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【冒頭部分掲載】

子供だヨ! 全員集合

宮崎誉子


 私のクラスでは毎日、作文を読むことにしている。
 今日の主役は中野真一君だ。

  「陸上大会」
                      中野真一
  5月23日、ついに陸上大会の日が来た。
  僕は60mハードルの選手だ。
  僕は頭が悪いので絶対に結果を出すんだ。
  やる気が空回りしたのか、ハードルをバーンと倒して泣きたくなった。
  でも、練習だったのでホッとした。
  スピーカーから僕を呼ぶ声が聞こえた。
  「いちについて、よーい」
  僕はがんばった。
  僕は一位になった。
  最高に嬉しかった。

 放課後の教室には私と中野君だけだ。
「中野君て、最低だよね」
 中野君は嬉しそうに笑った。
「石川君にわざと負けるように言ったでしょ」
「先生。命令されるのが好きなヤツっているじゃん」
「そうね。いるわね」
 中野君はこのクラスのボスだ。
「先生さあ。僕のこと嫌いなの」
「どっちだと思う」
「先生さぁ。もっと利口にならなくっちゃ」
 中野君てホチキスの針みたいに手に刺さる子供だ。

 美雨ちゃんが家にあった多額のお金を持ち出したと、保護者から連絡があったので話を聞いた。
「美雨ちゃん。中野君と今井君からゲームを買ってくれっておねだりされたでしょ」
「……みっ美雨が……いっいけないの」
「美雨ちゃんがぁ、本当のこと教えてくれれば、先生は美雨ちゃんの味方なんだけどなぁ」
「さっ最後まで、味方になってくれるの?」
 私は頷きながらも半分面倒くさかった。
 教師になってから日記をつけている。
 学校でつけているのは偽善日記だ。
 部屋でつけているのは毒殺日記だ。
 頭の中だけの殺人は楽しいし空しい。

 廊下を歩いていると、サッカー部の林君にオデコをバシバシ叩かれた。
「マジ先生だけだな、ムカつかないのは」
「そりゃどうも」
「マジ、残りは全員銃殺だよ」
「ひとつだけ質問があるんだけど」
「いいよ。答えてやるよ!」
「今日さぁ。ポケモンより好きなカレーに手もつけなかったよね?」
「……あんな甘いの俺様が食べるわけねぇよ」
「フーン」
「先生こそ、なんで目の下クマ星人なんだよ」
「小さなお世話よ」
「ごめん」
 林君は素直すぎて、手応えがなさすぎる。

続きは本誌にてお楽しみ下さい。