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【冒頭部分掲載】

短期集中連載第一回
「悲劇週間 SEMANA TRAGICA」

矢作俊彦


 ビーリャは詩や謡曲になって未だ北の荒野で馬を乗り回し、サパタは大きな祭りのたび広場で死に、マデロは旗を振りながらバルコニーに登場する。カランザとオブレゴンは今もあの時代の列車を乗り継ぎ乗り継ぎ国中で女たちの心をざわつかせ、若者を親元からかっさらって行く。
 皆が彼らについていく。いったい何処へ?
 誰もそれを知らない。それはメキシコ革命という、魔法のようにすべてを変え、とてつもない歓喜と突然の死をもたらす言葉へなのである。

 メキシコ革命には理念などまるでない。それは現実の破裂なのだ。言ってみれば復活と交わりであり、眠れる古い実体の錯乱で、そうなることを恐れて隠してあったいくつもの凶暴や情愛、そして優しさの解放なのだ。
オクタビオ・パス

   I

 ぼくは二十歳だった。時は明治の四十五年、それがいったいどんな年だったか、誰にも語らせまい。
 事の起こりは、公使としてメキシコに赴任していた父がぼくを任地へ呼び寄せようと心に決めたことだった。ぼくはやっとの思いで慶応の予科に入学したばかり、学生暮らしもまだ一年とは経っていなかった。

続きは本誌にてお楽しみ下さい。