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創刊一二○○号

「新潮」1月号(創刊1200号記念特別号)
特別定価1000円
12月7日発売

「名短篇」(SHINCHOムック/新潮別冊)
定価1500円
12月2日発売


 私が編集者として初めて担当した書籍は韓国人作家チャン・ジョン・イルの長篇小説『アダムが目覚めるとき』(小誌一九九一年十一月号初出)だった。刊行後まもなく、日韓文学シンポジウムで来日した著者がひょんなことから拙宅に一晩宿泊することになった。夜更けまで飲み明かし、頼りないが唯一の共通言語である英語で、彼の少年院時代の話や現代文学・思想について語り合った。翌日、二日酔の彼と私は、朝食兼昼食を食べるため、よろよろと近所の商店街に向かい、蕎麦屋に入った。すると彼は不意に店を飛び出し、商店街の韓国食材店で買ってきたキムチをたぬき蕎麦の上に豪快にのせて、日本料理でも韓国料理でもない、そしてそのどちらでもある料理を実にうまそうに食べ始めたのだった。

   

 創刊一二○○号記念号である新年号と新潮別冊「名短篇」を同時にお届けする。
 新年号では特集「文学アジア――ここにある/どこにもない小説空間」と題し、中国、韓国、香港、タイ、インドネシア、ベトナム、バングラデシュ、ネパール、アゼルバイジャン、タジキスタン、バシュコルトスタン、イラン、パレスチナの十数の国や地域、十数言語の本邦初紹介作品を掲載する。各国の文学のエキスパートが厳選した物語達が乱舞し、衝突する。
 アジアの中の日本/日本の外のアジア。アジアはひとつ/複数のアジア。イデオロギーとしてのアジア/リアリティとしてのアジア。先進する国の幸福と不幸/後進する国の不幸と幸福。近代と現代とのアジア的衝突/現代から脱現代へのアジア的軌跡……。いまここにある、そして、どこにもない豊かな文学空間に読者を誘いたい。

   

 新潮別冊「名短篇」では、小誌創刊一○○周年および通巻一二○○号を記念する特別企画として、詩人の荒川洋治氏をゲスト編集長に迎えた。小誌が生んだ一○○年分の名短篇より、荒川編集長が選んだ作品三八編――森鴎外、芥川龍之介から大江健三郎、町田康まで――を掲載。そして、この全作品を読破した筒井康隆、堀江敏幸の両氏に存分に語り合っていただいた。あわせて小誌発表の「名長篇」四○作――真山青果から村上春樹まで――の味わいを四○人の文学者がコラム形式で紹介する。この一冊で日本文学一○○年の魅力が堪能できる永遠の名作アンソロジーだ。
(編集長・矢野優)