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ビッグバン以前、ブラックホール以後。宇宙はどこまでわかったのか?

宇宙に果てはあるか

吉田伸夫/著

1,188円(税込)

本の仕様

発売日:2007/01/25

読み仮名 ウチュウニハテハアルカ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 223ページ
ISBN 978-4-10-603576-0
C-CODE 0344
ジャンル 宇宙学・天文学
定価 1,188円

始まりは? 重力は? 大きさは? アインシュタインからハッブル、ホーキングまで――宇宙をめぐる12の謎に挑んだ科学者たちの、創意と誤まりと発見のよろこびにみちた思考のプロセスを、深くて平易な語り口で解き明かす待望の一書。わたしたちはいま、宇宙のどこにいて、どこへ向かって生きているのだろう。

著者プロフィール

吉田伸夫 ヨシダ・ノブオ

1956年、三重県生まれ。東京大学理学部物理学科卒業、同大学院博士課程修了。理学博士。専攻は素粒子論(量子色力学)。東海大学、明海大学で非常勤講師をつとめながら、科学哲学や科学史をはじめ幅ひろい分野で研究を行なっている(ホームページ「科学と技術の諸相」参照)。著書に『宇宙に果てはあるか』『光の場、電子の海』(いずれも新潮選書)、『日本人とナノエレクトロニクス』(技術評論社)などがある。

科学と技術の諸相 (外部リンク)

書評

一筋縄でなかった宇宙論の歩み

池内了

 現代宇宙論は、さまざまな観測的事実と整合的なビッグバン理論が大勢を制し、今や実証科学の道を歩んでいる。アインシュタインが一般相対性理論に基づく宇宙モデルを発表して九〇年、ガモフがビッグバン理論を提唱して六〇年の歳月を経て、信頼に足る科学的宇宙像が確立しつつあるのだ。
 その間には、さまざまな論争があり、思い違いや事実の誤認があり、時代に制約された常識の壁もあった。本書は、そのような宇宙論がたどったジグザグの歴史を、一二の設問に分けて詳しく跡付けしたものである。類書と異なる特色は、すべての設問について、まず原論文から入って問題の所在を明らかにし、続いてどのように議論され修正されてきたかを振り返っていることだ。
 例えば、銀河系の大きさに関わるシャプレーとカーチスの「大論争」(第一章)では、アンドロメダ星雲までの距離決定に問題があった。アインシュタインは宇宙は静止していると信じたために宇宙を有限とせざるを得なかったが(第二章)、運動する宇宙に転換すれば無限宇宙が普通になった。ハッブルは宇宙年齢を小さく見積もりすぎ(第四章)、ガモフはすべての元素が初期宇宙で形成されるという楽観論から出発した(第五章)。それらは後の研究によって糺され、あるいは偶然の発見によって新たな道が切り拓かれて、徐々に明確な宇宙像へと焦点を結んできたのだ。
 さらに、ガモフの理論を「ビッグバン」として嘲笑したホイルの思惑(第六章)、ブラックホールを毛嫌いしてそれを否定したアインシュタインの失敗(第八章)など、「あらまほしい」宇宙と「あるべき」宇宙のせめぎ合いという人間臭い歴史もあった。宇宙論は一筋縄で発展したわけではないのである。
 科学の発展にとって重要なことは、間違いがあっても要所を突いた問題を提起することだ。そこからさまざまな所論が誘起され百家争鳴を経る中で、やがて誰もが納得する理論へと落ち着いていく。宇宙論もこのような科学の正道を歩んできた。アインシュタインは(ここに二例を書いたように)何度も「生涯最大の失敗」を繰り返したが、彼の間違った論文ほど生産的であったことはない。これも宇宙論の貴重な歴史なのである。

