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孤独な魂たちが束の間放つ、生の火花。カンヌ新人賞受賞の映画監督による初小説集。

いちばんここに似合う人

ミランダ・ジュライ/著、岸本佐知子/訳

2,052円(税込)

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発売日:2010/08/31

読み仮名 イチバンココニニアウヒト
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 282ページ
ISBN 978-4-10-590085-4
C-CODE 0397
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 2,052円

水が一滴もない土地で、老人たちに洗面器一つで水泳を教える娘。英国のウィリアム王子をめぐる妄想で、頭がはちきれそうな中年女。会ったこともない友人の妹に、本気で恋焦がれる老人――。強烈な個性と奇妙な優しさに満ちた16の短篇を、物語の声にぴったりと寄り添う岸本佐知子訳で。フランク・オコナー国際短篇賞受賞。

著者プロフィール

ミランダ・ジュライ July,Miranda

1974年ヴァーモント州生まれ。カリフォルニア大学サンタクルーズ校を中退後、ポートランドでパフォーマンス・アーティストとしての活動を開始し、短篇映画も撮り始める。2005年、脚本・監督・主演を務めた初の長篇映画『君とボクの虹色の世界』がカンヌ国際映画祭でカメラ・ドール(新人監督賞)を受賞、大きな注目を浴びる。2007年、初めての短篇集『いちばんここに似合う人』でフランク・オコナー国際短篇賞を受賞。2011年、2作目の長篇映画『ザ・フューチャー』および『あなたを選んでくれるもの』を発表。2015年には初めての長篇小説The First Bad Manを刊行した。2012年に長男を出産、夫で映像作家のマイク・ミルズとともにロサンジェルスに暮らす。

岸本佐知子 キシモト・サチコ

1960年生まれ。翻訳家。訳書にリディア・デイヴィス『話の終わり』、ジュディ・バドニッツ『元気で大きいアメリカの赤ちゃん』、ニコルソン・ベイカー『中二階』、ジャネット・ウィンターソン『灯台守の話』、ショーン・タン『遠い町から来た話』など多数。編訳書に『変愛小説集』、『居心地の悪い部屋』、著書に『ねにもつタイプ』など。

書評

波 2010年9月号より 岸本佐知子からミランダ・ジュライへの12の質問

Q1 あなたの短篇集『いちばんここに似合う人』に収められた作品には、読んだ人誰もが「これは私の物語だ!」と思わずにいられないさまざまな感情や瞬間が描かれてます。そういう感情や瞬間を、あなたは世界からどのように切り取ってくるのでしょう?

A1 日々の暮らしのなかで、心惹かれる人や状況に出くわしたり、ふと耳に飛びこんできた言葉にはっとしたりすることがあって、そんなときに思うんです、「この世界はわたしのためにあるんだ!」って。でも、それをそのまま語るだけでは、どうってことのないつまらないお話になってしまう。だからわたしはそれをどう書けばいいか、方法を考えるんです。そういう心を惹かれたディテールを含んだ文脈、リアルな感情をね。書き終わるころにはたいてい、もとのディテールはとっくにどこかへ消えてしまうか、物語のほんの添え物になっています――そのディテールは、物語を書き始めるきっかけにすぎなかったというわけです。


Q2 私は今回の短篇集の中でもとりわけ「水泳チーム」が大好きなのですが、この作品がどのようにして生まれたのか、教えていただけませんか。

A2 これは、昔ある人との関係がすぐに終わってしまったときに感じた悲しい気持や、彼に本当の自分を何一つわかってもらえなかったのだと感じたことから生まれた話です。正直、どうして部屋の中での水泳なんてことを思いついたのかは覚えていません。わたしもじつは泳げないんですが、水泳を題材にしたのはこれが初めてではありません――わたしの初の短篇映画は12歳のオリンピック水泳選手とその母親の物語でした。わたしは両方の役を演じたので、実際に泳がずに水泳のシーンを撮るのには、かなりの工夫を要しました。


Q3 ところで「水泳チーム」は雑誌に載ったときと本に収録されたときとで、内容がかなり細かく変わっていますが、推敲や書き直しはたくさんなさるほうですか?

A3 この本に収録されている短篇はどれも、雑誌に載ったものもそうでないものも、出版するまでにちょっとずつ変わっています。石に刻みつけられてしまう前にしばらくのあいだ抱えていられるというのは、いいものです。


Q4 小学生ぐらいのころは、どんな子供でしたか? そのころのお気に入りの遊びは何でしたか?

A4 ご想像どおり、お芝居を上演したりお話を作ったりするのが好きな子供でした。6歳ごろに書いた本をまだ持っています。『いなくなった子』という題で、なかなかの大作でした。女の子が空から聞こえる声に導かれて家出する。女の子はいくつもの町やジャングルをどんどん歩いていく。しまいに両親がその子を見つけて、バケツで水をかけて目をさまさせる。じつは女の子はお星さまの催眠術にかかっていたのです、というお話。


Q5 ご自分が表現者であるという自覚は、いつごろからお持ちでしたか? 人生最初の作品は、何歳ごろ、どんなものでしたか?

