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話題の傑作《バベルの塔》には何が描かれている? 全画業に迫る決定版!

ブリューゲルの世界

森洋子/著

1,944円(税込)

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発売日:2017/04/18

読み仮名 ブリューゲルノセカイ
シリーズ名 とんぼの本
装幀 ピーテル・ブリューゲル《バベルの塔》 1563年ウィーン 美術史美術館蔵/カバー表、広瀬達郎(新潮社写真部)/撮影、大野リサ/ブックデザイン
雑誌から生まれた本 芸術新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 B5判変型
頁数 159ページ
ISBN 978-4-10-602274-6
C-CODE 0371
ジャンル アート・建築・デザイン
定価 1,944円

農村の四季や子供の遊び、聖書や諺の世界――あっと驚く構図に超細密技法で、16世紀フランドルの無名の人々の営みを写し取った天才画家。懐かしくも新鮮なその絵画世界を、ブリューゲル研究の第一人者が解き明かします。真筆41点のすべて、新発見の《聖マルティンのワイン祭り》ほか最新知見もたっぷりと紹介。

著者プロフィール

森洋子 モリ・ヨウコ

美術史家、明治大学名誉教授。新潟県生れ。お茶の水女子大学哲学科卒業後、ミュンヘン大学で西洋美術史を学ぶ。米ブリンマー・カレッジ美術史学科で修士号取得。ベルギー政府給費留学生としてブリューゲルを研究、国際基督教大学で学術博士号取得。ブリューゲルの研究書に対し、サントリー学芸賞、芸術選奨文部大臣賞、ウジェーヌ・ベェ国際賞などを受賞。1988年にベルギー国王より王冠勲章シュヴァリエ章、2001年に紫綬褒章を受章。2011年にベルギー王立考古学アカデミー外国人会員に選出。主な著書に『ブリューゲル全作品』(中央公論新社)、『ブリューゲルの諺の世界―民衆文化を語る』(白凰社)、『ブリューゲルの「子供の遊戯」―遊びの図像学』『シャボン玉の図像学』『ブリューゲル探訪―民衆文化のエネルギー』(いずれも未來社)など。共著に『ベルギー王立図書館所蔵 ブリューゲル版画の世界』(Bunkamura+読売新聞社)、『図説 ベルギー 美術と歴史の旅』(河出書房新社)など。

目次

はじめに
ブリューゲル巡礼地図
第1章
生涯篇
アントワープからブリュッセルへブリューゲル40数年の軌跡
第2章
作品篇1
広場のブリューゲル 諺・祝祭と禁欲・子供
第3章
作品篇2
聖書の世界 ヒエロニムス・ボスなど先人画家への挑戦
第4章
作品篇3
農民の季節の仕事と楽しみ
第5章
作品篇4
ブリューゲルは語る 寓意画の世界
コラム
ブリューゲル交友録
ブリューゲルの版画世界
敬虔なカトリック教徒ブリューゲル
【系譜】
五世代にわたるブリューゲル一族の画家たち
【旅】
今日でも出会えるブリューゲルの世界
ボクレイク野外博物館
ブリューゲルと私――あとがきに代えて
ブックガイド
もっとブリューゲルを知るために

インタビュー/対談/エッセイ

ブリューゲル 細部に宿る魂

森洋子

「森さん、あなたはいつまでブリューゲルを研究しているの」、と知人にいわれたのはおよそ30年前のことだった。考えてみると、美術史家のライフ・ワークとはある地域や時代の研究であっても、一人の芸術家にしぼることは少ないだろう。
 ブリューゲルの作品には世界中の人々が親しみをもつ主題が多い。諺、子供の遊び、謝肉祭と四旬節、農民の労働や婚礼の祝いなど、いずれも画面は「づくし的」な表現で満ちている。私はそれら一つ一つが気になる。《子供の遊戯》では幼い子が豚の膀胱で風船遊びをしているので、東京のレストランに豚の生の膀胱を注文し、膨らませてみた。女の子たちが羊の後ろ足の骨(距骨)でお手玉遊びしているので、パリの肉屋で一ダースの距骨を注文した(本書に骨の写真を掲載)。
 農民画の研究のために、ベルギーのボクレイク野外博物館によく“研修”に出かけた。その結果、ブリューゲルの絵に出てくる農家、納屋、パン焼き小屋、トイレ、三脚椅子、羊の毛刈り用ハサミ、紡錘棒などを博物館にある実物と対比してみたくなった。こうして6頁にわたり、ブリューゲル芸術における民衆文化を紹介できた。また編集者と一緒にブリューゲルと親交のあった知友たちの頁を作った。するとこの画家の関係者たちが我も我もと名乗りでて、自己PRするではないか。彼らにお詫びをしながら15人に絞ったのは心苦しかった。
 なんといっても力点を置いたのは、ウィーンとロッテルダムの二つの《バベルの塔》の比較である。ウィーンの塔は中世以来の図像学的な伝統を踏襲している。ロッテルダムの塔はどうか。ちょうど4月からの展覧会のために作られた、この作品のポスターを仕事部屋に貼って、朝晩眺める。細部に関しては超高画質の画像をパソコンで隅々まで見る。するとほとんどの研究者は指摘していないが、総煉瓦造りのこの塔の周辺には煉瓦窯が小さく、たくさん描かれ、もくもくと煙まで立ち昇らせているのを発見した。実はこの塔は「不可能を可能にする」人間の奇跡の塔としてルネサンス人の憧憬の対象となった。だが「バベルの塔を建てる」というオランダ語の諺は、「実現不可能な巨大なプロジェクトを始める」という諷刺を意味する。こうしたパラドックス的なロッテルダムの塔は、ウィーンのそれよりも同時代や後世の画家に大きな刺激を与えた。
 これまでのブリューゲル論で一番気になるのは、三段論法式の解釈である。例えば、16世紀のネーデルラントはスペインの支配下にあった。ブリューゲルは《十字架を担うキリスト》を制作。ゆえに画家は当時の民衆の苦しみを暗喩している、と。しかしこの聖書の主題はブリューゲル以前、他の国々の画家たちも描いていた。この作品の特色は「主人公の埋没」「嘆きの聖母マリアの突出した存在」「群衆一人一人の個性的な動き」などである。作品に語らせるブリューゲルの力にもっと注目してほしい。

(もり・ようこ 美術史家・明治大学名誉教授)
波 2017年5月号より

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