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都市住民のための防災読本

渡辺実/著

748円(税込)

発売日:2011/07/15

  • 新書
  • 電子書籍あり

備えよ! 生き残るための完全マニュアル。(1)超高層では家族で36リットルの水を備蓄(2)帰宅難民は家に帰るな(3)『帰宅支援マップ』はアテにならない(4)エレベーターに乗るときはコンビニ袋を(5)「猫砂+ゴミ袋」で簡易トイレ(6)高層難民3日目にはバーベキューを(7)水洗トイレの水を有効活用

日本列島が地震の活動期に入った現在、高層マンションやビルが乱立する近代的大都市も、遠からず歴史上初の巨大地震を経験することになる。いざという時に何をすれば良いのだろうか? 「帰宅難民は『帰宅支援マップ』をあてにしない」「高層難民は『猫砂+ゴミ袋』で簡易トイレを作る」など、実践的な防災の智恵と心得を伝授する。

目次
はじめに
第1章 「超高層」は危ない
「超高層」って何階建て以上?/「超高層」の歴史/阪神・淡路大震災でも経験しなかった事態/海溝型地震/「共振現象」の恐怖/長周期地震動で都庁も損傷
第2章 高層難民生き残りマニュアル
1週間以上の難民生活を覚悟せよ/被災地・仙台の高層難民/生き残りマニュアルその1・水の備蓄/水洗トイレの水を有効に使え/飲料水が備蓄されている意外な場所/雑用水/生き残りマニュアルその2・食料の備蓄/被災者が食事を選べるシステムを/お勧めはカロリーメイト/冷蔵庫を活用しよう/生き残りマニュアルその3・災害時のトイレ/猫用のトイレ砂を活用/生き残りマニュアルその4・エレベーター対策/停止30万基、閉じ込め1万2500人/コンビニ袋、ラジオ、ペットボトル/カゴの中にも備蓄を/生き残りマニュアルその5・5階建て理論/東京都中央区が日本初の高層難民対策を実施
第3章 帰宅難民は家に帰るな!
新しい難民/東日本大震災で都内に帰宅難民300万人/帰宅難民が発生した初のケース/保安員が徒歩で点検/緊密なネットワークが裏目に/首都直下地震では帰宅難民650万人!/帰宅難民発生の2つの要因/20年以上前から議論/帰宅支援ステーション/支援ステーションの落とし穴/水道やトイレを提供できるのか/「帰宅支援マップ」をアテにするなかれ/帰るも地獄、残るも地獄/帰宅難民は帰るな!
第4章 避難所難民はどうすればよいのか
東京ドーム12個分のスペースが不足/避難所難民265万人/耐震性に不安のある避難所も/なぜ避難するのか/応急危険度判定/避難所の環境が劣悪なので……/車内避難で「エコノミークラス症候群」/三陸の避難所でも発生/水分をとらない被災者たち/都市型の避難システム/津波の避難は「垂直」に/通電火災/まずは広域避難場所へ逃げよ
第5章 東日本大震災で見られた「新たな震災の顔」
スマトラ島沖地震+チェルノブイリ原発事故/「ガソリン」がライフラインに/陸路も海路も使えない/津波に対する意識が不十分だった/それでも「津波田老」は役立った/広さとにおい/ぼっとん便所と自転車/コミュニティの存在
第6章 政治に求められる「本物の防災」
初動で必要なのは「スピード」と「ダイナミズム」/地上へ緊急物資を落とせ/現場指揮官の裁量があれば……/被災度認定にも「超法規」を/求められる前に被災地支援に動いた自治体/被災地への建築制限/「まちづくり」よりも「産業再生」を/「どのくらいの高台」へ移転するのか/生命を守るのか、生活を守るのか/石巻・荒地区の津波防災まちづくり/霞が関と被災地の温度差/東京湾の津波対策を忘れるな/富士山にも噴火の兆候が/「安全情報」と「安心情報」を峻別せよ/日本の曲がり角
第7章 「次の大地震」の基礎知識
我が国の地震調査体制/今後30年以内の地震発生確率/間に合わなかった東日本巨大地震の予測/千年に一回の巨大地震なのか?/東海地震は予知できるのか?
おわりに

