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札幌学

岩中祥史/著

649円(税込)

発売日:2009/03/02

  • 文庫

サッポロ人とその大好物「ジンギスカン」。出会いのきっかけは「軍服」だった!? 「ガラナ」って何? 「かんぷう会」って何の行事? 知られざる札幌と札幌人の正体とは! 観光、出張、転勤(栄転&左遷)のお供に。

美しい自然があり、ウインタースポーツが楽しめ、美味しい食べ物も味わえる北の都。だが、そこは人気の観光地でありながら、二百万人近い人々が暮らす巨大都市でもあった。この街を知るには、しがらみから離れ、合理的で自由奔放な札幌人の生態を知らなければならない。歴史、地理、行事、慣行はもちろん、観光やグルメのツボも押さえた北の都市学。真の札幌好きへ贈る充実の一冊。

目次
序――なぜ「札幌」に惹かれるのか?
第一章 札幌人は「なんでもあり」の人々?
香典には領収書、おせちは大晦日からの合理主義
結婚式も会費制が当たり前
五十キロ制限の道道を堂々八十キロで疾駆
金メダル獲得者数が全国一の理由
自己破産と生活保護の比率が高い
女性の喫煙率が日本一
結婚も離婚も、切り出すのはいつも女性!?
古いものを大切にしない
遊郭で街づくりが加速
だだっ広いが、わかりやすい街
時計台とフロンティアスピリット
中央による冷遇の歴史
原点は国内の植民地
札幌人の多くは北陸、東北地方がルーツ
歴史がないから「伝統」にあこがれる
第二章 札幌はおいしいものでいっぱい
いつでも、どこでもジンギスカン
高級店よりレベルの高い回転寿司も
「スープカレー」か「カレー風味のスープ」か
スイーツ王国をめざして
サッポロラーメンの今昔
フランス料理がハイレベルでしかも安い理由
「地産地消」で、食のレベルがさらに高まるかも
コーヒーが似合う街
炭酸飲料といえば「ガラナ」
ワインとウイスキーが好きな札幌人
第三章 札幌はいつもオンシーズン
春の一大イベントは、小学校の「運動会」
花が咲き乱れる春と夏
同じ国の中なのに、「サマータイム」を導入
七夕はハロウィーンとのハイブリッド?
夏はなんといってもYOSAKOIソーラン
ビールは太陽の下、星空の下で
「かんぷうかい」って、「寒風会」のこと?
北のニューウェーブ「オータムフェスト」って何?
華やかな雪まつりの陰で
サービスの極意はすすきのに学べ
雪と戦いつつも、雪を楽しむ
全国の先鞭をつけた「ホワイトイルミネーション」
札幌人が東京では風邪をひく理由
第四章 札幌は街中がリゾート
公園に「ゴルフ禁止」の看板がある理由!?
普通のゴルフもパークゴルフも、気分しだいで
山といえば藻岩山
世界で初めての技術を誇る札幌ドーム
ゴミの埋立地が一大観光スポットに
北大と札幌競馬場は兄弟?
すすきのの女性と札チョン族
“北のすすきの”北24条
一戸建てには“サンルーム”が常識?
気温は低くても、ギャンブル熱は高い
整えられた街に「場末」は成り立つか?
第五章 札幌人は、新しいものが大好き
SHINJOが大ウケした理由
名古屋メシにも飛びつく功名心
演歌はここからヒットし始める
“音楽の都”という顔
北の都にはジャズもよく似合う
イベントのことごとくが「官」主導
札幌流フィルムコミッション活動の狙い
チーム力はいま一歩でもコンサドーレが熱い
前例のないことを始めるのも女性
あとがき

書誌情報

読み仮名 サッポロガク
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
頁数 368ページ
ISBN 978-4-10-126024-2
C-CODE 0130
整理番号 い-54-4
ジャンル 社会学
定価 649円

