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【冒頭部分掲載】


新連載 「小林秀雄の恵み」(一)

橋本治


一 小林秀雄から遠く
 二○○一年の終わり――『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』を書き上げてしばらくした時、ふっと「小林秀雄」を思った。「三島由紀夫をやっちゃったら、次は小林秀雄か、志賀直哉か、島崎藤村かな」と思って、「やっぱり小林秀雄だろうな」と、そんな風に思った。思って、黙っていた。そして、年が明けてしばらくしたら、新潮社の小林秀雄全集編集室から、「小林秀雄について書いてほしい」という原稿の執筆依頼を受けた。全集の別巻IIに収録するのだという。「なんで俺が?」と思った。その時点に於いて――そしてこの原稿を書こうとしている今の時点に於いても、私は『本居宣長』以外の小林秀雄の著作を読んではいない。「こんな私でもよいのか?」という確認を取って、短い文章を書いた。そして、「とりあえず小林秀雄のことは書いちゃったから、これでもういいのかな」とも思った。私には抱えている他の仕事があって、そうそうよそ見をしてもいられない。ところが、それから半年ばかり過ぎたら、突然、『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』に、第一回の小林秀雄賞が贈られるということになった。かなり面喰った。小林秀雄がどんどん近づいて来る――全然関係なかったはずなのに。
『「三島由紀夫」とはなにものだったのか』を書き上げた後で「小林秀雄」と思ったのは、「友」という連想からだった。

続きは本誌にてお楽しみ下さい。