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どうしていつも、うまくいかないのか? 胸を締めつける9つの愛の物語。

こうしてお前は彼女にフラれる

ジュノ・ディアス/著、都甲幸治/訳、久保尚美/訳

2,052円(税込)

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発売日:2013/08/23

読み仮名 コウシテオマエハカノジョニフラレル
シリーズ名 新潮クレスト・ブックス
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 236ページ
ISBN 978-4-10-590103-5
C-CODE 0397
ジャンル 文芸作品、評論・文学研究
定価 2,052円

ニュージャージーの貧困地区で。ドミニカの海岸で。ボストンの大学町で。叶わぬ愛をめぐる物語が、傷ついた家族や壊れかけた社会の姿をも浮き彫りにする――。浮気男ユニオールと女たちが繰り広げる、おかしくも切ない9つのラブ・ストーリー。大ヒット作『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』の著者による最新作。

著者プロフィール

ジュノ・ディアス Diaz,Junot

1968年ドミニカ共和国生まれ。6歳のときに家族で渡米。父親が失踪、兄は白血病を患い、窮乏状態の中で育つ。ラトガーズ大学、コーネル大学大学院で文学と創作を学び、デビュー短篇集『ハイウェイとゴミ溜め』(1996)で高い評価を受ける。初長篇『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』(2007)は全米批評家協会賞およびピュリツァー賞を受賞。2012年には「天才奨学金」として知られるマッカーサー奨学金を得る。現在、マサチューセッツ工科大学創作科で教鞭を執る一方、ピュリツァー賞選考委員も務める。

都甲幸治 トコウ・コウジ

1969年福岡県生まれ。翻訳家、早稲田大学文学学術院教授。東京大学大学院修了。著書に『偽アメリカ文学の誕生』、『21世紀の世界文学30冊を読む』、『狂喜の読み屋』など、訳書にスコット・フィッツジェラルド『ベンジャミン・バトン数奇な人生』、チャールズ・ブコウスキー『勝手に生きろ!』、ジュノ・ディアス『オスカー・ワオの短く凄まじい人生』『こうしてお前は彼女にフラれる』(ともに共訳)、ドン・デリーロ『天使エスメラルダ』(共訳)などがある。

久保尚美 クボ・ナオミ

1970年生まれ。鶴見大学准教授。共著書に『英和翻訳表現辞典[基本表現・文法編]』、共訳書にカークパトリック『英語クリーシェ辞典』、ミラーほか編『サロン・ドット・コム 現代英語作家ガイド』など。

書評

波 2013年9月号より 【新潮クレスト・ブックス創刊15周年特集】 「呪い」と「祈り」

いしいしんじ

甘くとろかせる熱波。黒く焼け焦げる砂糖のかおり。リズムは一定の調子を刻むのでなく、性急に、ベッドの上の律動のように全身で前にのめり、押しとどめようのない衝動のまま、真っ黒い肉の淵へとなだれこむ。ふんわりした語感にだまされてはいけない、メレンゲは、カリブ音楽のパンク、凶暴な太陽の下でのヒップホップ音楽だ。
そこらじゅうの空気がこの、メレンゲの振動で揺れている国、うまれてから墓にはいるまで、メレンゲを呼吸しつづけるひとびとの国、ドミニカとは、その歴史をみると、カリブ海上のある区画を指す名称でなく、ある種の「呪い」あるいは「祈り」を指すようにおもえてくる。
コロンブスの「発見」以降、侵略、絶滅、暴力のるつぼだった。支配する国が、スペイン、フランス、隣国のハイチ、アメリカ軍と流転をつづけようが、いつもかわらず、狂信者、山師に海賊、売春婦たちの楽園だった。ドミニカとは「安息日」の意味だが、この国ではずっと、神様のほうが安息日をとっている、そういわれてきた。
むろん、亡命、外への移住も相次いだ。ところが不思議なのは、ドミニカでうまれた人間は、いずれまた、ドミニカに帰ってくる。それが叶わない場合、まわりを砂糖菓子やメレンゲで飾り、生活をドミニカ化する。そこから「呪い」あるいは「祈り」がにじむ。ジュノ・ディアスの小説世界では、ドミニカを遠く離れたはずの男女に、いつだってドミニカが追いすがり、あっという間に真っ黒い淵へとひきずりこんでしまう。足もとの土地があれよあれよとドミニカ化し、ゆらぎ、ひびわれ、気がついたら、ぐじゅぐじゅにぬかるんで、とても立っていることができない。
申し分のない恋人がいるのに、その知り合いと行きずりのセックスをする。そうしてそのベッドから恋人に電話し、会えなくて寂しい、と言い訳のように口走る。
ガンに冒されつつ、いつものジョークをまわりに振りまきながら、人生はじめての職につく。病院を脱走し、自動車を駆って、遠く州外へ逃げだそうとする。逃げだそうとしたのは、ほんとうに病院からなのか?
浮気相手とのセックスのことを克明に日記に書く。それを盗み読んだ恋人は、芝生の上で金切り声をあげる。

