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誰も論じなかったイスラーム問題の核心とは?

中東 危機の震源を読む

池内恵/著

1,728円(税込)

本の仕様

発売日:2009/07/24

読み仮名 チュウトウキキノシンゲンヲヨム
シリーズ名 新潮選書
雑誌から生まれた本 Foresightから生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判変型
頁数 367ページ
ISBN 978-4-10-603643-9
C-CODE 0331
ジャンル 政治、外交・国際関係
定価 1,728円

オバマはイスラームと西洋近代の衝突を避けられるか? ジハード思想とテロの関係は? ドバイ経済は崩壊するか? パレスチナ、イラク、イラン……次々と火を噴く「危機」の深層を、最新情勢から歴史的背景まで掘り下げて解説する。注目の国際政治学者による、イスラーム世界と中東政治の行方を見通すための必読書。

著者プロフィール

池内恵 イケウチ・サトシ

1973年、東京都生まれ。東京大学先端科学技術研究センター准教授。東京大学文学部イスラム学科卒業。東京大学大学院総合文化研究科博士課程単位取得退学。日本貿易振興機構アジア経済研究所研究員、国際日本文化研究センター准教授を経て、2008年10月より現職。著書に『現代アラブの社会思想』(大佛次郎論壇賞)、『書物の運命』(毎日書評賞)、『アラブ政治の今を読む』『イスラーム世界の論じ方』などがある。

書評

波 2009年8月号より 池内恵を持つ幸せ

坂元一哉

中東情勢は世界政治に多大な影響を与える。日本は原油の九割近くを中東地域に依存している。にもかかわらず、われわれの中東理解は一向に進まない。そうした嘆きはかつてよく聞かれたし、今でも聞かれる。だがここ数年、事情はだいぶよくなったのではないか。
テロとの戦い、イラク戦争、イランの核疑惑、世界政治を揺るがす問題が次々に生じて、否応なくこの地域への関心が高まる中、国民の中東理解を格段に進める優れた啓蒙書が表れるようになったからである。池内恵氏(東大准教授)の書物はその代表と言ってよい。
数年前にある評論家は「池内恵を持つ幸せ」といった表現で池内氏の書物を褒めた。複雑怪奇な中東情勢の骨と肉を鋭く切り分け、毒を除き、噛みやすく、のみこみやすく、しかも栄養(教養)たっぷりの料理(論考)に仕上げる、池内氏の並々ならぬ能力に感心してのことと推測する。池内氏が文字通り春秋に富む研究者(一九七三年生まれ)であることも、そうした表現につながったのだろう。氏の五冊目の単著になる本書も「池内恵を持つ幸せ」を随所に感じることができる書物になっている。
もともとは新潮社の定期購読月刊誌「フォーサイト」に連載された氏の長めのコラム、過去四年半分を一冊にまとめたものだ。私自身は「フォーサイト」の愛読者であり、毎月このコラムを楽しみに読んできたのだが、一般書店で販売していない雑誌なので、多くの人の目に触れないことが残念だった。だから本書の出版を嬉しく思う。
と同時に、今回一冊にまとめられた五十数本のコラムを一挙に読み返してみて、再び幸せな気分にもなった。一つ一つのコラムがジグソーパズルのようにつながり、中東情勢の構造と意味を映し出す一幅の絵が――自分なりの下手な絵だが――頭の中に浮かぶように感じたからである。
私が本書の中で「池内恵を持つ幸せ」を感じるコラムの一つは、昨年の米大統領選挙の最中、オバマ候補とイスラム教について、ある米国の国際政治学者が書いた論考を池内氏が批判したコラムである(二七九頁)。詳しくは書かないが、その学者はオバマ氏はその生い立ちにより、イスラム諸国から「背教者」とみなされるだろうから、大統領になれば米国とイスラム教国との関係が難しくなると主張した。これに対して池内氏は、イスラム教の原理原則と、この問題の現実的取り扱いの両面から論じて、そうはならないと明言した。西欧とイスラムの抜き差しならない価値観の衝突を正面から見据えつつ、政治、経済、社会のさまざまな現実の中に衝突回避のための思考の道を探ろうとする氏ならではのコラムだったと思う。
本書は、中東情勢はもちろん、国際政治全般に関心のある読者に是非お読みいただきたい一冊である。

(さかもと・かずや 大阪大学教授)

