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選りすぐりの「名問答」をセレクトして、フジモトマサルのイラストを加えた愛蔵版。何度でも読み返したい「人生の常備薬」 。

村上さんのところ

村上春樹/著、フジモトマサル/絵

1,404円(税込)

本の仕様

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発売日:2015/07/24

読み仮名 ムラカミサンノトコロ
発行形態 書籍
判型 A5判
頁数 255ページ
ISBN 978-4-10-353431-0
C-CODE 0095
ジャンル 文芸作品、エッセー・随筆
定価 1,404円

期間限定サイト「村上さんのところ」上で、村上春樹が3か月半にわたって続けた回答は、じつに3716問! その中から、笑って泣いて考えさせる「名問答」473問を村上春樹本人がセレクト。可愛くてちょっとシュールなフジモトマサルのイラストマンガ51点を加えた待望の書籍版!

著者プロフィール

村上春樹 ムラカミ・ハルキ

1949(昭和24)年、京都市生まれ。早稲田大学第一文学部卒業。1979年『風の歌を聴け』(群像新人文学賞)でデビュー。主な長編小説に、『羊をめぐる冒険』(野間文芸新人賞)、『世界の終りとハードボイルド・ワンダーランド』(谷崎潤一郎賞)、『ノルウェイの森』、『国境の南、太陽の西』、『ねじまき鳥クロニクル』(読売文学賞)、『海辺のカフカ』、『アフターダーク』、『1Q84』(毎日出版文化賞)がある。『神の子どもたちはみな踊る』、『東京奇譚集』などの短編小説集、エッセイ集、紀行文、翻訳書など著書多数。海外での文学賞受賞も多く、2006(平成18)年フランツ・カフカ賞、フランク・オコナー国際短編賞、2009年エルサレム賞、2011年カタルーニャ国際賞、 2016年アンデルセン文学賞を受賞。

村上春樹 Haruki Murakami 新潮社公式サイト

フジモトマサル フジモトマサル

漫画家兼イラストレーター、ときに回文やなぞなぞも作る。擬人化された動物の絵を得意とする。著書に『ダンスがすんだ』(新潮社)、『今日はなぞなぞの日』(平凡社)、『いきもののすべて』(文藝春秋)、『二週間の休暇』(講談社)などがある。

フジモトマサルの仕事 (外部リンク)

書評

切れるほどの身銭を持たざる人へ

内田樹

 人生相談本では、定型的な質問に「いらっ」とすることがある。僕もこれまでいくつか「人生相談」コーナーのようなものを雑誌で担当したことがある(今もしている)が、「これだけ言ってるのに、まだわかってもらえないのか」と思うと、答えがちょっと冷淡になる。でも、「これだけ言ってもわからない」のは、やはり「わかりにくい」話をしているからなのである。それなりの理由がある。
 村上春樹さんは読者に対してきわめて「親切心」豊かな書き手である。読者にわかってもらおうという努力を怠ったことのない書き手が久しく主張してきて、それでもわかってもらえないことがある。それは「身銭を切る」ということである。
「身銭を切るって大事ですよね。他人のお金を使っていては、何も身につきません。本当に大事なことは多くの場合、痛みと引き替えにしか手に入りません」(「質問107」への回答)。同じことは言い回しを変えて、本書の中で繰り返し語られる。それだけ似た質問が多かったということである。
 たぶん、僕たちの社会では「質問する」というのはそのまま「難問への一般解」や「目的地へのショートカット」を求めることだと信じられている。だが、一般解をいくら覚え込んでも、それは自分がいま抱え込んでいる特殊な問題の解決にはならない。
 その種の問いに対する村上さんの回答は「猫を飼ったらどうですか」(「質問106」への回答)とか「早寝早起きをして、暴飲暴食を避け、毎日運動する」(「質問450」への回答)とか「朝は早起きして仕事をし、適度な運動をし、良い音楽を聴き、たくさん野菜を食べます。それでいろんなことはだいたいうまくいくみたいです。試してみてください」(「質問224」への回答)といったものだ。それは「人間関係で苦しんでいます」という人に「とりあえずご自分の部屋の掃除でもしたらどうですか」と回答するのに似ている。
 でも、そう書くしかないと思う。自分の問題は自分で「身銭を切って」解決する以外にないからだ。でも、そのためには切れるだけの身銭が身に付いていないと話が始まらない・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・。村上さんはそのタイプの質問に対しては「切れるほどの身銭をまず身につける」ことを質問者に薦めている。「身銭の切り方」に一般解はないけれど、「身銭の付け方」には経験則があるからだ(「早起き」は間違いなく「身銭を付ける」上ではきわめて効果的な方法である)。
 でも、ときどきほんとうに心身ともに疲れ切っている質問者もいる。彼らに対しては村上さんは回答を少し変えて、「つらい時間をやり過ごす」ことを薦めている。「きっと時間が解決してくれる」(「質問392」への回答)とか「どんな雲の裏地も明るく輝いている(Every cloud has a silver lining)というのが僕のマントラのひとつです。落ち込んだときには、できるだけ雲の裏側のことを考えましょう」(「質問317」への回答)というような回答は「しばらくは身銭を身につける余力さえない人」に対してのアドバイスだろう。
「身銭を切る」も「やり過ごす」も時間と手間ひまがかかる作業である。たぶん多くの人はタイムラグなしで問題が解決することを善だと思っている(だから、「問題解決能力」というようなものをありがたがる)。だが、問題は解決され、処理されるためにあるのではない。むしろ、それを長い期間抱え込むことによって、「私」自身がそれを受け入れ、それと共生できるものへ熟成してゆくための「きっかけ」である。村上さんのそういう考え方に僕は同意の一票を投じる。
 ほとんどの回答を笑いと同意のうちに読んだのだけれど、一つだけ愕然としたものがあった。「質問398」の、自作が外国語訳されることを前提に書いているかという質問を村上さんは「『言いがかり』とまでは言いませんが、ただの根拠のない推測です」と一蹴したのである。僕自身は「外国語に訳せるかどうか」は(実際に翻訳されるかどうかとは関係なく)内輪の語法に絡めとられないための重要な気づかいだと思っていたので、「本当にぎりぎりのところで書いているのです。『こうすれば翻訳しやすいだろう』みたいな余分なことを考えるゆとりはとてもありません」と書かれて、そうかオレは「ぎりぎり」じゃないんだ……とちょっと落ち込んだ。「雲の裏地」を探さねば。

