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オタクはすでに死んでいる
岡田斗司夫

テレビの企画で、いまどきのオタクたちに対面した著者が覚えた奇妙な違和感。そこから導き出された結論は「オタクはすでに死んでいる」だった。小さな違和感から始まった思索の旅はやがて社会全体の病にまで辿り着く。日本人はなぜ皆、コドモになってしまったのか。自由自在に飛び跳ねる思考の離れ業のダイナミズムを堪能出来る一冊。

ISBN:978-4-10-610258-5 発売日:2008/04/16

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714円(定価) 購入


オタクはすでに死んでいる



 はじめに

 この本は「オタクと昭和の死」についての本です。
 このテーマについて最初に語ったのは、二年ほど前。あるイベントでのことでした。イベントのタイトルは「オタク・イズ・デッド」、つまり「オタクは死んだ」。二〇〇六年五月二十四日に東京・新宿のロフトプラスワンという会場でのトーク・イベントでした。

 私は「オタキング」などと呼ばれ、世間やマスコミからはいわばオタクの代表みたいに思われている人間です。『オタク学入門』『東大オタク学講座』『オタク論!』などオタクに関する著作も多く、東京大学でもオタクをテーマにした講義を開きました。また、MIT(マサチューセッツ工科大学)など海外での講義や講演もこなし、タイム誌やパリ・マッチ誌などでも「オタクの代表」として取り上げられています。
 そのオタキング自身が「オタクはもう死んでしまった」と宣言したのです。私の発言はかなりの衝撃となって、賛否両論の大激論を巻き起こしました。

 しかし、それだけの話なら、この前書きを読んでくれている皆さんには関係ない話です。オタク業界がどんな騒ぎになろうとも、ネットやブログ世界でどんな大激論になろうとも、一般社会には関係ない。そう考える人がいるかもしれません。

 でも、死んだのはオタクだけではないのです。オタクが成立するためには「高度消費社会」と「勤勉な国民性」の並存が不可欠です。つまり昭和後期型、言い換えると第二次大戦以降の日本という国自体がオタクを生んだ、と私は考えています。そのオタクが死んだということは、消費社会と国民性の二つともが失われてしまった。
「失われた」というと否定的ニュアンスが強すぎるので、日本人は消費や勤勉の向こうにある、誰も知らない次のステージに入ってしまった。
 つまり、「昭和は死んだ」ということになります。
 このことにはたして、私たちは気づいているのでしょうか?

 現在の日本社会のインフラや社会システムの大部分は「国民とは昭和時代の日本人である」という大前提で構築されています。
 良く働き、良く貯金し、新製品や贅沢品に飛びつき、老後は年金や退職金で平和に過ごす人たち。
 世界でも有数の「離婚率の低い国」であり、子供たちは受験戦争を勝ち抜く戦士であり、画一化と揶揄されるほどの総中流社会。
 そんな日本は、もうどこにもありません。システムが変わったのではなく、私たち一人一人が、今やそういう「昭和の日本人」ではなくなってしまったからです。
「最近の若者は不気味だ」「理解できない」という人がいます。とんでもない。私たちがわからない、理解できないのは「最近の私たち自身」です。「昭和の日本人」ではなくなってしまった、自分自身ははたして何なのか?
 いつの間に「働くのは損」と考えてしまっているのか? いつの間に「ずっと子供でいられるのが幸福」と教えてしまっているのか? いつの間に「自分を守ってくれるのは自分だけ」と身構えてしまうようになったのか?
 昭和が死んで、次のステージに入ったことを、なぜ誰も教えてくれなかったのか?

 この本は、イベントで語った内容に大幅に加筆・訂正を加えて、書き下ろしました。もともとが「オタク向けの発言」なので、かなりマニアックな言い回しや例示も多く登場します。注意していただきたいのは、そういう「オタク内部の話題」をメインに進めるからといって、「自分には関係ない」と決めつけないでいただきたいのです。
「昭和の死」「日本の変化」という問題自体、大きすぎて語ることも受け取ることも不可能である、と私は考えます。一人の人間のキャパシティとして、「大きすぎる問題定義」は受け取れない。受け取るためにはそれぞれの事象を単純化・モデル化して扱うしかないけど、単純化すると単なる「昔はよかった」「最近の若者はケシカラン」という意味のない繰り言になってしまう。
 なので、もっと扱いやすいサイズの問題を軸に論を進めたいと思います。「日本人論」としては巨大すぎて語ることも受け取ることもできない問題だけど、「オタク論」というパーソナルで卑小な切り口なら、抽象的な話やお説教に逃げ込まずに語ることができる。そう考えて、本書を執筆しました。

 オタクは死んで、昭和も死んで、それでも私たちは生き続けなければいけません。

 最初は「オタクが変わってきた」という話であり、それは次第に「オタクを生み出した土壌である日本の変化」へと繋がり、最後には「その中で私たちオタクや非オタク、つまり日本人はどう生きればいいのか」までを、かろうじて視野に入れながら話を進めたいと思います。

 いえ、話を急ぐべきではありませんでした。
 まずは、身近な変化、私個人の体験したほんの小さな違和感からはじめましょう。

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