撃談
ワンス・アポン・ア・タイム
日付の数だけ言葉が
東京か、埼玉―家と創作ノートと注釈―

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