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テレビで大反響! 癌の妻、闘病5年。夫は毎日一話、書き続けた。ちょっと変わった愛妻物語。

  • 映画化僕と妻の1778の物語(2011年1月公開)

妻に捧げた1778話

眉村卓/著

734円(税込)

本の仕様

発売日:2004/05/19

読み仮名 ツマニササゲタセンナナヒャクナナジュウハチワ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 207ページ
ISBN 978-4-10-610069-7
C-CODE 0295
整理番号 69
ジャンル エッセー・随筆、評論・文学研究、科学、ビジネス・経済
定価 734円
電子書籍 価格 648円
電子書籍 配信開始日 2010/06/11

余命は一年、そう宣告された妻のために、小説家である夫は、とても不可能と思われる約束をした。しかし、夫はその言葉通り、毎日一篇のお話を書き続けた。五年間頑張った妻が亡くなった日の最後の原稿、最後の行に夫は書いた──「また一緒に暮らしましょう」。妻のために書かれた1778篇から19篇を選び、妻の闘病生活と夫婦の長かった結婚生活を振り返るエッセイを合わせたちょっと変わった愛妻物語。

著者プロフィール

眉村卓 マユムラ・タク

1934(昭和9)年大阪市生まれ。本名・村上卓児。大阪大学経済学部卒業。会社員を経て、小説家に。大阪芸術大学教授。作品に、『なぞの転校生』『ねらわれた学園』『消滅の光輪』(泉鏡花文学賞・星雲賞受賞)『時空の旅人』などがある。2002年5月、悦子夫人を癌で失う。

目次

毎日一話
闘病五年
一日一話 その一
騒音吸収板  作りものの夏  古い硬貨
新制中学
妻と私
初段  出好き  協力者
一日一話 その二
ある書評  ダイラリン・その他  蝉になる  天からお札  降水時代  書斎
俳句
一日一話 その三
土産物店の人形  兄貴のこと  秒読み  映画館の空き地  聞いて忘れて下さい  ウェルカム通り  夜中のタバコ
非常と日常
一日一話の終わり
話を読む  けさも書く  最終回
少し長いあとがき
記録──1997~2004年

インタビュー/対談/エッセイ

雨の日も風の日も

眉村卓

 妻が腹痛で入院し、手術を受けた。虫垂炎と思っていたのが、悪性腫瘍で、五年後生存の可能性はゼロと言われた。手術そのものは成功で二十日ばかりで退院し、週二日の通院をしながらの、当面は普通の生活になったのである。
 病人に負担をかけないように努め、仕事は極力減らしたものの、医師でない私には、他には何も出来ない。
 のんびり暮らし、中でも笑うことが、体の免疫力を増す――と聞いた。読むと言ってくれたので、一日一本、短い話を書いて見てもらうことにした。若い頃から妻はずっと協力者で、私の書くものに慣れてもいたのだ。
 私は自分で制約を設けた。病人の神経を逆撫でするもの、深刻な話、これ見よがしのアイデアストーリーは書かない。読んであははと笑うか、にやりとするものを心掛ける。エッセイではなくフィクションで、一回原稿用紙三枚以上。妻ひとりが読者ながら売り物になるレベルを維持する、等々である。
 妻の退院後半月ばかり経ってから、書き始めた。途中、しんどかったらやめてもいいよと妻が言ってくれたこともあるが、いったんスタートした以上、やめると症状が悪化しそうな気がして、つづけたのだ。とはいえ、とにかく妻のために何かをしているとの気持ちがあるせいか、書くのが辛いと思ったことはない。
 小康を保っている時期もあったものの、妻の病気はしだいに進行し、入院、手術もあったりして、発病から五年足らずで他界した。おしまいの頃は、妻がほとんど眠っていたこともあり、こちらも精神的に追い詰められて、当初の制約を外してしまったのである。
 このたび、妻の三回忌を控えて、その間の事情や心象をまとめることになり、短い話も一部収録することになった。妻の存命中や死後に本に収められたり掲載されたりした作品からも選んだが、それに未発表のものを加えて、二十編ほど入れてもらったのだ。
 こうしてまとめてみると、やはり、いろんなことを考えてしまう。
 全部で一七七八編の話は、書きつづけていたときの心理の推移を反映している。私は制約があることをバネにして新しいタイプの話を生み出そうと頑張ったつもりだったが、見方を変えると、しだいに歪んでいっているとも言えるだろう。そして、その後の過ぎて行った月日は私に、当時の、荒波の中をやみくもに突き進みながら、その日その日に最善をと、おのれに言い聞かせていた毎日を、妙に懐かしく思い出させるのである。まあ、また何年間かが過ぎれば、別の心境に至ることになるのかもしれないが……。

