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心の病が職場を潰す

岩波明/著

836円(税込)

発売日:2014/09/16

  • 新書
  • 電子書籍あり

患者本人「以外」のための本。発症→休職→復職or解雇。基礎知識から対処法まで。【企業人必読】

今や日本中の職場が、うつ病をはじめとする精神疾患によって、混乱させられ、疲弊させられている──。それはいつから、どのように広がったのか。この現状を私たちはどう捉えるべきなのか。基礎的な医学知識を紹介しながら、精神科医療の現場から見える、発病、休職、復職、解雇などの実態を豊富な症例を通して報告。会社の意向と個人の要望が複雑に絡むこの問題を正しく知ることは、もはや社会人に必須の素養である。

目次
はじめに
序章 それはいつから広がったのか
「月9」にも登場した「貧困と労働」/医者も無関心だった「職場の精神疾患」/国も本気にならなかった「自殺対策」/「病気」を利用する若者たち
第一章 疲弊する職場
1 日本の職場と精神疾患
問題認識はごく最近から/隠蔽されてきた患者/精神科医療の広汎化と公然化
2 「制限勤務」について考える――ある生保社員の症例から――
制限勤務の実際/自己診断の危険/「仕事能力」と「病状」/「身体化」と「ヒステリー」/仕事から逃げる?
3 「休職」について考える――ある銀行OLの症例から――
きっかけはDV?/休職と企業の思惑/退職と不調の真因
第二章 その病をよく知るために
1 職場の精神疾患についての大原則
2 もっとも職場を蝕む「うつ病」
うつ病の多様性/「うつ病」と「うつ状態」/三つの主な症状/薬物治療と休養
3 その他の主な精神疾患
躁うつ病/パニック障害/神経症/統合失調症/発達障害/パーソナリティ障害
第三章  日本の職場の問題点
1 長時間労働と精神疾患
患者急増の理由/日本の職場の特徴/長時間労働の実態/名ばかり管理職/ホワイトカラー・エグゼンプション/長時間労働はつらくない?
2 病気の悪用と社会的損失
「新型うつ」という虚像/その正体とは/病気になりたがる人々/何が社会の害となるのか/「DALY」が示すうつ病の怖さ
第四章 職場に戻れる場合、去る場合
1 復職のさまざまな形
退職者の傾向/復帰先の部署がない/産業医というシステム/「ヒール」にもなる医師/休職、復職のルールとは/メンタルケアの裏表/同じ企業でも異なる対応
2 あるうつ病患者と労災問題
転職といじめ/洗濯物も腐らせる/休職→復職→解雇/慢性化と自殺未遂/労働基準監督署も動かず/クリニック医の診断/誤診のツケ
第五章  過労自殺という最悪のケース
労災とは/精神疾患と労災/労災認定の現状/日本人と自殺/電通事件/金子意見書/自殺へ/事件の考察/過労自殺の実態/うつ病切り
終章 問題の本質はどこにあるのか
統合失調症とうつ病/残業代ゼロ/首相も「復職者」のはずだが……/「個人対企業」のゆくえ
おわりに

書誌情報

読み仮名 ココロノヤマイガショクバヲツブス
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 240ページ
ISBN 978-4-10-610588-3
C-CODE 0247
整理番号 588
定価 836円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2015/03/20