書誌情報

読み仮名 トシジュウミンノタメノボウサイドクホン
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610429-9
C-CODE 0236
整理番号 429
ジャンル 社会学
定価 748円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2012/01/27

書評

「想定外」とはもう言わない

渡辺実

「想定外」だから仕方なかった――。東日本大震災の発生後、防災関係者や原子力関係者、地震学の専門家などの口から、そんな諦めとも責任逃れともつかぬセリフがしばしば出ています。私自身、震災発生後から三日間出ずっぱりだった日本テレビの報道特別番組の中で、この言葉を口にしました。
 しかし私は、今回の震災を「前代未聞だった」「想定外だった」と評することは、もうやめました。今では、「想定できなかった」という事実を、率直に恥じています。なぜなら、「想定外」の出来事を「想定内」に変えていくことが、地震予知や災害予防に携わる学者、私のような防災・減災を専門とするジャーナリストやコンサルタントの役割だと考えるからです。
 考えると恐ろしい事実ですが、広い範囲にわたる後背地を抱えた近代的大都市が巨大地震に襲われるという事態を、人類はまだ経験したことがありません。東京や大阪、名古屋など日本の巨大都市は、幸いにも関東大震災から90年近くもの間、巨大地震に襲われていないのです。
 戦後、東京一極集中が続く中で、限られた土地を有効に使うため、東京は地盤の緩い湾岸部、そして天空や地下へと発展していきました。その結果、東京は潜在的に世界でいちばん危険な巨大都市になりました。高さ100メートルを超える高層ビルが建ち並ぶ一方、都営地下鉄・大江戸線の六本木駅のように地下40メートルの深さにまで駅が作られています。逆説的ですが、この間に一度でも大震災に見舞われていたら、こうした流れにストップがかかっていたでしょう。
 大都市が震災に襲われると、地方では発生しない3種類の「震災難民」が発生します。すなわち、電気の通じない高層マンションの自宅での生活を余儀なくされる「高層難民」、鉄道の不通によって都心に取り残される「帰宅難民」、そして、収容力不足で避難所からあぶれる「避難所難民」です。東京が直接の被災地にならなかった東日本大震災の際にも、首都圏で300万人の帰宅難民が発生し、エレベーターの動かない高層マンションで高層階に閉じ込められた人たちが出ました。発生が確実視されている首都直下地震や東海地震の際には、これを上回る事態が発生するでしょう。
 この本は、「想定外」を「想定内」にするつもりで書きました。マグニチュード7クラスが想定されていた東日本沖で、マグニチュード9.0という予想を遥かに超える巨大地震が起き、これまでの防災計画は水泡に帰しました。日本が地震の活動期に入ったことも、ほぼ確実です。だからこそ「次」への備えを可及的速やかにしておく必要があります。
 本書には、すぐに実行できる具体的な対策を出来るだけ盛り込んでおきましたので、皆さんの防災対策に役立てて頂ければ幸いです。

(わたなべ・みのる 防災・危機管理ジャーナリスト)
波 2011年8月号より

蘊蓄倉庫

9世紀後半と似ている?

 東日本大震災との類似性が指摘されている「貞観地震」が発生した9世紀後半、日本では天災が相次いでいました。年代順に記すと、出羽地震(850年)、越中・越後地震(863年)、阿蘇山、富士山の噴火(864年)、貞観地震(869年)、鳥海山噴火(871年)、開聞岳噴火(874年)、関東地震(878年)、出雲地震(880年)、平安京地震(881年)、仁和地震(887年)、八ヶ岳噴火(888年)となります。まさに、日本中で場所を選ばず大災害が頻発していたことが分かります。
 今年になって、霧島連山の新燃岳が噴火し、桜島の活動も活発化、富士山の山体膨張も確認されています。地震も各地で頻発しています。9世紀後半との類似が偶然であってくれればそれに越したことはありませんが、「次」への備えはしておいた方が良さそうです。

掲載:2011年7月25日

著者プロフィール

渡辺実

ワタナベ・ミノル

1951(昭和26)年生まれ。防災・危機管理ジャーナリスト。(株)まちづくり計画研究所代表取締役所長。NPO法人日本災害情報サポートネットワーク理事長。技術士・防災士。工学院大学建築学科卒。著書に『大地震にそなえる 自分と大切な人を守る方法』など多数。

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