A5 あ、2番目の質問にはもう答えちゃいましたね。これの前にもお話は作っていたと思います。まだ文章は書けなかったけれど、いろんな声色を使い分けて、テープに録音していました。一つ覚えているのは、ジェリービーンの数当てコンテストの話、これはたぶん実際にあった本からアイデアを拝借したんだと思いますが。でも、自分を作家だと思うようになるまでにはずいぶん時間がかかりました。この短篇集を出すまでは、本気で作家になろうと考えていたわけではありませんでした。若いうちに作家として失敗するのが嫌だったんです。そんなことになったら立ち直れないくらいへこんでしまうと、自分でわかっていたので。だから他のことでじゅうぶん成功してから書きはじめたんです。


Q6 小説家としてのあなたに決定的な影響を与えた本がありますか? もしこの先の人生で一冊しか本を読んではいけないと言われたら、何を選びますか?

A6 そうですね、たくさんあります。最近ではリディア・デイヴィスの短篇集がそうでした。この本に決定的な影響を与えられたらいいなと思っています。2番目の質問――たぶん何も選びません。「こんなの馬鹿げてる、わたしが同じ本を何度も何度も読むしかないような状況が、いったい誰の役に立つっていうの?」って言うでしょう。


Q7 映画、アート作品、パフォーマンス、小説と、さまざまな方法で表現をされていますが、その中でも小説でやりたいと思っていることはどんなことでしょう。

A7 一つには、自分にそれができるかどうか、ただ興味があるんだと思います。自分がこの先ずっと一生話を作りつづけていくことが決まってしまっているとしたら、変えられるものといったら、あとは形式ぐらいしかないんです。それ以外の面では、小説も他のものと同じです。未知のものを表現したいし、自分の感情のためのスペースをもう少し広げたい、楽しんだりわくわくしたりしたい、何か新しいものを発見したい、そんなふうに思っていますが、これは特に小説に限ったことではありません。


Q8 小説を書くときは、朝書きますか、それとも夜ですか? 机にきちんと向かって書きますか、それとも寝そべったり家以外の場所で書いたりしますか? 一気に書く、それとも長い時間かけて書く?

A8 そのときどきで変わりますが、たいていは、仕事場にしている小さな家のベッドのなか、もしくはキッチンテーブルで、パソコンを使って(ただしネットはつながずに)、iPhoneも車のグローブボックスに放り込んで、三時間か四時間くらい書きます。それから何か他のことをする。たいていはべつの媒体によるべつのプロジェクトです。いちばん最近書いたのは次の映画『未来』(“The Future”)の脚本です。


Q9 今までどんなペットを飼いましたか? 名前は何でしたか?

A9 猫を飼っていました。名前はマグペン。


Q10 さいきん見た夢を教えてください。それから、繰り返し見る夢があったらそれも教えてください。

A10 繰り返し見る夢がひとつあります。空中浮揚の夢。自分の意志の力だけで宙に浮くことができるんです。この夢を見て目が覚めると、本当に宙に浮かべるような気がして、何時間もその感じが続きます。


Q11 最近ご結婚されたとうかがいました。おめでとうございます。結婚によって、あなたの創作活動に何か変化は起こりましたか、あるいはこれから変わっていくと思いますか?

A11 どういう変化を想像なさっているのかわかりませんが、結婚で何かが変わったということはあまりないです。もう何年かいっしょに暮らしていましたし。でも、もし子供ができたら――そうしたらきっといろんなことが変わるでしょうね。


Q12 今いちばん心配なことは何ですか。楽しみなことは何ですか。

A12 いつも現在取り組んでいることが心配です。それで、自分は心配のしすぎなんじゃないか、人生の喜びを味わいそこねているんじゃないかと、そのことも心配になります。
目下のところ楽しみなのは、長いあいだ取り組んできた映画を完成させることです。あとほんの何カ月かで出来あがるはずです。そうすれば、またべつの大きなプロジェクトを新たに一から始めることができますしね。

短評

▼Mitsuyo Kakuta 角田光代
みごとなくらい挑発的な短篇小説が並んでいる。小説が切り取るだれかの人生が、ありようが、人との関わりが、言葉のぜんぶがいちいち読み手を挑発する。あなた、ひりつくくらい孤独だってことに、なんで知らんふりするの、と。そう、この若き小説家の作品は、逃れようのない孤独を突きつけてくる。彼らの孤独は、そっくりそのまま、私たちのそれだ。やさしさも共感も癒しも、小説は潔く排して、尖っている。なのにどうしたことか、読んでいるうち、彼らの、いや、私たち自身のその孤独が、強く、うつくしく光を放ちはじめ、まるで私たちの生や魂を守る無敵な武器のように思えてくる。

▼San Francisco Chronicle サンフランシスコ・クロニクル紙
ミランダ・ジュライの物語は、あらゆるページで私たちを仰天させる。ときにストレートな性描写で、ときにありえないほど青臭く雄弁な文章で、そしてしばしば、まぎれもない独創性で。

▼The Seattle Times シアトル・タイムズ紙
ミランダ・ジュライは、奇妙で抗しがたい、新しい声を持った作家だ。彼女の描く世界はリアルだがシュールで、絶望的に悲しく、それでいて「秘密の悦び」に満ちている。

▼Zink ジンク誌
豊かで叙情的、遊び心に満ちていて破壊的。驚くほど親しみやすく、申し分なく詩的だ。

目次

共同パティオ
水泳チーム
マジェスティ
階段の男

その人
ロマンスだった
何も必要としない何か
わたしはドアにキスをする
ラム・キエンの男の子
2003年のメイク・ラブ
十の本当のこと
動き
モン・プレジール
あざ
子供にお話を聞かせる方法
訳者あとがき

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