書評

波 2014年10月号より 心の病から「労働」の本質を考える

岩波明

長期的不況と軌を一にするように、精神疾患の患者が日本中で増え続けています。そして、「私の職場にも心の病を患っている人がいる」という方が、皆さんの中にもかなりいるはずです。
ところが、患者本人に対しては医療サービスがあり、疾患ごとに一般向けの本も出ているのに、その周囲にいる「患者以外」へ向けた本はほとんどありません。
しかし、心の病がこれだけ多くの職場に重い負担を与え、周囲にいる人々までをも疲弊させている現在、この状況を正しく捉えることは、もはや社会人に必須の素養であると言えるでしょう。
そこで、『心の病が職場を潰す』では、職場における心の病にどのようなものがあるのかといった基礎的知識の解説はもちろん、たとえばうつ病が職場においていかに発症し、それによる休職、復職、解雇などが実際にどのように行われているかといったことまで、多くの症例とともにその実態を検討しました。
もっとも、精神疾患も数ある病の一つにすぎないのですから、ことさら特別視する必要はないとも言えます。つまり、「うつ病で休みがちな同僚がいて仕事のシフトが組みにくい」という問題は、「交通事故の後遺症で以前ほど働けなくなった社員がいる」ということと基本的に同じなのです。
とは言え、心の病には一般社会からタブー視されてきた歴史があり、今でも多くの患者は、職場の仲間にも病を隠したいと考えます。それに対して周囲は、その病をイメージさえできないため、戸惑うばかりになるのです。やはり、すべては正しい知識を持つことから始まるようです。
また、職場における心の病は、医療の課題であるとともに、切実な労働問題であることも見逃せません。心の病が仕事の場で急増した社会的背景、日本における労働環境の問題点といったことにも本書では目を配りました。
とくに、いわゆる「うつ病切り」など、雇用にも直結することがあるだけに、「個人対企業」という対立構造が無視できなくなります。
たとえば、うつ病で休職中の同僚がいて、その人員減が他の社員の重荷になっているとき、あなたが同僚の側に立つのか、会社側に立つのか、それだけで問題の見方は180度変わるはずです。
個人が自分の生活を守りたいと思うのが自然なら、企業が利益や効率を追求することも一概には責められません。もちろん長時間に及ぶサービス残業などは言語道断ですが、高給と引き換えにハードな職務の遂行が社員にも了解されている職場もあるのですから、単純に企業を悪とみなしても問題はけっして解決しません。
やはり、これだけ心の病が仕事の場に蔓延しているのですから、現代の日本人の働き方の根本に大きなミスマッチがあるとみるべきなのでしょう。それをどのように解消していくのか。本書が、働くことの本質をも考え直す一助になれば幸いです。

(いわなみ・あきら 精神科医・昭和大学教授)

担当編集者のひとこと

医療から浮き彫りになる「日本人と労働」

 昨今、心を病む人が増えつづけ、それが仕事の場にもかなりの影響を与えていることには、実感のある方が多いのではないでしょうか。病による急な欠勤者や休職者の影響で、仕事上のしわ寄せを今まさに受けているという方もまた少なくないはずです。
 ところが、病を患っている患者本人に対しては、医療サービスはもちろんのこと、疾患ごとに噛み砕いて解説した一般書もあるのに、その周囲にいる「患者以外」に向けた本はほとんどありません。
 そして、精神疾患に関しては、どうしても一般社会にタブー感があり、患者本人も親しい同僚にさえ病状を隠すことが多いだけに、周囲は自分の職場に起きていることさえイメージできない状況に陥るようです。しかし、もはや心の病は、仕事の場でも無視できないはずで、これを正しく知ることは、組織人に「必須の素養」と言えるでしょう。
 そこで書かれたのが本書なのですが、うつ病をはじめとする精神疾患に関する基礎知識の紹介はもちろんのこと、現実に職場で問題となるにもかかわらず、意外なほど知られていない欠勤から休職、退職などに至る実態などを、精神科の臨床医である著者が、豊富な症例を通して明らかにしてくれます。
 但し著者は、この心の病と職場の問題には、簡単に割り切れる答えなどないとも見ています。医師として患者の味方であるのはもちろんですが、企業が利益のために効率を追い求めることも一概に否定はできず、単純に個々の企業を悪とみなしても問題は解決しないと言います。
 たしかに、外資系企業に代表されるように、社員がハードな業務を承知している職場があるなど、職場のあり方は一様ではありません。また、本書が読者と想定する「患者以外」の方々にしても立場はさまざまなはずで、たとえば患者の側に立つのか、会社側に立つのか、その一点が違うだけでも、問題への視点は180度変わってくるはずです。
 こうして、職場における心の病の問題は、日本人と労働の問題をも浮き彫りにしていきます。本書は、「医療」に関する本であるとともに、「労働」についても新たな視点を皆さんに提供できるはずです。

2014/09/25

著者プロフィール

岩波明

イワナミ・アキラ

1959(昭和34)年、神奈川県生まれ。東京大学医学部医学科卒。精神科医、医学博士。発達障害の臨床、精神疾患の認知機能の研究などに従事。都立松沢病院、東大病院精神科などを経て、2012年より昭和大学医学部精神医学講座主任教授、2015年より昭和大学附属烏山病院長を兼務。著書に『発達障害』(文春新書)、『医者も親も気づかない 女子の発達障害』(青春新書)、『誤解だらけの発達障害』(宝島社新書)など多数。

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