(うちだ・たつる 思想家)
波 2015年8月号より

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【追悼・フジモトマサルさん】 触れたように思った

長嶋有
 
 二〇一一年の春にフジモトさんが白血病と診断されたとき、似合うなあとまず思った。
 第一報をくれた友人は電話口でもう泣いていたが、まったく、人はそれぞれ、似合う病気に罹るものだと感じた。二枚目は二枚目の、三枚目は三枚目の病気になる(僕はそのとき水虫の疑いを自分に抱いているところだった)。
 それで電話口に向かって「大丈夫だよ」と自分でも驚くような平明さで、請け合いの言葉を発していた。
「白血病は彼に似合うけど、それで早世したら『似合いすぎる』から」
 彼はいつでもオシャレな、自分に似合う服、似合う家、似合う調度に包まれていた。早世は過剰だ。「白血病を克服」が一番似合う。
 何週間かして会ったフジモトさんも、いつも通りのフジモトさんだった。快癒を願いに、皆で伊勢神宮にお参りにいくことにした。折しも四十にして自動車免許を取得し、車を買ったばかりの僕のため、フジモトさんは初心者向けのドライブのプランを組んでくれた。
 ドライバーの一人のW嬢が帰りの高速を飛ばし過ぎ、覆面パトカーに引っかかった。僕は初心者だったから気持ちが分からなかったが、ドライバーにとって「切符を切られる」というのは、とてもヘコむことであるらしい。いつも快活なW嬢がその後の車中でどんよりしていたのをフジモトさんは見逃さなかった。後日、わざわざ励ましの菓子折りを彼女に贈呈したと聞いたとき、なにかに触れたように思った。
 本格的な入院を控えた夏に、Ustreamの放送を行った。著作のPRのためだが、壮行会のような意味合いもあった。
 放送内で言葉遊びをした。質問の前半を隠して「なんですか」とか「どれですか」などとだけ尋ねる。解答者が無理やりに解答したところで、出題の全文を明かし、答えと質問の辻褄の合わなさを鑑賞する「それはなんでしょう」という遊びだ。
 フジモトさんが大病(二枚目の)で入院することを、視聴者にはもちろん伝えていない。彼からの出題は「なにをしますか?」だった。さまざまな解答が寄せられたところで全文を明かし、僕は度肝を抜かれた。思わず「二度見」してしまったが、フジモトさんは平然としていた。放送をみていた人も、僕の首の動きを二度見とは思わなかったろう。彼は、僕だけが驚けばよかったのだ。このときも、触れたように思った。
 出題の全文は「人生最後の日にあなたはなにをしますか?」だった。彼の漫画の作中に入り込んでしまった気がした。

村上春樹著・フジモトマサル絵
『村上さんのところ』より
 フジモトマサルの作品には、常にそういう皮肉があふれていた。僕は彼のことを漫画家と思っている。イラストレーターというよりもだ。たとえば『村上さんのところ』に添えられているのも、イラストではない、すべてが優れた一コマ漫画だ。イラストレーション然としたかわいい動物たちも漫画の「フキダシ」で語り合う。そこに書かれたわずかな応答には必ず「オチ」や「皮肉」が効いている。作品でない、本人自身の「その感じ」にいきなり触れて、驚いたが喜びのような気持ちもあった。励ましに菓子折りを贈呈する、念入りな品の良さと相まった上で、彼の作品はできている。
 入院、手術と過酷な闘病を経て彼は退院した。
 後に二度目の発症の報を聞いた時、今度は僕は なにも思うことができなかった ・・・・・・・・・・・・・・ 。「なおる・早世する」の二択ではない第三のシナリオを、僕は予期しなかった。
 本人も発揮した皮肉や、二枚目三枚目という軽い把握や、皆で計画した旅行、そういった「ふるまい」のすべてが今度は無効になった気がした。カメラが回っているのに監督の方をみてしまうような。
 運命は残酷過ぎるとか、悲しいとかそういう負の気持ちとも違って、「こんなシナリオは聞いてません」と、監督だか誰だかの方をみたくなる感じ。
 それから、お見舞いにいかなかった。W嬢から、入退院を繰り返す闘病の報告だけは聞き続け、なにもしなかった。薄情だったろうか。自分でも今もどうしたらよかったのかは分からない。
 昨年の引っ越しの荷造りで、友人の息子(高校生)と一緒に、自著のストックを段ボールにつめていた。ガムテープで封をしたところで二冊、入れ忘れがあった。フジモトさんが表紙と一コマ漫画を描いてくれたコラム集だ。あれ、と思ったところで訃報の電話が鳴った。
 僕は、フジモトさんがそうしてくれたんだと思った。電話を切り、入れ忘れたうち一冊は高校生にあげ、真夜中、段ボールだらけの部屋で一冊をめくった。どの漫画も死への皮肉に満ちている。僕はなんだかとても救われた気持ちになった。

村上春樹著・フジモトマサル絵『村上さんのところ』より




(ながしま・ゆう 作家)
波 2016年2月号より

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