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僧侶、好き者、御殿女中、後家……かれらが足繁く通った場所はどこか?

江戸の色道―古川柳から覗く男色の世界―

渡辺信一郎/著

1,296円(税込)

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発売日:2013/08/23

読み仮名 エドノシキドウコセンリュウカラノゾクダンショクノセカイ
シリーズ名 新潮選書
発行形態 書籍、電子書籍
判型 四六判変型
頁数 204ページ
ISBN 978-4-10-603733-7
C-CODE 0392
ジャンル 文化人類学・民俗学
定価 1,296円
電子書籍 価格 1,037円
電子書籍 配信開始日 2014/02/28

性愛文化の最先端にあった江戸庶民は、男色でも同時代の世界をリードしていた。その起源から衆道の奥義、武士同士の「念友の契り」、「小僧は脚気の薬」というような俗信、陰間の生態、陰間茶屋の様子まで、女色の「天悦」に対して「大悦」と呼ばれた悩ましくも奥深いこの道を、当時の色道奥義書の図版や古川柳を交えて紹介する。

著者プロフィール

渡辺信一郎 ワタナベ・シンイチロウ

(1934-2004)江戸庶民文化研究者、古川柳研究者。1934年東京生まれ。早稲田大学卒。元都立深沢高校校長。主著に『江戸の寺子屋と子供たち』(三樹書房)『江戸の生業事典』(東京堂出版)、『江戸の女たちのグルメ事情』(TOTO出版)、『江戸の女たちの湯浴み』『江戸のおトイレ』『江戸の閨房術』(新潮選書)、『江戸バレ句 戀の色直し』(集英社新書)、『江戸の知られざる風俗』(ちくま新書)、『江戸の化粧』(平凡社新書)など。蕣露庵主人の筆名もある。2004年没。

書評

波 2013年9月号より 江戸文化の裏面を照らし出した労作

氏家幹人

昭和七年(一九三二)十一月十八日、永井荷風は、軽部某の案内で新富町の「男色をひさぐ者」の家を訪れた。その家の主人は尾上朝之助という役者で、ほかに三、四人の陰間(男娼)がいた。荷風は九年十月二十六日にも、「女形役者の淫行年々甚しくなれり」として、中村福助と「慶應義塾卒業生河合某」の噂に触れ、「下廻女形役者の中には客に招がれて待合に行くものあり。枕金拾円の由なり」と記している(『断腸亭日乗』)。
陰間、歌舞伎役者、女形――。右は昭和前期の様子だが、その原点は江戸時代にさかのぼる。芳町(現在の日本橋人形町)を中心に、湯島天神や麹町平河天神界隈など数ヶ所で陰間宿が営業していた。
十代の少年が役者の弟子という名目で陰間宿に抱えられ、しかるべくしつけられたのち男色をひさぐ。男色だけではない。数え年で二十歳前後ともなれば、少年としては下り坂。その後は御殿女中や後家あるいは商家の人妻を相手に、男として稼いだ。
知られざる世界? いや、この程度の話は今やごく普通の新書にも書かれている。
渡辺信一郎『江戸の色道―古川柳から覗く男色の世界―』が艶本や破礼句を縦横自在に引用しながら照らし出したのは、促成の江戸研究家によって書かれた、ありふれた男色風俗史ではない。もちろん腐女子が耽溺し歴女が萌える美少年の恋物語とも違う。
照らし出されたのは、余人が容易に踏み込めない生々しい陰間の売色の現実と、すさまじいまでの性技の数々だ。おのずとその内容は刺激的で、アブナイ。十歳になったかならぬ子どもの身体を、男色に耐えるように特殊な器具で慣らし鍛える行為は、児童に対する性的虐待そのものだし、糞便のニオイで馴染みの陰間を思い出し欲情するという小咄には、スカトロ趣味のない人は絶句だろう。
弘法大師に仮託して詠まれた一首、「恋といふ其源を尋ねれば ばりくそ穴の二つなるべし」も紹介されている。恋の根源はアソコとアソコの二つの穴。性交は「内部の摩擦といくらかの痙攣を伴う粘液の分泌である」(神谷美恵子訳 マルクス・アウレーリウス『自省録』)という名言に劣らぬ絶唱だ。
「ちょっちょっと陰間を買って偏らず」という川柳も江戸の色道のバランス感覚をうかがわせて興味深い。川柳だけでなく、著者は艶本から“男女ごっちゃまぜ”のバイセクシャルな乱交図も披露する。さらには男色相手の少年や陰間を肛門のヒダの数で品評したマニアの超オタク本まで。色道の極み。
学術的観点からは、引用資料の出典や所蔵者の明記がほしいところだが、著者はすでに鬼籍に入っているので、それも突き止めようもない。いずれにせよ、男色を中心に江戸の性風俗をこれでもかこれでもかと描き出した著者の執着ぶりには圧倒される。スイだイキだと美辞で飾られがちな江戸文化の裏面を照らし出した労作でもある。