インタビュー/対談/エッセイ

「引き」の強い街

岩中祥史

 これまで名古屋、博多(福岡市)などの県庁所在地、信州、さらに全国四十七都道府県の風土、県民気質、それを踏まえた地元の人たちとの付き合い方などをテーマに何冊か本を書いてきた。その中で、このほど取り上げた札幌は、博多に勝るとも劣らないほど、「引き」が非常に強い街であることをいま改めて感じている。
 都市はその規模と関係なく、住んでみたくなるところと、行ってみたくなるところとに大別される。しかし、その両方を兼ね備えたところとなると少ない。そうした意味では、博多と札幌は双璧だろう。二つの都市に共通するのは「異国」の匂いがすることで、博多はアジア、一方の札幌は北欧を感じさせる。
 この「北欧」というのが実は大きなミソで、日本人には意外となじみの薄いエリアなのだ。日本人の海外旅行先というと、アメリカ大陸では、ハワイ→西海岸→東海岸→カナダと、人気スポットが移っていった。ヨーロッパではフランス・イタリア→スイス・オーストリア→ドイツ・スペインというのがトレンドで、北欧となると、まだまだマニアックな域にとどまっている。それ故、新鮮なオーラを放っているのかもしれない。
 北欧のイメージからすると、晩秋から冬がもっとも楽しめそうな感じがする。冬といえばやはり2月だろう。札幌でもそれは同じで、当地最大のイベントの一つ「雪まつり」も2月初旬におこなわれる。六十回目を迎えた2009年も、北海道内を中心に全国、いな世界各国から多くの見物客が詰めかけ、降りしきる雪も溶けよといわんばかりの熱気に満ちていた。地元の老舗デパート丸井今井――古くからの札幌人は敬意を込め「丸井さん」と呼ぶ――が民事再生法の適用を申請しても、すすきののど真ん中に建つロビンソン百貨店が閉店しても、それは変わらないようだ。
 昨年秋に突然襲ってきたアメリカ発の金融不況は、ここ数年「日本一元気」といわれてきた名古屋・愛知県さえをも叩きのめそうとしている。それよりはるか以前から低迷を続けている札幌・北海道にしてみれば、今回の不況は、おぼれる者が必死の思いでつかもうとしていたワラが奪い取られたようにも感じられるのではないか。
 だがそれでも、人々の表情は妙に明るい。明日は明日の風が吹く、じたばたしても始まらないといったあきらめ、開き直りとも取れるが、ドライな考え方で毎日を生きている札幌人ならではのことかもしれない。
 北海道の本格的な開拓が始まったいまから百四十年ほど前、本州各地、四国・九州などからやってきた人々はおそらく、「大志」=強烈なフロンティアスピリットを抱いていたはずである。だが、それは初めの四半世紀ほどで失われてしまった。中央政府のリードで開拓が進められたため、移り住んできた人々の心に知らずしらず「甘え」のようなものが巣食っていったのだろう。
 しかしそれに代わって、いわゆる日本人的なガンバリズムとは異質な、この地独得の価値観がはぐくまれていった。鷹揚で、細かなことや伝統的習慣にこだわらない、大陸的な生き方がそれである。それが人々の心に根づき、随所に顔をのぞかせるからこそ、そうしたものを前面に出しながら暮らすのが難しい道外の人たちは北海道に心を魅かれるのだ。
 なかでも札幌は、街の姿・形は本州以南の大都市とさほど変わらないのに、ひとたびそこに暮らすと(いや三、四日いただけでも)、そうした大陸的な気性を感じる。といって、同じ日本語を話しているのだから、コミュニケーションに不自由することもない。すると、もともと島国根性が身についている本州以南の者はひとたまりもなくその虜となる。というわけで、札幌のポイントはますます高まっていく。
『札幌学』では、そんな札幌が持つさまざまな「引き」の力に、その地理的・歴史的背景にまで触れながら立体的に迫ってみた。読み終えたとたん、だれもが旅行会社のホームページにアクセスしたくなるはずだ。ただ、観光だけで行くには惜しい札幌、時間とお金に余裕を持って出かけたい。気のおけないトラベル・パートナーでもいれば最高だろう。

(いわなか・よしふみ 編集企画会社「エディットハウス」代表)
波 2009年3月号より

著者プロフィール

岩中祥史

イワナカ・ヨシフミ

1950(昭和25)年生れ。名古屋の明和高校から東京大学文学部に入学。卒業後、出版社に勤務。2017年11月現在、編集企画会社(株)エディットハウス代表取締役。「大(でゃあ)ナゴヤ人元気会」事務局長。著書に『名古屋の謎だぎゃあ(正・続)』『不思議の国の信州人』『出身県でわかる人の性格』『県民性仕事術』『日本全国都市の通信簿』『名古屋の品格』『博多学』『札幌学』『広島学』などがある。

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