Ⅰ 議論の破壊者たち
1 感情論に振り回されない
感情論とは何か
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A「納豆なんて人間の食べる物じゃない。豆の腐ったのなんて食えるか。まともな人間なら臭いでわかるだろ」
B「納豆は血液がサラサラになって体にいいんだよ」
A「なんだその血液サラサラというのは。お前はマチャアキか。ああいうのを真に受けるやつが、インチキ健康番組に引っかかるんだ」
C「納豆で血液がサラサラになるというのは医学的にも立証された事実です。それを否定するのは非論理的で頭の弱い証拠です」
A「『医学的に立証された』なんてインチキ臭いフレーズで満足する方がずっと頭が弱いだろ」
D「私は納豆は嫌いじゃないけれど、Cさんみたいに人のことを頭が弱いとか非論理的だとけなすのは問題だと思います」
B「バカなんだから、バカって言われるのは仕方ないじゃん」
D「バカって言うほうがバカなんです」
B「あんたもバカって言ってるよ」
C「あなたはなぜそんなに納豆嫌いを擁護するんですか? 納豆は嫌いじゃないけれどなんてわざわざ前置きしたのも怪しいです。あなた本当は納豆が嫌いなんじゃないですか?」
D「そうじゃありません!」
B「ムキになって否定してる。どうやら図星みたい。納豆を食べないと頭までおかしくなっちゃうんだねー」
A「頭おかしいのはお前らだろ。勝手に腐った豆でもウンコでも食って喜んでろ」
C「それは議論放棄の宣言でしょうか? 私たちの勝ちとみなしますが、それでよろしいでしょうか?」 |
ネット掲示板で議論が始まると、なぜかいつも最後には低レベルの争いになってしまいます。参加者自身も思っているはずです。「ああ、なんて低レベルな争いなんだ」と。諺では「三人寄れば文殊の知恵」と言いますが、ネット掲示板では逆に三人寄ると知的レベルが小学生並みにまで下がってしまいます。
こうした議論をよく見ると、次のような特徴があることが分かります。
*あいまいな印象を基に発言し、根拠を示さない。
*発言の内容は問題にせず、発言から受ける印象を問題にする。
*議論の本題かどうかを考えず、相手の発言の中の批判しやすい部分だけを批判する。
右のように書くと、誰しもそれは問題だと思うし、そんなことは改めて言うまでもないと感じるでしょう。しかし、それにもかかわらずこういう問題は無くなりません。あいまいな印象と根拠とを取り違え、発言から受ける印象と発言の内容を取り違えてしまうからです。そして、相手の発言の批判しやすい部分を議論の本題であると勘違いしてしまいます。だから、原則論だけを言ってもちっとも改善されないのです。
なぜ議論が低レベルになってしまうのか、なぜ相手は自分の言うことをちっとも分かってくれないのか、それを考えることから始めることにしましょう。
言葉は伝わらなくて当たり前
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A「私が言っているのはそういうことじゃないと何回も言っているでしょう。なぜ私の言っていることが分からないのですか。Cさんはすぐ分かってくれましたから、私の言い方の問題ではありません」 |
Aさんのように、同じようなことを何度言っても相手はちっとも理解してくれない、と思うことはよくあります。それが続くと、相手はわざとやっているんじゃないかと思えてきます。しかし、その前に、伝えるために自分が何をしてきたかを考えてみるべきです。
いくら具体的な事例を挙げて「こういうことを言っているんだ」と言ったところで、自分の言いたいことが伝わるとは限りません。「こういうこと」が何を指すのかが分からないからです。「こういうこと」が複雑ならなおさらです。
食べ物の好みを伝えることを考えてみてください。もしあなたが「甘ければ甘いほどいい」とか「量が多ければ味は何だっていい」という単純な好みだったら、伝えるのは簡単です。しかし、多くの人はそんな単純な好みではありません。
言葉ではなかなか言い表せない場合、自分が美味しいと思った料理と不味いと思った料理を挙げて、相手に推測してもらうしかありません。そうなると、相手は「なんでラーメンとカレーは好きなのに、ピザは嫌いなんだろう? 同じように美味しいと思うんだけどなぁ」と思うかもしれません。それは、自分と相手で味の好みや感覚が違うからです。
この問題は、ラーメンとカレーで何が一緒なのか、そしてピザはどの点でラーメンやカレーと違うのかを見分けるということです。しかし、ラーメンとカレーの持つ同じ性質は山ほどあります。ピザがラーメンやカレーと違う点も同様です。山ほどある類似点や相違点のどれに注目しているのかは、その人の感覚によります。人によって注目する箇所が違うのですから、例を挙げても分かってもらえない可能性は常にあります。
もちろん、中には少し例を挙げただけで分かってくれる人もいるでしょう。それは、注目する箇所が自分と似通っているからです。そういう相手は、一緒に過ごすには良い相手かもしれませんが、突っ込んだ話をするには良い相手とは言えません。自分が思っているのと同じようなことしか言わないだろうからです。言っただけでは分かってくれない相手は、自分とは違う感性を持っています。言い換えれば、相手は自分にない何かを持っています。本当に話をする価値があるのは、そういう人です。
自分の言ったことが相手に伝わるのが当たり前だという観念は捨ててください。言葉は伝わらないのが当たり前です。簡単には伝わらない言葉を何とか伝えようと、努力することこそが必要なのです。
無意味な感情論を避け、実のある議論を進めるための原則をいくつか考えてみましょう。 |
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