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待っていた物語

作家 畠中恵

 私が、「十二国記」シリーズの、最初の一冊を読んだのは、1996年ごろだと思う。

 買った本には第12刷とあったから、既に多くの人が手に取っていたシリーズであった。目次の次のページに、海に咲く花のような地図が載っていたので、架空の世界の物語、ハイ・ファンタジーかなと考えてから、読み始めたのを覚えている。

 するとすぐに、読んでいる話のジャンルは何かという、落ち着いた考えは、私の中から飛んで消えた。

「十二国記」は何よりもまず、“面白い物語”であったのだ。物語の内に、頭からどっぷりはまり込んで、何度も読み返さずにはいられない程、強く引かれていった。

 こういう話に出会うと、溢れる思いのままに、二次創作など、書いてみたくなる。いや自分もいつか、華やかな異世界の書き手になりたいと思い定め、そうなるべく、最初の一行を書き始めることも、あるはずだ。

 この物語は人を引きつけ、その力で、人を動かすのだ。十二国という架空の場所でも、今いる現実の場所でも、読み手をどこかへ、連れていく気がした。

 ならば、シリーズの持つその強い魅力は、一体どこからくるものなのだろう。

「十二国記」は、主人公達の成長物語になっている。しかし、そういう話は世に沢山ある。多くの話がある中、その要素だけで、引きつけられるものではないだろう。

 物語を読むと、異界でもう一度、生まれ変われる心持ちに、なれるからだろうか。現実では難しいことだから、心引かれるわけだ。だがその設定のみで引っ張るのは無理な気がした。

 やはり、この物語の持つ、異世界ものであるのに、現実的な点が読者を引きつけるのではないか。

 十二国の王達は、恐ろしく壮大なもの、国の命運と民の生涯を負う。そして迷いつつ、苦しみつつ、それでも負い続ける強さを、選び取っていくのだ。

 大きな運命を背負った彼女や彼は、特別な人達ではない。その生き様を見るうちに、読み手は、己が国を負っているかのように、感じていく。

 いや、そういう運命を得る者になりたいと、憧れるのだろうか。その強烈な憧憬が、この物語を他とは違う、特別なものにするのだろう。

 これは現実の願いと、永遠の憧れを含んだ話なのだ。

yom yom vol.58 2019年10月号より)