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タイム・ラッシュ―天命探偵 真田省吾―
神永学

目の前に現れたのは、透き通るような白い肌をした、車椅子の美少女。殺人を夢で予見する超能力があると言い、「被害者を事前に探し、救って欲しい」と依頼する。記憶に残る現場をPCで探し、携帯で指示をだす彼女。ひたすらバイクを走らせる俺。このミッションは遂行できるのか? 死神も見捨てた強運の男。新ヒーロー参上!

ISBN:978-4-10-306601-9 発売日:2008/03/21

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1,050円(定価) 購入

波 2008年4月号より

疾走するミステリ
川本三郎


 三十四歳になる作者は、自費出版で出て来たという。珍しい。その第一作『赤い隻眼』が好評で、改訂版『心霊探偵 八雲』には印税が支払われ、ベストセラーになったという。
 自費出版をビジネスにしている出版社の本がベストセラーになるというのは、異例なことではあるまいか。
『心霊探偵 八雲』は、幽霊、つまり死んだ人間の魂が見えてしまう斉藤八雲という若者が、死者と接しながら殺人事件を解決してゆく連作小説。
 八雲はいうまでもなく、小泉八雲を下敷にしている。小泉八雲が左の目を失明していたように、現代に生きる斉藤八雲も左目が異様に赤く、その目は現実よりも死者を見ている。
 と、書くと、怪奇幻想小説を思わせるが、決してそんなに濃い世界ではなく、いわば赤川次郎の学園ミステリにスティーブン・キングのホラーを溶け合わせた趣きがある。
 文体も、ゴシック・ホラーのように装飾的なものではなく、あくまでもアクション映画のように簡潔でスピーディ。場面が次々に転換してゆく速度感も現代的で、これが多くの読者の共感を呼んだのだろう。

 本書『タイム・ラッシュ―天命探偵 真田省吾―』もまた矢継ぎ早に事件が展開してゆく疾走するミステリ。主人公の若者、東京の世田谷にある私立探偵事務所で働く真田省吾は、オートバイに乗って町を走るが、この小説の疾走感は、車というより、つねに外気に触れながら走るオートバイから生まれるものだろう。
『心霊探偵 八雲』と同じように、この小説にも、現実の向うの世界を感知出来る不思議な少女、中西志乃が登場する。
 特別な家具の輸入を手がけている金持の父親を持つ。七年前、十二歳の時、母親と買物に出かけ、交通事故に遭った。母親は死に、娘の志乃は、車椅子での生活を余儀なくされるようになった。
 事件のあと、彼女には超自然的な力が備った。人が殺される夢を見る。赤の他人だが、夢を見たあと、現実にその人間が殺される。ホラー小説によく見られる予知夢である。
 ある時、彼女は、中学生の女の子がプールのような場所で男に殺される夢を見る。いままでは、惨劇が実際に行なわれるまま、なすすべもなかった。しかし、これ以上、人が殺されるのを見過せない。なんとかこの殺人事件を阻止したい。
 そして、偶然なことから出会った真田省吾に調査を依頼する。自分が夢に見た少女をなんとか探し出し、助けたい。そこから物語が動き出し、某国がからむ組織的な麻薬密売へと発展してゆく。

 車椅子の少女と、オートバイで東京やその近郊を走りまわる若者。静と動の対比が繰返されるうちに二人が次第に淡い恋心をかよわせてゆくのは定石通りとはいえ、陰惨な殺人の物語のなかに青春の清涼な風が吹く。
 さらに、超能力者の悲しみというものがある。『心霊探偵 八雲』の斉藤八雲も、死者の霊が見えてしまうという通常人にはない能力を持ってしまったために、かえって「死」と共に生きざるを得ない悲しさを持ってしまったが、この小説の車椅子の少女も、予知夢を見る自分の力をかえって悲しむ。
 人が殺される夢ばかり見る。そして実際にそのとおり人が殺される。彼女はそのことに苦しむ。自分が夢を見なければ、人は死なないのではないか。
 特殊な能力を持ったがために普通の人間にない苦しい思いをする。一方、彼女に事件を依頼された若者、真田省吾にも別の悲しみがある。
 以前、車椅子の少女は刑事の家族が惨殺される夢を見た。現実にそのとおりになった。省吾はこの時の家族の一人で、奇跡的に生き残った。
 不思議な能力を持った少女の悲しみと、子供の時に何者かに両親を惨殺された若者の悲しみが溶けあった時、この疾走するミステリは、静かなラブストーリーにもなる。シリーズ化を期待したい。

(かわもと・さぶろう 評論家)

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