目次

序説
2004
12・9 「アラビーヤ」がもたらすアラブ・メディアの対立軸
2005
1・7 国民議会選挙に向かうイラク 「恐怖」との戦い
2・11 イランとシーア派の影響力を精査する
3・13 混迷のレバノン史に新たなページは開くのか
4・10 「アラブの発展モデル」エジプトが試される時
5・14 アメリカ憎悪を肥大させたムスリム思想家の原体験
6・11 イラク史に塗り込められたテロと略奪の政治文化
7・11 エジプトとシリア 立憲主義を骨抜きにする「緊急事態法」
8・15 イギリスの多文化主義を揺るがす「寛容のジレンマ」
9・11 イラク憲法草案の文言に込められた政治的配慮
10・7 イラク安定の鍵を握るシーア派の粘り強さ
11・10 イラク新国家成立を左右するクルド民族主義の出方
12・12 「取り残された若者たち」をフランスはどう扱うのか
2006
1・16 シャロンの退場とパレスチナ和平の行末
2・10 風刺画問題が炙り出した西欧とイスラームの「対立軸」
3・13 「ハマース政権」の足枷となる「憲章」の強硬姿勢
4・9 アフガニスタン改宗者裁判が問う「自由」と「寛容」の意味
5・13 イスラエルとの「特別な関係」を自問し始めたアメリカ
6・11 エジプトの「コプト教徒問題」に危険な展開の兆し
7・8 アレクサンドリアとヴェネツィアの奇縁
8・14 ヒズブッラーを利した米「中東政策」の逆効果
9・10 「痛み分け」で終わったレバノン紛争の希望と危惧
10・15 ローマ法王発言とパムクのノーベル文学賞
11・12 「絶対の真理」への傾斜で薄れゆく「知の共通項」
12・10 米国イラク調査グループの重要かつ初歩的な提案
2007
1・15 フセイン処刑に表われた「イラク流」の政治
2・10 「価値の闘争」を打ち出したイギリスの危機感
3・11 千年河清を俟つごときイラクの現状と曙光
4・16 イギリス兵拘束と解放でイランが見せた宣伝戦
5・14 安倍首相中東歴訪で考える「日本の活路」
6・10 二〇〇七年サミットでは「中東問題」に沈黙
7・13 深化する強硬思想と戦うイギリス新首相の「人心掌握」
8・12 エジプトの改宗騒動が浮彫りにした人権概念の乖離
9・6 岐路に立たされるレバノンの宗派主義体制
10・14 情報リークが謎を深めたイスラエルのシリア攻撃
11・10 中東の秩序を支えてきたエジプトが悩む後継問題
12・7 イランNIE文書とブッシュ政権の「遺産形成」
2008
1・13 「祖父の地点」に逆戻りしたエジプトの近代改革
2・10 海底ケーブル切断が示した「帝国の通信ルート」
3・10 「八年前」を繰り返すごとき中東紛争
4・13 東南アジアの「穏健な」イスラームの可能性と限界
5・11 レバノン市街戦で蘇る内戦の危機
6・16 「オバマ大統領」誕生が道徳上の力となる可能性
7・14 次期政権を見据えて進む米「知的インフラ」の再編成
8・10 北京五輪が露呈させた「帝国中国」
9・15 フィリピン政治で解決不能なミンダナオ和平
10・12 世界金融危機で湾岸ドバイが岐路に立つ
11・8 オバマにのしかかる中東の「高すぎる期待」
12・15 ソマリア沖海賊問題へのアラブ諸国の複雑な感情
2009
1・12 イスラエルのガザ攻撃「国際世論は味方せず」
2・16 中東に歩み寄るオバマを待つ困難な決断
3・15 ドバイとサウジアラビアの「補完関係」
4・12 中東・イスラームに向けられた「オバマの言葉」
むすびに
年表
索引

担当編集者のひとこと

中東 危機の震源を読む

「イスラーム」を知るための必読書。
「論壇」を考えるための必読書。 本書は、中東・イスラームの「入門書」として最適の一冊です。
 パレスチナ紛争・自爆テロ・イラク戦争・イラン核疑惑・新疆ウイグル・ソマリア海賊・ドバイ経済など、日本の読者が知りたいと思うであろう諸問題が、ほぼすべて網羅されています。
 特に「イスラーム世界と西欧近代社会の価値観の衝突は回避できるのか?」というテーマについては、深く考察されています。日本の言説空間でまかり通っている「イスラーム教は他宗教に寛容」「テロの原因は格差と貧困」「すべてはイスラエルとアメリカが悪い」というような一面的な議論に満足できない読者にとって、本書は必読書です。
 また、本書の「むすびに」に書かれている、日本の論壇に対する鋭い批判にも要注目です。
 著者は、論壇誌が次々と廃刊になるのは、空疎な「論争」の軸を提起して盛り上がり、乏しい事実認識からなされる短絡的で情緒的な主張を「想像力」ともてはやすばかりで、肝心の「事実」に到達するための営為を軽視しているからではないのか、と問います。


 ――「単なる事実」を求める「レポート」の価値を感じられない人は、何か大きなものへの怖れを失った人であると私は思う。――(349頁より)


「論壇」のあり方、そして「知的営為とは何か」を考える上でも、最適の一冊ではないでしょうか。

2016/04/27

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