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素顔の村上春樹が、ユーモアとホンネで答えた伝説の超人気サイトの名問答を厳選収録!

村上さんのところ

村上春樹/著

907円(税込)

本の仕様

発売日:2018/05/01

読み仮名 ムラカミサンノトコロ
装幀 フジモトマサル/カバー装画、新潮社装幀室/デザイン
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-100170-8
C-CODE 0195
整理番号 む-5-38
ジャンル エッセー・随筆
定価 907円

春樹さん、こんなことも聞いていいですか? 世界中から集まった質問は何と3万7465通。恋愛・人間関係・仕事など悩ましい人生のモンダイから小説の書き方、音楽や映画、社会問題、猫やスワローズまで、怒濤のメール問答は119日間、閲覧数1億PVに及んだ。可愛くてちょっとシュールなフジモトマサルのイラストマンガを多数加え、笑って泣いて励まされる選りすぐりの473通を収録する!

著者プロフィール

村上春樹 ムラカミ・ハルキ

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)、『騎士団長殺し』がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集、エッセイ集、紀行文、翻訳書など著書多数。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、2016年ハンス・クリスチャン・アンデルセン文学賞を受賞。

村上春樹 Haruki Murakami 新潮社公式サイト

書評

切れるほどの身銭を持たざる人へ

内田樹

 人生相談本では、定型的な質問に「いらっ」とすることがある。僕もこれまでいくつか「人生相談」コーナーのようなものを雑誌で担当したことがある(今もしている)が、「これだけ言ってるのに、まだわかってもらえないのか」と思うと、答えがちょっと冷淡になる。でも、「これだけ言ってもわからない」のは、やはり「わかりにくい」話をしているからなのである。それなりの理由がある。
 村上春樹さんは読者に対してきわめて「親切心」豊かな書き手である。読者にわかってもらおうという努力を怠ったことのない書き手が久しく主張してきて、それでもわかってもらえないことがある。それは「身銭を切る」ということである。
「身銭を切るって大事ですよね。他人のお金を使っていては、何も身につきません。本当に大事なことは多くの場合、痛みと引き替えにしか手に入りません」(「質問107」への回答)。同じことは言い回しを変えて、本書の中で繰り返し語られる。それだけ似た質問が多かったということである。
 たぶん、僕たちの社会では「質問する」というのはそのまま「難問への一般解」や「目的地へのショートカット」を求めることだと信じられている。だが、一般解をいくら覚え込んでも、それは自分がいま抱え込んでいる特殊な問題の解決にはならない。
 その種の問いに対する村上さんの回答は「猫を飼ったらどうですか」(「質問106」への回答)とか「早寝早起きをして、暴飲暴食を避け、毎日運動する」(「質問450」への回答)とか「朝は早起きして仕事をし、適度な運動をし、良い音楽を聴き、たくさん野菜を食べます。それでいろんなことはだいたいうまくいくみたいです。試してみてください」(「質問224」への回答)といったものだ。それは「人間関係で苦しんでいます」という人に「とりあえずご自分の部屋の掃除でもしたらどうですか」と回答するのに似ている。
 でも、そう書くしかないと思う。自分の問題は自分で「身銭を切って」解決する以外にないからだ。でも、そのためには切れるだけの身銭が身に付いていないと話が始まらない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。村上さんはそのタイプの質問に対しては「切れるほどの身銭をまず身につける」ことを質問者に薦めている。「身銭の切り方」に一般解はないけれど、「身銭の付け方」には経験則があるからだ(「早起き」は間違いなく「身銭を付ける」上ではきわめて効果的な方法である)。
 でも、ときどきほんとうに心身ともに疲れ切っている質問者もいる。彼らに対しては村上さんは回答を少し変えて、「つらい時間をやり過ごす」ことを薦めている。「きっと時間が解決してくれる」(「質問392」への回答)とか「どんな雲の裏地も明るく輝いている(Every cloud has a silver lining)というのが僕のマントラのひとつです。落ち込んだときには、できるだけ雲の裏側のことを考えましょう」(「質問317」への回答)というような回答は「しばらくは身銭を身につける余力さえない人」に対してのアドバイスだろう。
「身銭を切る」も「やり過ごす」も時間と手間ひまがかかる作業である。たぶん多くの人はタイムラグなしで問題が解決することを善だと思っている(だから、「問題解決能力」というようなものをありがたがる)。だが、問題は解決され、処理されるためにあるのではない。むしろ、それを長い期間抱え込むことによって、「私」自身がそれを受け入れ、それと共生できるものへ熟成してゆくための「きっかけ」である。村上さんのそういう考え方に僕は同意の一票を投じる。
 ほとんどの回答を笑いと同意のうちに読んだのだけれど、一つだけ愕然としたものがあった。「質問398」の、自作が外国語訳されることを前提に書いているかという質問を村上さんは「『言いがかり』とまでは言いませんが、ただの根拠のない推測です」と一蹴したのである。僕自身は「外国語に訳せるかどうか」は(実際に翻訳されるかどうかとは関係なく)内輪の語法に絡めとられないための重要な気づかいだと思っていたので、「本当にぎりぎりのところで書いているのです。『こうすれば翻訳しやすいだろう』みたいな余分なことを考えるゆとりはとてもありません」と書かれて、そうかオレは「ぎりぎり」じゃないんだ……とちょっと落ち込んだ。「雲の裏地」を探さねば。

(うちだ・たつる 思想家)
波 2015年8月号
単行本刊行時掲載

判型違い(書籍)

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