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新書で入門 宮沢賢治のちから

山下聖美/著

748円(税込)

発売日:2008/09/13

  • 新書
  • 電子書籍あり

愛すべきデクノボーの謎多き作品と生涯。

フリーター、自分探し、パラサイトシングル、「シスコン」――。「雨ニモマケズ」や「銀河鉄道の夜」、あるいは絵本や教科書で出会った童話や詩を通じて、日本人にもっとも親しまれてきた作家の一人、宮沢賢治。その人生には、現代のこんなキーワードがあてはまる。この「愛すべきデクノボー」の謎多き人物像と作品世界を、若手女性研究者が、数々の意外なエピソードと特異な感覚のちからに注目しながら読み解いていく。

目次
はじめに
I章 神童誕生 幼少時代(明治二十九~四十一年)
1 名門・宮沢一族
2 死人の晴れ着
3 飢饉の村からイーハトーブへ
4 伝説はこうして作られた
5 痛みを求めて――賢治の触覚
II章 思春期の葛藤 盛岡中学校時代(明治四十二~大正三年)
1 新天地・盛岡へ
2 短歌に目覚める
3 父との確執
4 鼻の手術――賢治の嗅覚
III章 光と影の青春 盛岡高等農林学校時代(大正四~九年)
1 農業への志
2 親友・保阪との出会い
3 トシの青春
4 法華経に傾倒――賢治の聴覚
IV章 奇跡の七ヶ月 家出、上京時代(大正十年)
1 信仰の激化
2 文学の街で
3 「童児こさえる代りに書いた」童話
4 まばゆい世界――賢治の視覚
V章 変人か、天才か 花巻農学校教師時代(大正十一~十四年)
1 故郷・イーハトーブへ
2 伝説の教師、誕生
3 禁欲主義者の神話
4 トシの死
5 『春と修羅』と『注文の多い料理店』
6 霊的体験――賢治の第六感
VI章 理想と現実に揺れて 羅須地人協会時代(大正十五~昭和三年)
1 「本当」を追い求めて
2 優雅な百姓暮らし
3 「アカ」疑惑と求愛者
4 チェロとエスペラント
5 粗食の美食家――賢治の味覚
VII章 死への助走 東北砕石工場技師時代(昭和四~八年)
1 ワーカホリックな病人
2 子供たちへの視線
3 闇の中へ――賢治の共感覚
4 「雨ニモマケズ」は永遠に
略年譜
あとがき
主要参考文献一覧

書誌情報

読み仮名 シンショデニュウモンミヤザワケンジノチカラ
シリーズ名 新潮新書
発行形態 新書、電子書籍
判型 新潮新書
頁数 192ページ
ISBN 978-4-10-610280-6
C-CODE 0291
整理番号 280
ジャンル ノンフィクション
定価 748円
電子書籍 価格 660円
電子書籍 配信開始日 2011/12/28

インタビュー/対談/エッセイ

波 2008年10月号より 「賢治伝説」ふたたび

山下聖美

宮沢賢治という作家は様々な伝説に満ち、それらは「賢治伝説」と呼ばれている。本書の執筆にあたって、その数々を担当編集者のGさんに話した。冷静な彼女は「ありえませんね」と鋭いツッコミを放ちつつ、「この本は、伝説に縛られないように作っていきましょう」と、きりりと答えてくれたものである。
執筆も大詰めを迎えた今年の六月、賢治の本拠地・岩手県をマグニチュード7.2という大きな地震が襲った。ふと私の脳裏に浮かんだのは、「賢治は災害とともに生まれ、災害とともに亡くなった」という、「賢治伝説」の一つだった。
まるでどこかの国の神話のようだが、たしかに賢治の生まれる二ヶ月前には約二万人の死者が出た三陸大津波が起き、生まれた数日後には陸羽大地震が花巻を襲っている。また、亡くなる半年前には再び三陸大津波が発生している。一瞬、「賢治伝説」に飲み込まれそうになりながらも、いけない、いけない(Gさんに怒られる)と自制しながら原稿に向った。
そして七月、またもや岩手県でマグニチュード6.8の大地震が発生した。当時の私はといえば、改稿作業の追い込みもピークに達しており、地震どころか自身のことで手一杯、という状態であったのだが、そんな中、Gさんから一通のメールが届いた。
「やはり、賢治をいじると地震が起きるんでしょうか……」
それは、彼女が「賢治伝説」に取り込まれようとする瞬間であったかもしれない。
何はともあれ、八月末、花巻の町は二つの大地震を乗り越え、さわやかな秋を迎えようとしていた。本書を書き終えた私は、数日間ここに滞在し、あらためて賢治を育んだ風土を存分に体感してきたのだ。
学生時代から調査などで通い続けているが、何度来てもいいところである。遠く見渡せば、岩手山や北上川の雄大な景色。足元には、まるで賢治童話に出てきそうなどんぐりが転がり、白いキノコがかわいらしく生えている。食べ物もおいしい。何よりも好きなのは、光原社の「くるみクッキー」である。光原社といえば童話集『注文の多い料理店』の版元であるが、現在は民芸品や鉄器、お菓子などを売る店として繁盛している。そしてこの町が、いまなお「賢治伝説」であふれていることは言うまでもない。
さあ、皆さんも賢治ゆかりの地を訪れてみませんか。東京から新幹線で約三時間、ちょうど本書を読み終わる頃には、魅力的で不思議な国イーハトーブに到着していることでしょう。
(両地震の被災者の皆様にお悔やみを申し上げると共に、被災地の一日も早い復興を祈念します)

(やました・きよみ 日本大学芸術学部専任講師)

蘊蓄倉庫

賢治の「七つの感覚」

 宮沢賢治という人は、過敏なまでに感覚のすぐれた人でした。視覚、聴覚、触覚、嗅覚、味覚という五感はもとより、第六感も強く、いわば霊感体質だったといいます。夭折した最愛の妹トシの姿を枕元に見たり、小人やいにしえの修行僧の霊に行きあったり……。
 さらに七つ目の感覚ともいうべきものが「共感覚」。ひとつの刺激に対して、複数の感覚が混じりあって反応するというものです。賢治はその作品に、登場人物が音に香りを感じたり、景色を見たりする場面を繰り返し描きました。本書では、これら七つの感覚を軸に、賢治の謎多き作品世界と生涯に迫ります。
掲載:2008年09月25日

著者プロフィール

山下聖美

ヤマシタ・キヨミ

1972(昭和47)年、埼玉県生まれ。日本大学芸術学部文芸学科専任講師。同大学院芸術学研究科博士後期課程修了、博士(芸術学)。明治の文豪からケータイ小説まで、幅広く研究中。著書に『賢治文学「呪い」の構造』『一〇〇年の坊っちゃん』『検証・宮沢賢治論』など。

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