ホーム > 書籍詳細:家裁調査官は見た―家族のしがらみ―

妄想、暴力、憎悪、支配、母子密着、薬物……。人生最凶の人は肉親だった。家族問題のプロが明かす最前線。

家裁調査官は見た―家族のしがらみ―

村尾泰弘/著

778円(税込)

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発売日:2016/07/15

読み仮名 カサイチョウサカンハミタカゾクノシガラミ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 207ページ
ISBN 978-4-10-610676-7
C-CODE 0211
整理番号 676
ジャンル 社会学
定価 778円
電子書籍 価格 778円
電子書籍 配信開始日 2016/07/22

妄想に囚われ、妻の浮気を責める夫マサヨシ。単純な嫉妬と見える振る舞いには、本人も気づかぬ深層心理が絡んでいた――。地道な調査とカウンセリングを武器に、家庭裁判所調査官は家族問題の現場へ踏み込む。誰にも起こる感情転移、知的エリート女性の挫折と暴力、「家族」代わりの薬物使用、「家族神話」のダークサイド……。十八の家庭に巣食った「しがらみ」の正体を明かし、個人の回復法を示す実例集。

著者プロフィール

村尾泰弘 ムラオ・ヤスヒロ

1956(昭和31)年大阪府生まれ。横浜国立大学大学院修士課程修了。家庭裁判所調査官として離婚や少年非行など多くの家族問題に関わったのち、立正大学社会福祉学部教授。臨床心理士・家族心理士としても活動する。著書に『家族臨床心理学入門』『非行臨床の理論と実践』等。

目次

はじめに――夫を毛嫌いするミサコの訴え
第1章 感情転移という「怪物」
「雑魚寝事件」の急展開/「母が重たい症候群」「娘が遠い症候群」/カウンセリングの「魔力」/乳幼児の愛と憎しみ/社長夫人を刺したタケオ/家裁が下す様々な処分/試験観察は魅力的/父親を憎む非行少女アツコ/箱庭に作られた墓/「泣き通して、死んでしまう」/箱庭は心理テストか/マナミの病的な嫉妬心/「見捨てられる」という不安/マサヨシの屈折した嫉妬/感情転移は誰にも起こる
第2章 知的エリート女性の挫折と暴力
最悪な夫と別れない妻/DVのサイクル理論/「これは虐待じゃない!」/我が子を捨てて消えたハルミ/肥大する「いい母」願望/ノーバディーズ・パーフェクト・プログラム/「家族システム」を治療する/不安を減らすイメージ化/母親の愛の二面性/「白雪姫」を好むのは誰か/母親の立場で読む「白雪姫」/なぜ娘は父親を嫌うか/暴力高校生ケンジの不満/父性が機能しない家で起こること/「可愛がってくれる人」を裏切るシンジ
第3章 薬物は「家族」の代用品
薬物乱用少女マキコ/「手の掛からない子」の反動/「頭がグチャグチャの女性が自分に乗り移る」/身体的快感と心理的快感/「先生、『術』って知ってるかい」/中毒少年たちの言い分/覚せい剤乱用少女サヤカ/変わり果てたサヤカ
第4章 「家族神話」のダークサイド
どの家にもある「家族神話」/「父親が暴力をふるうかもしれない」/施設で育った兄弟のトラウマ/恨みや攻撃性は向きを変える/「やくざにもなれなかった」トウタの殺人/不登校児ミノルの心配ごと/過干渉から非行が生まれる/対立をエスカレートさせる言葉/「解決志向アプローチ」/捨てた解決法を探す/「ナラティヴ・セラピー」/「自分が変われば」という落とし穴/「ずるがしこいウンチ」/フロイトの説いた無意識/自分の影と和解する/エリート両親の「影」とゲンタ/死んだ家族の影響力/「ロールレタリング法」/過去は変えられない?/轢き逃げ事故の「続き」
おわりに――キレること、切れているということ
参考文献

