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かくれキリシタン―長崎・五島・平戸・天草をめぐる旅―

後藤真樹/著

1,760円(税込)

発売日:2018/04/26

  • 書籍

この比類なき、奇跡のような信仰のかたち。

受難の歴史をのりこえて400年、密かに脈々と信仰を伝えてきた「かくれキリシタン」。美しくも厳しき自然の中で、暮らしに根づいた独自の祈りのかたちを守り育んできた人々を訪ね、貴重な証言とともに、その聖地や史跡を丹念にたどる。各地に残る小さな聖堂も数多紹介。2018年登録予定の世界文化遺産をめぐるガイドとしても必携の書。

目次
プロローグ
I 外海 “陸の孤島”に受け継がれた信仰
キリシタンを支えた伝説の伝道師
キリシタンの聖地、枯松神社
巡礼地としてよみがえった史跡
II 五島列島 海風吹きぬける島々に宿る篤い信仰
先祖の信仰を受け継ぐ人々
五島のかくれキリシタン
人がいなくなった島と教会
III 平戸 歴史を刻むキリシタンの聖地
伝説に満ちる里、根獅子
布教当時の信仰を今に伝える島、生月
春日の集落と、聖なる山安満岳
IV 天草 殉教の島に息づく信仰の証
大江・崎津に受け継がれたもの
V 祈りの場、教会堂へ
キリスト教の広まりと弾圧の歴史
布教の背景
二十六聖人の殉教
島原・天草一揆
弾圧と「崩れ」
各地に残るキリシタン墓地
column きりしたん・伝承
潜伏キリシタンを守った天福寺
かくれキリシタンの帳方を継いで
かくれキリシタンの信仰の形
今富の正月飾り
信徒発見
長崎・五島・平戸・天草
教会マップ
エピローグ

書誌情報

読み仮名 カクレキリシタンナガサキゴトウヒラドアマクサヲメグルタビ
シリーズ名 とんぼの本
装幀 長崎市、西彼杵半島中央部にある次兵衛岩へと向かう山中に置かれたマリア像/カバー表、後藤真樹/撮影、中村香織/ブックデザイン、nakaban/シンボルマーク
発行形態 書籍
判型 B5判変型
頁数 128ページ
ISBN 978-4-10-602281-4
C-CODE 0395
ジャンル ノンフィクション
定価 1,760円

インタビュー/対談/エッセイ

旅の始まり、そして取材を終えて

後藤真樹

 大阪の高槻でかくれキリシタンの遺物を見た後、フェリーで九州に入った。長崎での最初の取材地に選んだのは九十九島の一つ、佐世保市の黒島。目的は重文指定の黒島天主堂。下船した僕は撮影一発目ということもあって気負いがある。まずは天主堂と関係ない船着き場をモチーフにして些か強引にカメラを構えた。「どうも構図が……。雲の形が……。あれが邪魔だな……」ぶつぶつ呟く。結局は満足がいかないまま何カットかカメラに収めて、夏のように照りつける日差しの中、反射で輝くコンクリートの細道をカメラを手にしたままトボトボと歩く。道の真中に大きな黒い蝶がとまっているのに気がついた。「おっ、モデルが現れた」呟く。でも様子がおかしい。蛾のように羽を広げてとまっていることにようやく気づく。俯瞰でアップをねらってみることにした。「逃げられたらそれまでで惜しくはない」。蝶はほんとにモデルのつもりなのか逃げる気配がない。近づいてみてわかった。片羽が羽化不全で飛ぶことができないのだ。では何故この場所に君はいる。ここまで迎えに出てくれたのか? それとも何かを伝えに? 僕には何かの暗示のように思えた。それで君をカメラに収めた……気負わずに。ようやく準備が整った。

 取材を終えて思い返してみると、今回はお墓がキーワードだったようです。それはかくれキリシタンの聖地が嘗て殉教の地で、殉教者の墓自体も信仰対象になっていたことに起因しますが、それだけではありません。かくれキリシタン、カトリック、仏教徒の誰からもお墓や葬式、先祖の話がでてきたということ。その話の内容は本書に譲るとして、信仰の主目的は実はそこにあると思えるほどでした。それは旧来の考え方であって、大なり小なり日本人は皆そうで、この地域に限った話ではありません。日本人は自然に感謝と怖れを抱き、死の穢れを忌み嫌い、先祖を祭って導きを求め、荒ぶる御霊には平身低頭して祭り上げ有益なものにしてしまう。この雑多さは、アニミズム的な本質を有する他の国々の人も同様なのかわかりませんが、少なくとも日本のそれは、本来いくつもの民族が混じり合って成立した日本人のさまざまな考え方が混じり合った結果だと私には思えるのです。仏教はやがて葬式仏教と揶揄されるほど教義を変化させ日本人の生活に溶け込みました。日本のキリスト教ももっとこれを許容すれば受け入れられやすくなるのでは。
 かくれキリシタンの信仰は、信仰を導く指導者(宣教師など)が不在になって徐々に変化していき、絶えず踏み絵を踏まされることで秘密を保持する連帯感が強まり、つい少し前まで地域のコミュニティの礎となっていました。そのかくれキリシタン信仰が今途絶えようとしているのは、社会生活の変化。具体的にいえば、若者の働く場所が無く、過疎化に歯止めがきかないことでしょう。それは全国の地方で起こっていることと同じで他人事ではないのです。

(ごとう・まさき 写真家)
波 2018年5月号より

著者プロフィール

後藤真樹

ゴトウ・マサキ

写真家、座右宝刊行会代表。1958年東京生まれ。成城学園高等学校、国際商科大学(現・東京国際大学)卒業、東京綜合写真専門学校研究科中退。坂本万七寫眞研究所で美術品の撮影にかかわり、1988年独立後は商業写真や美術、郷土料理、伝統文化に関する撮影を手がける。主な著書に『日曜関東古寺めぐり』(共著 1993年 新潮社)、『未来へ伝えたい日本の伝統料理』(全6巻 2010年 小峰書店)、『おーい、フクチン! おまえさん、しあわせかい? 54匹の置き去りになった猫の物語』(2014年 座右宝刊行会)など。

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