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タイム・ラッシュ―天命探偵 真田省吾―
神永学

目の前に現れたのは、透き通るような白い肌をした、車椅子の美少女。殺人を夢で予見する超能力があると言い、「被害者を事前に探し、救って欲しい」と依頼する。記憶に残る現場をPCで探し、携帯で指示をだす彼女。ひたすらバイクを走らせる俺。このミッションは遂行できるのか? 死神も見捨てた強運の男。新ヒーロー参上!

ISBN:978-4-10-306601-9 発売日:2008/03/21


| 1,050円(定価) |
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タイム・ラッシュ―天命探偵 真田省吾―
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真田省吾は、新宿住友ビル前の広場にいた。
陽が沈み、街にライトが点灯しはじめる中、黒いニット帽を目深に被り、スケートボードを操っている。
レンガ敷きのその広場は、ビルの中の会社に勤務する人間の憩いの場所となっていて、意外に人通りも多い。そのうえ、レンガは凹凸が激しく、安定しない。
スケートボードをやるのに適した場所とは言えないが、真田にはここでなければならない理由があった。
真っ黒なボディーに、稲妻を模した黄色い模様の入ったボード。
デッキに右足をかけ、左足でプッシュしながら助走をつけ、デッキの上でスタンスをとり、膝を曲げて反動をつけテールを蹴りながら一気にジャンプし、そのままスケートボードを横回転させ着地する。
キックフリップという技だ。バランスを崩すことなく着地に成功。首につけた狼の白い牙のネックレスが、太陽にキラッと光る。
胸の前でガッツポーズをしたところで、歩道を歩くスーツ姿のおっさんとぶつかりそうになる。
「うお!」
真田は声を上げながらも、冷静に上体を右に捻り、ターンしながら寸前のところでおっさんをかわした。
「ガキが!」
身体を仰け反らせたおっさんが、舌打ちをしながら吐き捨てたが、聞こえないフリを決めこんだ。
残念ながら、おっさんの相手をしているほど暇じゃない。
こっちだって仕事でやってんだ。
スニーカーでボードのサイドを踏み、横回転させながらボードを腰の高さまで浮かせ、左手でキャッチする。
〈遊んでいる場合じゃないでしょ〉
ニット帽の下に隠した無線機から女の声が届いた。
「そう見えるんだとしたら、おれの演技が完璧だってことだろ」
真田は軽い口調で答えながら、素早くビルのエントランスに視線を向ける。
グレイのスーツを着て、髪をアップにした二十代後半の長身の女が、携帯電話で話をしながら出て来るのが見えた。同僚の公香だ。
赤いワイヤーフレームのメガネを直すふりをして、一瞬だけこちらに視線を向けた。
切れ長で、勝気な性格を、そのまま表現したような目だ。
〈そうね。軽率なあなたには、そういう格好がお似合いよ〉
公香は、皮肉まじりに言いながら近くのベンチに腰を下ろし、すらりと伸びた足を、組んだ。
スーツなんて着たくないと散々ごねていたクセに、すっかりなりきってやがる。
妙な色気を漂わせている。OLというより、社長の愛人兼、秘書って感じだ。
「そっちこそ、転職した方がいいんじゃねえの」
〈いちいち言われなくても検討中よ〉
「後で山縣さんに報告しておく」
〈お節介な男は嫌われるわよ〉
「優しさのない女よりマシだよ」
公香が、これ以上つきあえないという風に肩をすくめて首を左右に振った。
〈ターゲットがもうすぐ出てくるわよ。見失わないでね〉
「まったく。女ってのは身勝手で嫌だね」
公香も黙っていれば、いい女なのに――。
真田は心の内側で呟き、視線をビルの入り口に向けたまま、歩道の脇に停車しておいた黒いバイクに歩み寄った。
ホンダのカスタムスクーター、フォルツァ。
スクーターを一回り大きくして、二百五十ccのエンジンを積んだ優れものだ。
このタイプのバイクは、スクーターと同じで、面倒なギアチェンジが必要ない。
バイク好きに言わせると邪道な乗り物らしいが、この仕事には必要不可欠だ。
小回りが利くし、燃費もいい。バイクに乗りながらの撮影が必要なときなどは、ミッションのバイクだと色々と不都合が多い。
かといって五十ccのスクーターだとスピードが遅いし、高速道路は走れない。
シートを持ち上げ、フルフェイスヘルメットを取り出し、代わりにスケートボードをしまったところで、ビルの入り口から出て来る男の姿が見えた。
小太りで、脂ぎっていて、脚の短い典型的な東洋の中年男。
今回のターゲット、田中良彦、四十二歳。
胸の前でアタッシュケースを抱え、小動物のように首を左右に動かし、何かを警戒している。冴えない奴。
「こんな時間から会社さぼって愛人と密会してるとは思えないけどね」
〈こんな時間だから、逆に目立たないのよ〉
公香から突っ込みが入る。
「そうじゃなくて、あいつを相手にする女がいるとは思えないけどね」
〈男は外見じゃないのよ〉
「公香の趣味を否定する気はないけど、限度ってもんがあるだろ」
〈他人のこと言える? あんただって歳とれば、ああなるのよ〉
「まさか。あいつとは遺伝子が違う」
真田は、笑い飛ばしながらヘルメットを被り、バイクにまたがった。
〈過剰な自信はいいけど、見失わないでよ〉
「任せとけ」
真田は、男を視界の隅に捉えつつ、バイクのエンジンをスタートさせる。
ガリッと金属が擦れるような音がする。戻ったらメンテナンスに出す必要があるかもな。
〈出るわよ〉
無線からの公香の声に、真田は慌てて顔を上げる。
田中が、タクシーに乗り込もうとしているところだった。
「お供させていただきます」
真田は、アクセルを吹かしタクシーを追ってバイクをスタートさせた。

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