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 24:06 赤坂見附駅
 鏡国彦
(かがみ くにひこ)


     お、来てるじゃないか。

 国彦はドアを開けている銀色の電車を見て、足を早めた。新橋なら前がいいのだ。
 後ろを振り返り、声を上げる。

「おい! 来てるぞ。走れ、一番前がいいんだ!」
 おう、と言うようにすぐ後ろの奈良岡が走りはじめた。
 同時に構内アナウンスが告げた。

「3番線停車中の電車、浅草行、本日の最終電車でございます」

 後ろの連中がついてきていることを確認しながら、国彦は走る。
 美香が後ろで高い声を上げる。
「そんなに急がなくても大丈夫よ。いつもこの電車、待ち合わせで停まってんの。まだ、時間、あるわよ」

 それでも、国彦は早足のまま先頭車両へ向かった。

 ピーッ、と後ろのほうで車掌が笛を吹いた。
「はい、浅草行最終電車、ドア閉めますからご注意下さい」

 先頭車両の後ろのドアの前で、若い女性が中を覗きながら立っていた。電車の中を覗くと、酔っぱらいの男を両側から抱きかかえるようにして、男たちがホームへ降りようとしていた。
 だから国彦は真ん中のドアへ走る。

 中央ドアの前で、後ろの連中を迎える。
「はい、乗った乗った」
 ドアボーイになったような格好でドアを片手で押さえながら、国彦は全員を誘導する。

「浅草行最終電車です。お乗りくださあい」
 アナウンスが、間延びしたような声で言った。

 奈良岡が乗り、続くようにして美香が乗り込む。手賀がそこに続き、真紀がいささかふてくされたような顔でドアをくぐった。肝心のみどり湯川は、一番最後から手をつないで走ってきた。
「どぉも!」
 みどりはドアボーイをやっている国彦に笑いかけながら、湯川の手を引っ張るようにして電車に乗り込んだ。

「あー、浅草行、ドア閉めますからご注意下さい」
 後ろの車両のほうで乗り遅れている奴がいるのだろう。駅のアナウンスが、叫び続けている。

 入口付近にかたまって立っている連中に、国彦は浮かれたように言った。
「なんだ? みなさん、座らないの? こんなに座席が空いてるのに」
 手をつないだままの湯川とみどりに笑いかける。
「ほらほら、まず主役の二人が座らなきゃ」
「いや……その、主役って――」
 湯川が困ったように国彦を見返す。

 いやあ、なんとしてもめでたい。と、国彦は湯川に笑いかけた。
 こんなにめでたいことがあるだろうか。結婚だって? いいじゃないか。お祝いしますよ。心からお二人の門出を祝おうじゃありませんか。
 そうかそうか。結婚するのか。よかったよかった。

 目を移すと、みどりが照れたように、チロッと舌を出した。


 
    奈良岡 美香  若い 
女性
酔っぱら
いの男
    手賀  真紀  みどり 湯川

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