(いけうち・さとる 宇宙物理学者)
波 2007年2月号より

目次

はじめに
第1章 われわれはどこにいるのか 大銀河説と島宇宙説
宇宙のなかの人間/シャプレーvs.カーチス論争
シャプレーの大銀河説/カーチスの島宇宙説
渦巻星雲の新星/われわれはどこにいるのか
第2章 宇宙に果てはあるか 相対論的宇宙モデル
宇宙の果てをめぐる思索/アインシュタインの一般相対論
境界条件の問題/果てのある宇宙モデル
果てのない宇宙モデル/「生涯最大のヘマ」
宇宙に果てはあるか
第3章 宇宙は変化しているのか 動的宇宙論
「不変なる宇宙」のイメージ/一般相対論における動的解の発見
フリードマン模型――閉じた宇宙の場合/アインシュタインの批判
フリードマン模型――開いた宇宙の場合/ソビエトの状況
動的宇宙論の受容/宇宙は変化しているのか
第4章 宇宙はどれほど大きいか ハッブルの法則
宇宙のスケール/近くの恒星までの距離測定
セファイド――宇宙の距離標識/銀河までの距離の測定
ドップラー効果による視線速度の測定/距離-速度関係の発見
ハッブルの法則と宇宙の膨張/データの修正
宇宙はどれほど大きいか
第5章 宇宙はどのように始まったか ビッグバン宇宙論
宇宙創成への問いかけ/核物理学の進展
宇宙の熱核反応/宇宙の火の玉
αβγ理論/ささやかな誤り
宇宙はどのように始まったか
第6章 ビッグバンは本当にあったのか 背景放射の発見
電波天文学の夜明け/ペンジアスとウィルソンの発見
ビッグバンと背景放射/背景放射の理論
定常宇宙論の敗北/ビッグバンは本当にあったのか
第7章 星はなぜ輝くのか 恒星進化と元素の起源
恒星エネルギーの謎/核エネルギー説の登場
恒星内部での核反応/ppチェーンとCNOサイクル
恒星における元素合成/星はなぜ輝くのか
第8章 ブラックホールとは何か 重力崩壊の理論
見えない星の可能性/シュヴァルツシルトの外部解/事象の地平面
大質量星の安定性/恒星の末路/持続的な重力崩壊
その後の研究成果/ブラックホールとは何か
第9章 世界はいかに形づくられたか 太陽系と銀河系の形成
カントの星雲説/角運動量の困難/遭遇説の盛衰
標準理論の構築/太陽系形成の標準理論/ジーンズ不安定性
ボトムアップ説とトップダウン説/世界はいかに形づくられたか
第10章 われわれはひとりぼっちか 地球外文明の探索
星間交信の可能性/ドレイクの式/太陽に似た恒星の年間生成数
惑星が存在する確率/生命に適した惑星の個数/生命発生の確率
知的生物に進化する確率/技術文明を発展させる確率
技術文明の継続期間/われわれはひとりぼっちか
第11章 ビッグバンの前に何があったか インフレーション宇宙論
宇宙論と素粒子論の出会い/素粒子論における物質観
場の凝縮と真空のエネルギー/宇宙のインフレーション
地平線問題の解決/インフレーション理論の受容
ビッグバンの前に何があったか
第12章 われわれはどこへ向かっているのか 宇宙のエントロピー
エントロピー増大の法則/地球と太陽系のエントロピー
始まりの秩序/ブラックホールのエントロピー
ホーキング放射/宇宙のエントロピー
われわれはどこへ向かっているのか

宇宙の階層構造
科学者リスト
本文中で紹介した論文
索引

キーワード

担当編集者のひとこと

科学者たちは謎をどう解いた? 20世紀最大の知的遺産、それが宇宙論だ。

 吉田伸夫さんが書き下ろしたこの本は、20世紀に驚異的な成果をあげた宇宙論の進展をていねいに跡づけたもの。宇宙論史上に名高いシャプレーとカーチスの「大論争」をはじめ、アインシュタインからホーキングにいたる科学者たちが宇宙の謎に挑んだ画期的な思考のプロセスを、深くそして平易に説き明かしています。
 銀河はひとつか複数か、宇宙に果てはあるか、ビッグバン以前にはいったい何が起こり、またブラックホールはこれからどのようにして蒸発するのか。本書は12の謎を掲げ、それを見事に解明した科学者たちの原論文にさかのぼりながら、彼らのいかにも人間くさい先入観や、公表してほしくないかもしれないケアレスミスまで含めて、そのスリリングな科学的思考法を浮彫にしていきます。
 著者は1956年生れ。東海大学などで非常勤講師をつとめながら、科学史や科学哲学をはじめ、幅ひろい分野で研究を行なっています。実際にお会いすると、珈琲にスプーンで二杯お砂糖をいれる物静かな紳士。この本はむしろ文科系の読者にこそ読んでいただきたい、とおっしゃっていました。ちなみにこの本、内容は高度なのに、数式は四つしか登場しません。

2007/01/25

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