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松下政経塾とは何か

出井康博/著

770円(税込)

発売日:2004/11/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

出身政治家は、現在60名。彼らは「政策のプロ」か、単なる「野心家」か、それとも「勘違いな人々」か。松下幸之助が夢見た「現代の松下村塾」の現実。

カリスマ経営者・松下幸之助が創立してから四半世紀を迎えた松下政経塾。現在、塾出身の議員・首長は総勢六十名となった。彼らは、閉塞し危機に瀕した日本の救世主か? それとも、老人の妄執が生み出した現代のドンキホーテなのか? 政治家を志し、政経塾に集まってきた若者たちの群像、彼らの成長や挫折の軌跡を追いながら、ここまでに至る塾の歴史と実態、さらにその功罪を明らかにする。

目次
序 章 「殿」と政経塾
「新党構想」が結んだ縁
祭りの後で
第一章 昭和版「松下村塾」の誕生
「明治維新」へのあこがれ
運と愛嬌
「坂本龍馬」を求めて
職員と塾生の対立
政治家第一号の誕生
政経塾では間に合わん
第二章 「幸之助新党」の真実
新党結成に向けて
無税国家と国土創成
政経塾の選挙スタイル
悲しい目をした男
第三章 日本新党ブーム
塾頭に抜擢されたサラリーマン
地域から日本を変える運動
吉永小百合から山口百恵まで
人生の岐路
「政経塾」との決別
第四章 「政経塾新党」への挑戦
捲土重来を期した新党構想だったが……
血判状の誓い
「志士の会」と稲盛和夫
裏切り
中田宏の“出世街道”とは
それぞれの道
第五章 大政奉還
弟子たちの時代へ
松下家への回帰
ある辞任劇
塾は誰のものか
選挙一辺倒
第六章 夢のまた夢
政経塾の「ラスプーチン」
民主・自由党の合併劇
維新いまだならず
近親憎悪と世代間のギャップ
政経塾が日本を悪くする
レゾンデートルの終焉
終 章 深き「業」の果てに
あとがき

書誌情報

読み仮名 マツシタセイケイジュクトハナニカ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-610092-5
C-CODE 0231
整理番号 92
ジャンル ノンフィクション
定価 770円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2011/09/16

蘊蓄倉庫

「幸之助新党」の真実とは?

「昭和の坂本龍馬を生み出す」という目標を掲げて創設された「松下政経塾」は、その意気込みとは裏腹に、当初思ったほどの成果を上げることはできなかった。右も左も分からず、政治の世界に飛び込んだ若者たちに選挙という壁が容赦なく立ち塞がったのである。
 そんななかで八二年に、塾生だった山田宏(現・杉並区知事)は政経塾で新党を作ることを松下幸之助に申し入れたのだが、これに対して、幸之助は「まだ早い」とだけ答えた。しかし、申し出を表面上は拒絶しながらも、心中では喜んでもいた。だが、それもやがて落胆へと変わった。山田が二度と「新党」を口にしなくなったからだ。
「漫才師でも落語家でもな、何度も何度も師匠の門を叩いて、蹴っ飛ばされても罵倒されてもどうしても入門させてくれって言ってやっと入れるものや。それをなんや、一回蹴っ飛ばされたくらいであきらめるようじゃ、志は低いな」──。
 実は政経塾では間に合わないと考えた幸之助は、その最晩年に、「無税国家」と「国土創成」を旗印に自らの政党を作ろうとしていたのだ。結局、健康状態の悪化で「幸之助新党」は旗揚げ目前で頓挫してしまう。経営の神様が目指した「新党計画」の実態とは?
 ご興味のある方は、本書をご一読ください。

掲載:2004年11月25日

担当編集者のひとこと

「松下政経塾」は実録版『野望の王国』だ!

『野望の王国』といわれてピンと来るあなたは、かなりのマンガ通。七〇年代から八〇年代にかけて「漫画ゴラク」に連載されたこの作品は、「日本を制覇する」という壮大というか、かなりバカな野望を抱いた二人の東大生が、あらゆる権謀術策、手練手管、暴力、マスコミ操作、動物虐待から同性愛、果ては新興宗教によるマインドコントロールまで、とにかくすべての手段を節操なく用いて、権力の階段を登りつめていくという、ポリティカル・バイオレンス・成り上がりストーリーです。
 主人公である二人の若者を中心に、政治家、官僚、右翼、財界のフィクサー、暴力団、新興宗教の教祖など、登場するキャラクターもいずれ劣らぬ濃い人たちばかり。彼らが入り乱れて、日本の覇権を争奪するというお話が延々二十八巻にわたって続く、一気に読み終えると頭が沸騰してしまいそうなマンガです。 ちなみに原作はあの『美味しんぼ』で有名な雁屋哲先生ですが、当時の先生は「男の野望」をテーマとした作品が多く、なかでも、この『野望の王国』はその集大成ともいえる快作(怪作?)として、現在でもマニアックな支持を受けています。
 創立当初の「松下政経塾」の持っていた、ある種のアナクロい感覚には、何かこのマンガに共通するものがあると思います。
 徒手空拳の若者が、総理大臣を目指して門を叩く、「現代の松下村塾」──。
 なんかすごい響きです。登場してくるのも、カリスマ経営者とか、そこに集まった明治維新マニアの若者たちとか、優柔不断な現代の殿様とか、与党の豪腕幹事長とか、関西財界の風雲児とか、こちらもかなり濃い人たちばかり。もちろん、マンガと違って、松下政経塾の闘いの場はあくまで政治の分野に限定されており、暴力だとかセックスだとか、その他のさまざまな手練手管は出てきません。
 それでも、選挙運動に際して暴力団事務所から脅迫電話が入ったとか、創設者・松下幸之助の死により塾の存続が危ぶまれるとか、殿様・細川護煕が巻き起こした日本新党ブームで起死回生を図るとか、政経塾新党結成を目論んで血判状を作ったとか、その時、誰が裏切ったとか、誰に騙されたとか──、右も左も分からずに政治の世界に身を投じた若者たちが、現実の厳しさとさまざまな試練に揉まれていくうちに、プロの政治家へと変わっていく様は、かなり、劇的なストーリーとなっています。
 現在、松下政経塾出身の国会議員は二十九名、うち大臣一名、神奈川県知事、横浜市長、杉並区長など有力首長や地方議員まで入れれば、現役政治家は総勢六十名という一大勢力を形成するに至っています。
 しかし、今の政経塾は政治家になるためのノウハウを教え、人脈を紹介するいわば「政治家予備校」となってしまった感があります。二世・三世、もしくは官僚出身の議員に牛耳られた政界に、徒手空拳の若者を送り込むというのは、たいへん結構なのですが、それでも何かが違う気がするのです。
 そもそも政経塾は「百人の政治家より、ひとりの坂本龍馬を生み出す」ために創設されたのではなかったのでしょうか。
 誤解を恐れず、あえて松下政経塾および、塾出身の政治家に求めたいのは、「もっと野望を!」ということです。

2004年11月刊より

2004/11/20

著者プロフィール

出井康博

イデイ・ヤスヒロ

1965(昭和40)年岡山県生まれ。ジャーナリスト。早稲田大学政治経済学部卒。英字紙『ザ・ニッケイ・ウィークリー』の記者を経て独立。著書に、『松下政経塾とは何か』『長寿大国の虚構―外国人介護士の現場を追う―』(共に新潮社)『年金夫婦の海外移住』(小学館)などがある。

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