本・雑誌・ウェブ


言葉の闘い
「新潮」12月号
特別定価950円
11月7日発売



◎「最後の大作」として世阿弥を描きたい――。幾度もの取材と入念な資料研究を経て、瀬戸内寂聴氏の積年の願いがついに結実した。今回掲載の「秘花」(80枚)は来る長篇の精髄というべき作品だ。能作品「高砂」「井筒」や能芸論書「風姿花伝」に五百年の時の流れに耐えうる命を吹き込みながら、佐渡流刑を余儀なくされた不世出の芸術家が瀬戸内氏の言葉の中で立ち上がる。語る。呻く。書く。瀬戸内氏の燃え盛る命が表現という表現に注ぎ込まれる。その執念、その驚くべき言葉の闘い◎一九八〇年に生まれ、二一世紀にデビューした佐藤友哉氏が目を瞠らせるブレイクスルーを遂げた。「1000の小説とバックベアード」(370枚一挙掲載)はポスト近代文学の廃墟に未知の小説空間を立ち上げた◎大ベテランであれ、気鋭であれ、言葉を信じ、言葉の闘いを止めぬ者こそが文学者だ。この二作を紹介できることを嬉しく思う。
(編集長・矢野 優)