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「新潮」9月号
           特別定価900円
             8月7日発売


 小説の手ごたえ
  ──吉村昭vs.山田詠美

 吉村昭氏「敵討」一四〇枚は、伯父に続いて父親まで
も闇討ちにされた青年が、仇を追って全国各地を探索し、
八年後なんと鴎外の小説と同じ神田護持院ケ原で本懐を
遂げるまでを、史実に忠実に、練達の筆に描いた秀作。
一方、山田詠美氏「MENU」一〇〇枚は、母の自殺後
伯父一家に引き取られて成長した「ぼく」と、従兄妹と
の奇妙な官能の交遊を通して、聖と俗、幸と不幸の通念
を根本から揺さぶる野心作。作者も作品も性格はこれほ
ど異なるのに、共に手ごたえは確かで、同じ目次に並ん
で少しも不思議でないのが、文学というものの懐の深さ
でしょう。
 ほかに短篇が松村栄子氏。評論は小田実氏による
「『文(ロゴス)』と『アンガジュマン』」一二〇枚。
エッセイが中薗英助、川村二郎氏。「21世紀への対話 
芸術と宇宙原理」は横尾忠則・建畠皙氏。好評をいただ
いた河野多恵子氏「秘事」と、津島佑子氏「笑いオオカ
ミ」の二連載は、今号で完結します。

■年間講読料一〇八〇〇円(12冊 税・発送費込)