(うじいえ・みきと 古文書読み)

目次

まえがき

一、若衆仕立て用のこと
二、通和散(つうわさん)のこと
三、若衆・寺小姓・地若衆
 1、本邦開祖は弘法大師説
 2、衆道二品あり
四、念者(ねんじゃ)、兄分(あにぶん)と弟分(おとうとぶん)
五、小僧は脚気の薬
六、男色嗜好の男たち
 1、狙われる御用聞・樽拾い
 2、呉服の大店(おおだな)の丁稚小僧も狙われる
 3、「島屋の番頭」事件
 4、女色とともに
七、陰間の生態
 1、若衆の花は短い
 2、舞台子・飛子・陰間
 3、水揚げ
 4、釜破損とその治療
八、陰間茶屋の実態
 1、陰間茶屋の盛衰
 2、陰間の茶屋入り
 3、一切りは線香一本
九、陰間茶屋の客
 1、僧侶
 2、好き者の男たち
 3、御殿女中
 4、後家
一〇、肛交の実際
 1、小姓の場合
 2、念者同士の場合
 3、男娼との場合
 4、黄色い襟巻き
古川柳・都々逸・狂歌 松本光夫

担当編集者のひとこと

江戸の色道―古川柳から覗く男色の世界―

女が陰間茶屋に通う理由 江戸時代は天下泰平の世と知られていますが、平和な時代だからこそ、浮世草子、浮世絵、俳諧、歌舞伎などさまざまな文化が華開きました。しかし、当時の人々はそうした表の世界だけでなく、夜の性愛文化――それも異性愛だけでなく、男色の世界も熱心に探求していました。そこには、極めるべき色道として男色を捉えていたということもあったのだと思います。
 たとえば、万能の天才であった平賀源内は、男色好きとしても有名で、『男色細見三の朝』なる著作で男色の醍醐味を讃えています。好奇心旺盛な人間であれば、「此の道の味」は知っておこうと、当時「好き者」と呼ばれた人たちは考えて、「陰間茶屋」と言われた男娼窟に出入りしたのでしょう。そして、この陰間茶屋は今の人形町界隈である芳町、寛永寺の近くの湯島天神など江戸のあちこちに点在していました。
 陰間茶屋に通ったのは、女色の禁じられた僧侶や「好き者」だけではなく、女性もいました。意外に思われるかもしれませんが、その客が「後家」や「御殿女中」と聞けば、にやりとする人もいるかもしれません。本書の面白さは、当時の古川柳を交えながら、当時の情景を再現しているところにもあります。では、よけいな説明は無しにして、いくつか並べてみます。


 女をばする男にはさせるなり


 女の声の低い芳町


 芳町で深く合わせた前を明け


 さっぱりと諦めて後家買いに行き


 いかがでしょうか。婉曲的な表現のものだけを選んでみたのですが、なるほどと思われたでしょうか。さらにディープな江戸文化を知りたい方は、どうぞこの本をお手にとってください。

2016/04/27

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