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「新しき村」の百年―〈愚者の園〉の真実―

前田速夫/著

836円(税込)

発売日:2017/11/17

  • 新書
  • 電子書籍あり

壮挙か? 愚挙か? 武者小路実篤が夢見た「ユートピア」の全貌1918~2017。

一世紀前、武者小路実篤を中心として「新しき村」が創設された。戦争や暴動など国内外が騒然とする時代にあって、「人類共生」の夢を掲げた農村共同体は、土地の移転、人間関係による内紛、実篤の離村と死没など幾度も危機にさらされながらも、着実な発展を遂げていく。平成以降、高齢化と収入減のため存続が危ぶまれるなか、世界的にも類例のないユートピア実践の軌跡をたどるとともに、その現代的意義を問い直す。

目次
はじめに
序 日向の村へ
一 「坊っちゃん」登場――白樺派の闘将・武者小路実篤
二 つのる社会不安/新しき村誕生
三 知識人の冷笑/実篤離村/ダム湖に沈む
四 東の村への移住/東京支部の活動
五 戦中戦後の実篤
六 自活達成と実篤没後の村
七 押し寄せる超高齢化の波
八 ユートピア共同体の運命/液状化する世界
九 ポスト・モダンの帰農
十 創立百年を超えて――人類共生の夢
付一 武者小路実篤ブックガイド
付ニ 新しき村銘々伝
付三 新しき村百年略年譜
本書が参照したおもな文献
新しき村案内
調布市武者小路実篤記念館・実篤公園案内

書誌情報

読み仮名 アタラシキムラノヒャクネングシャノソノノシンジツ 
シリーズ名 新潮新書
装幀 新潮社装幀室/デザイン
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 224ページ
ISBN 978-4-10-610743-6
C-CODE 0236
整理番号 743
ジャンル 政治・社会
定価 836円
電子書籍 価格 836円
電子書籍 配信開始日 2017/11/24

インタビュー/対談/エッセイ

人見るもよし 人見ざるもよし

前田速夫

 若き日、武者小路実篤の「友情」や「愛と死」を読んで感動した人たちは、いま老年期を迎えている。若い人たちの多くは、武者小路実篤の名前すら、よくは知らないのではないか。まして、「新しき村」と聞いて、それが何であるかを知る人は限られていよう。
 満33歳の実篤が、宮崎県日向に土地を求めて、自他共生、人類共生の理想を実現しようと、同志20名(うち子供2)と、農業による自給自足を目標に、各人の個性を最大限に発揮しうる共同体を起ち上げたのは、大正7年(1918)11月のことであった。
 現実を知らぬ愚挙、暴挙であるとして、当時はその「お目出たさ」をさんざん叩かれた新しき村は、その後も、村民同士の内紛や離反、ダム湖建設による水没、埼玉県への移住、実篤の死去と、幾度も存亡の危機に遭いながら、大正、昭和、平成と生き延びて、来年、創立100年を迎える。これは、国内外の他のユートピア共同体の多くが、雲散霧消してしまったのにくらべて、奇跡に近い。
 ところがその村も、近年は自活の原動力だった養鶏の不振・廃止による赤字の累積、村民の超高齢化と人口減少(ピーク時には65名が、現在は10名)、後継者難と、四重苦にあえいでいて、このままでは、消滅を免れない運命にある。
 折しも、日本は、世界は、民族や国家、地域や家族といった、人と人とを結ぶ中間項が機能不全に陥って、格差は広がるばかり、国益が衝突して戦争の脅威が増すその一方で、社会全体が液状化している。
 すなわち、武者小路実篤が唱えた理想と、その実践であるコミュニティのありかたが、いまほど切実に求められるときはなく、100年たって、ようやくその真価が認められるようになったこのときに、村が消えていくとは、なんとも皮肉なことだ。
 けれども、これは一新しき村の問題ではない。村が直面している困難は、今日の日本が、世界が直面している困難に等しく、村が100年を超えて生き延びられるかどうかを問うことは、今日の日本が、世界が生き延びられるかどうかを問うに等しいと言ったら、おおげさだろうか。
「君は君 我は我なり されど仲よき」――個よりも全体を優先させる世の常の共同体とは違って、全体よりも個を重視する、この世界的にも稀な美質を持つ新しき村が、100年も続いたのはなぜか。現在の苦境から脱するには、いったいどうすればよいのか。一個人には手に余る問題をも含めて、あれこれ考えてみた。
 ちなみに、筆者は出版社に入社して早々、実篤の長編自伝小説「一人の男」の雑誌連載を担当している。「人見るもよし 人見ざるもよし 我は咲くなり」と、先生は苦笑しているであろうか。

(まえだ・はやお 民俗研究家)
波 2017年12月号より

担当編集者のひとこと

不思議な縁がつながって結実した、異色の人類学ドキュメント

 新刊『「新しき村」の百年――〈愚者の園〉の真実』の著者・前田速夫氏は、「新潮」編集長当時、平野啓一郎さんを発掘したことでも知られる名物編集者でした。両親とも武者小路実篤が創設した「新しき村」の有力村外会員という家に育ち、東大英文科を卒業後は新潮社の文芸編集者に。初めて担当したのが実篤で、以来、数多くの作家を担当。片や『余多歩き 菊池山哉の人と学問』で読売文学賞を受賞するなど、現在は民俗研究者として活躍しています。本書は様々な縁が紡いだ異色の人類学ドキュメントです。

2017/11/24

著者プロフィール

前田速夫

マエダ・ハヤオ

1944年、福井県生まれ。東京大学文学部英米文学科卒業。1968年、新潮社入社。1995年から2003年まで文芸誌「新潮」の編集長を務める。1987年に白山信仰などの研究を目的に「白山の会」を結成。著書に『異界歴程』『余多歩き 菊池山哉の人と学問』(読売文学賞受賞)、『白の民俗学へ 白山信仰の謎を追って』『古典遊歴 見失われた異空間(トポス)を尋ねて』『「新しき村」の百年 〈愚者の園〉の真実』『海人族の古代史』『谷川健一と谷川雁 精神の空洞化に抗して』など。

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