頭を垂れ、男らしく認める代わりに、お前は日記をつまみ上げる。まるで赤ん坊のウンコがついたオムツみたいに、セックスで使ったばかりのコンドームみたいに。お前は問題の個所をちらりと見る。そしてアルマに微笑みかける。お前が死ぬ日まで、お前の嘘つきの顔が憶えてるような微笑みだ。お前は言う。なあ、これはおれの小説の一部だよ。 (「アルマ」)

一行に満たないほんのひと言が、鉄板に思われていた関係を、一瞬で、ひとたまりもなく、砂糖細工のように粉々に砕く。そんなこと、当たり前のようにわかっているのに、そのひと言を、どうしようもなく、空間に吐きださずにはいられない。ドミニカとは、そんな運命に搦め取られた、人間のいとなみのことだ。大切に、大切に集めた、家族写真のアルバムを、目をらんらんと見ひらいたまま、燃えさかる火のなかに投じずにいられない。ただ、そこにあるのは、自暴自棄でない、そのひとのなかにだけ発露する、ことばにできない理由。どはずれた真摯さ。「呪い」と「祈り」。ぐじゃぐじゃに崩れていく土地にふんばって立つ、人間の、ほんとうの素足。
フラれるのは、浮気性だから、みにくいから、貧乏だからではない。どうしようもなく人間であるから、わたしたちはフラれる。虚飾をひきはがされ、素っ裸になって、自分のなかに白々ともえる、ちっぽけなひとのかたちと向きあう。それこそ実は、勇気のいることだ。ジュノ・ディアスの描く男たちが、フラれながらも、力強く、雄々しくフラれてみえるのは、そんな切実さをいつも拳に握りしめているからだ。

(いしい・しんじ 作家)

目次

太陽と月と星々
ニルダ
アルマ
もう一つの人生を、もう一度(オトラビダ・オトラベス)
フラカ
プラの信条
インビエルノ
ミス・ロラ
浮気者のための恋愛入門
訳者あとがき

短評

▼Ishii Shinji いしいしんじ
ドミニカとはある種の男女にとって、生まれついての「運命」のようなものらしい。どの町の、どんな場所に立っていても、土地が揺らぎ、ひび割れ、ぐじゅぐじゅにぬかるんで、彼、彼女を、血と汗の匂いたつ人間関係の泥に引きずり込む。かっこわるいから、貧乏だから、浮気するから、それでフラれるのではない。フラれるのは、私たちがどうしようもなく「人間」であるからだ。ひととひととの間で、身が引き絞られ、はらわたが砕けるような経験をしたことがあったなら、ドミニカに生まれていなくても、誰もがドミニカ人なのだ。

▼Financial Times フィナンシャル・タイムズ紙
ディアスの感動的な短篇集は、愛の終わりというものを見事に示してくれる。最初の疑念から、夢ではないかと思えるような別れ、そしてそれに続く後悔と苦悩まで。

▼TLS タイムズ紙文芸付録
この本には、我々が愛する人をどうやって失うかが書かれているのではない。むしろ、もしそう望んだとしても失うことなどできないということが書いてあるのだ。

▼The Washington Post ワシントン・ポスト紙
感動的な本である。意気消沈がおかしく、狂気がチャーミングで、恋い焦がれる様子がたまらなく魅力的だ。

▼New York Times ニューヨーク・タイムズ紙
ジュノ・ディアスは、現代小説において最も際立った、誘引力の強い声(ヴォイス)のひとつである。

▼Observer オブザーバー紙
冒頭は勇敢で、結末は並外れている。すべてがここにある。あらゆる嘘が解剖され、驚くべき感情のひとつひとつが詳述される。これまでの二作のファンはこの作品も愛することになるだろう。

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