(まゆむら・たく 作家)
波 2004年6月号より

担当編集者のひとこと

ショートショートが新書になった?

 癌の宣告を受けた妻に対し、何か自分にできることはと考えたとき、小説家・眉村卓が思いついたのは「毎日、短い話を書いて妻に読んでもらうことである」(本文より)。今回の『妻に捧げた1778話』は、その1778篇のお話の中から、19篇を選び、奥様との半生を綴るエッセイの間に収録した本である。新書の形で、このような内容の本が刊行されるのは多分初めてではあるまいか。ところで、眉村氏は、「短い話」を「ショートショート」とも言っている。「短話」とつづめて書いている箇所もある。眉村氏と担当編集者は、原稿用紙(四百字詰め)3枚以上の短い小説をなんと表記したらいいのか頭を悩ませた。というのも、眉村氏が書き続けた1778篇は、ヴァラエティに富んでいて、ショートショートの一般的な定義にはそぐわない気がしたのである。ショートショートという言葉ですぐ思い浮かぶ作家は星新一氏であろう。星氏も眉村氏もともにSF作家に分類される存在である。しかし、ショートショートは決してSFの専有物ではない。ミステリーの読者にはおなじみの作風であろう。純文学の分野でも川端康成の〈掌の小説〉シリーズは、その一味と考えられなくはない。事典によると、ショートショートの特徴は次の通りである。(1)新鮮なアイデア (2)完全なプロット (3)意外な結末。眉村氏の1778話は、この条件を全て満たしているであろうか。否である。ときには、エッセイ風になり、手紙のようになり、結末は自然に……。それは、著者があとがきで書いているように「実生活の中での気持ちをもとに」しているからだろう。だからこそ、エッセイと短い小説の合体というこの書の試みが成功したのだと、担当編集者は自画自賛している。

2004年5月刊より

2004/05/19

立ち読み

 一九九七年――平成九年の六月十二日、新幹線で帰阪中、私は車内アナウンスで呼び出された。まだ、誰もかれもが携帯電話を使っている時代ではなく、私も持っていなかったのだ。かかりつけのK医院の若先生からであった。妻はその前日から腹痛を訴えていて、K医院に行ったのだ。若先生によれば虫垂炎のようだから、すぐに開腹手術ということで父上の院長先生が車で天王寺の大阪鉄道病院に運び、入院させて下さったとのことである。
 鉄道病院に回り、一度帰宅して入院生活に必要な品々を持って行くと、手術は聞いていたより長くなったとのことで、まだ終わっていなかった。
 ほどなく、麻酔でまだ眠っている妻が病室に運ばれて来て、私は、執刀の松井英先生から、妻が進行性の悪性腫瘍であると告げられた。その夜初めて会った松井先生によれば、腫瘍は小腸だが腹膜にも播種があり、原発は大腸だと思われる――とのことである。縫合不全がないとしても、はっきりとは言ってもらえなかったが、どうも余命は一年少々らしく、五年生存の可能性はゼロとのことだった。
 初めは現実と思えなかったが、まぎれもない現実なのである。翌朝、東京に住んでいるひとり娘も帰って来て、妻の入院生活が始まった。
 松井先生の勧めもあって、私は妻に、余命が一年少々らしいということだけは伏せて、あらましを話したのだ。
 手術後の経過は順調で、七月の初めには退院になり、それからは、注意して普通の生活をしながらの通院になった。
 こちらとしては、妻に身体的・精神的苦労をさせないように努める以外、できることはない。妻と話し合って、いわゆる健康食品も摂取し、少し後には、前から癌だったという同業の光瀬龍さんが、自分が服用している別の健康食品を送って来て下さったので、それも併せて飲むようになった(光瀬さんは一九九九年の七月に亡くなられ、妻の希望もあって、一緒に告別式に行ったのだ)。とはいえそうした健康食品がどの位効果があったのかは、私にはわからない。当然ながら頼りにするのはあくまでも病院と松井先生なのだ。