インタビュー/対談/エッセイ

家族ほど厄介なものはない

村尾泰弘

 本書にはいろいろな問題人物が登場する。突然夫を毛嫌いするようになり、離婚を申し立てたミサコ。当の夫には、心当たりすらない。自分をこよなく可愛がってくれる勤務先の社長夫人を、包丁で刺したタケオ。不思議な幻覚症状を語る薬物乱用少女マキコ。いい母親になりたいのに、気がつくと我が子をぶっているサエコ。
 一見異様な人々ばかりだが、その心の奥底は意外にも我々とそれほど変わらない。そう言ったら驚かれるのではないだろうか。
 筆者が彼らと出会ったのは、家族問題の「るつぼ」家庭裁判所である。十七年間、家庭裁判所調査官として勤務し、カウンセリングと調査を通じてそれぞれの問題解決を図ってきた。
 冒頭に挙げた人々は周囲を苦しめているが、同時に苦しんでもいる。大抵の場合、その原因は「家族のしがらみ」だった。このしがらみは、どんな家庭にも巣食うことのある怪物なのだ。
 筆者はその後、大学に転じてからも、個人やカウンセリングに従事し続けている。これまでの経験でつくづく感じるのは「家族が自分を縛る」と訴える人が非常に多いことだ。最近顕著なのは、母親にしがみつかれて悲鳴を上げる娘たち。娘といってもとっくに成人して子どもがいる場合も珍しくない。かつては息子のマザコンが話題になったが、時代は流れ、今では母―娘関係が個人に重くのしかかるようになっている。筆者はこの現象を「母が重たい症候群」と名付けたが、地べたをはうように苦しみを訴える女性のなんと多いことか。一方で、引きこもりに見られるように、声すら上げられない男性も多くいるはずだ。
 現代の家族が見せる光景は決して明るく微笑ましいものばかりではない。むしろ、家族は重く息苦しい場所になっている。
 本書ではこれまで出会った十八の家族の例を紹介しながら、「家族のしがらみ」の正体を解き明かしていく。筆者が特に力を込めたのは、しがらみからの脱却法だ。脱却するのは簡単ではない。何しろ相手は、切っても切れない家族だからだ。
 母親の重圧から逃れようとした女性がいた。母親の連絡にも応えず、敢えて冷たい態度を取り続けているうち、母親はあっけなく死んでしまう。そこからこの女性の新たな苦しみが始まった。母親への罪悪感だ。「あの時、あんな言い方をするのではなかった」「もし自分がこうしていたなら」……。死者から受ける苦しみの呪縛を彼女がいかに乗り越えたかは、ぜひ本書をお読み頂きたい。
 家族を論じた本でも、本書は世に言う「毒親もの」とは一線を画したつもりだ。老いた親に言いたいことをぶちまけ、毒づけば、すべて解決するほど人間の心は単純ではない。また本書を一読すれば、フロイト、ユング、家族療法、ナラティヴ・セラピー、臨床心理学の基礎知識も得られるはずだ。ぜひご賞味頂きたい。


(むらお・やすひろ 立正大学社会福祉学部教授)
波 2016年8月号より

蘊蓄倉庫

調査官の“武器”とは?

 全国の家庭裁判所に所属し、事件の調査・解決にあたる家裁調査官。家裁は「家族問題のるつぼ」なだけに、じつに多様な事件を担当しています。ですが意外なことに、調査官には捜査権も逮捕権もありません。できるのは事件の当事者、関係者に会ってとことん話を聞くこと。元調査官の村尾泰弘氏がまとめた本書『家裁調査官は見た―家族のしがらみ―』には、氏が関わった様々な“問題人物”が登場します。夫を毛嫌いするようになり離婚を申し立てた妻ミサコ、「浮気してる」と執拗に妻を責める夫マサヨシ、気づくと子どもをぶっている母サエコ、「育ての親」を包丁で刺したシンジ、薬物乱用がやめられない少女マキコ……彼らからいかに問題の真相を聞き出すのか、調査官のワザも本書の読みどころです。


掲載:2016年7月25日

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