 妻が退院してから、私は考えた。
 何か自分にできることはないだろうか。
 思いついたのは、毎日、短い話を書いて妻に読んでもらうことである。
 文章の力は神をも動かすというが、もちろん私は、自分の書くものにそんな力があるとは信じていない。
 ただ、癌の場合、毎日を明るい気持ちで過ごし、よく笑うようにすれば、体の免疫力が増す――とも聞いた。
 妻の病気以来、私は外泊しなければならぬ用はできるだけ断り、原稿書きの仕事も最小限にするように努めていた。なるだけ一緒にいるようにし、手助けもするとなれば、そうならざるを得ないのである。週に二回、大阪芸術大学へ教えに行ってもいるのだ。
 しかし妻とすれば、自分のせいで私の仕事に悪影響が及ぶのが嫌だったのだろう。もっと書かなければと言う。
 だったら、原稿料は入らないけれども、妻のために面白い話を書けばいいのではないか? いや、なりゆきしだいでは、それだって実績になり収入につながってくるかもしれない。これまでショートショートはかなり書いてきているから、つづけられる自信もあった。
 書いたら読んでくれるかと尋ねると、元来本が好きな妻は、読もうと頷いた。
 で……七月十六日から書き始めたのである。
 妻の入院・手術の日から数えると、一か月以上も後である。当初は動転もしていたし、とてもそんなことを考える余裕がなかったのだ。妻の状態がある程度安定していたから、やってみようという気になったと言える。

 だが、そんな事情で、病気の妻ひとりを読者とするのだから、私は、書くものに自分で制約を設けることにした。
 まずは枚数。長いものを書くほどの時間はないのだから、短くせざるを得ない。といって、間に合わせの手抜きにはしたくなかったので、四百字詰め原稿用紙で三枚以上とする(実際には、一編平均で約六枚になった)。
 エッセイにはしない。必ずお話にする。
 当然ながら私も、内輪のお義理のものにはしたくない。一編一編、商業誌に載ってもおかしくないレベルを保持するつもりで、妻にもこのことは宣言した。
 病人の神経を逆なでするような話は書かない。病気や人の死、深刻な問題、大所高所からのお説教、専門用語の乱発、効果を狙うための不愉快な視点などは避ける。
 また、ラブロマンスや官能小説、不倫なども、書かない(もともと不得手なのだ)。
 話に一般性を持たせるため、固有名詞はなるべく使わず、アルファベットのABCを順番に出し、一巡したらまたAから始める。もっとも、わけのわからぬ変な固有名詞は、一種の味つけになるのでこの限りではない。
 夢物語でも荒唐無稽でもいいが、どこかで必ず日常とつながっていること。
 若い人には面白くなくても構わない。
 ――といったところだろうか。
 正直な話、これだけ制約を設けると、ショートショートとして書くものは限られてくるが、それでいいではないか。ショートショートでなければ超短話でも指先小説でもよろしい。この中で自分がどれだけやれるかの挑戦なのだ。かえってファイトが湧くというものである。

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