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詩歌、古典、小説。各世代が愛読した名品を精選、一冊にした百年記念アンソロジー刊行。

新潮ことばの扉 教科書で出会った名詩一〇〇

石原千秋/監修、新潮文庫編集部/編

529円(税込)

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発売日:2014/11/01

読み仮名 シンチョウコトバノトビラキョウカショデデアッタメイシヒャク
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-127451-5
C-CODE 0192
整理番号 し-24-1
ジャンル 詩歌
定価 529円

太郎を眠らせ、太郎の屋根に雪ふりつむ。/ふるさとは遠きにありて思うもの/こだまでしょうか、いいえ、誰でも……。教室で、街角で、テレビで。私たちの心に確かに刻まれ、いつしか忘れてしまった美しい日本語の響きが、小さな文庫本という扉を開いた途端、次々に溢れ出します。一九五〇年代から二〇一〇年代の各世代が愛した名詩を精選し、一冊にした新潮文庫百年記念アンソロジー。

著者プロフィール

石原千秋 イシハラ・チアキ

1955年生まれ。成城大学大学院文学研究科国文学専攻博士課程中退。東横学園女子短期大学助教授、成城大学文芸学部教授を経て、2017年5月現在、早稲田大学教育・総合科学学術院教授。日本近代文学専攻。現代思想を武器に文学テキストを分析、時代状況ともリンクさせた“読み”を提出し注目される。著書に『秘伝 中学入試国語読解法』『学生と読む『三四郎』』『秘伝 大学受験の国語力』『漱石はどう読まれてきたか』(以上、新潮選書)、『近代という教養――文学が背負った課題』(筑摩選書)、『読者はどこにいるのか――書物の中の私たち』(河出ブックス)、『なぜ『三四郎』は悲恋に終わるのか――「誤配」で読み解く近代文学』(集英社新書)、『反転する漱石 増補新版』(青土社)、『漱石入門』(河出文庫)、『教養としての大学受験国語』(ちくま新書)などがある。編書に『生れて来た以上は、生きねばならぬ――漱石珠玉の言葉』(新潮文庫)など。

書評

波 2014年11月号より 教科書時代の私たち

石原千秋

あれはいったいどういう感覚だったろうか。
学校の国語の時間は、多くの場合、朗読からはじまる。教師になってみればわかることだが、生徒に朗読させればその教材の理解度は一発でわかる。小学校二年生の時だ。僕にはなかなか朗読の番が回ってこなかった。どうやら先生は集中力を欠いている級友を指名している。そこで一計を案じて、よそ見をすることにした。実はよそ見をするふりをして、隣の級友の教科書をそっと見ていたのである。うまい具合に当ててもらえた。もちろん、すぐにすらすら読みはじめた。先生は一瞬「あれっ?」という顔をした。「してやったり」という嬉しさも含めて妙に鮮明に覚えている。新聞を読んでニュースさえ見ていれば学校で習うことなどなかったから、六年間も通ってほんとうに時間を無駄にしたといまでも思っている。学校嫌いで教科書は好きな小学生時代の、ほんのささやかなエピソードだ。
そんな僕だから、小さい頃から群読が嫌いだった。「みんなで声を合わせて読む」感覚が生理的に受けいれられなかった。「みんなで声を出して練習する」から、運動部も嫌いだった。そもそも「みんなで同じことをする」のが嫌いだった。それなのに「みんなで同じことを学ぶ」教科書がどうして好きだったのか、いまでもよくわからないところがある。それは教科書と向き合っている限りは、五〇人(その頃は一クラスは五〇人がふつうだった)の人間の中でも一人でいられたからかもしれない。
少し前に読者論・読書論を書いたときに、「内面の共同体」というやや生煮えのタームを提案した。本を読むときの「みんな同じものを読んでいるが、自分だけはちがう読み方をしているかもしれない」という感覚を「内面の共同体」と呼んでみたのだ。批評家のジョージ・スタイナーは、黙読が与える「孤独」を近代のものとみなしていて、僕が言う「内面の共同体」が持つ現代的で両義的な感覚を音楽に見出している(桂田重利訳『青鬚の城にて』みすず書房、一九七三・一)。教室の読書は、近代的であり現代的でもある。そういえば、僕がもっとも「孤独」になれて、同時に「みんなと同じで、みんなとはちがう」と感じたのは群読を強いられたときだったかもしれない。そんなときに、金子みすゞの「みんなちがつて、みんないい。」というフレイズが教科書に載っていたら、僕はずいぶん救われただろう。教科書こそは「みんなと同じで、みんなとはちがう」自分という不思議な存在を実感させる不思議なメディアだったのだ。
教科書はまた、感性を刷り込む装置でもある。有名な和歌「三夕の歌」を覚えて以来、僕にとって秋の夕暮れはもっとも美しい時間になった。これはまるで絵葉書で見たようにしか観光地を見られなくなった近代人そのもののようにも思える。夏目漱石『こころ』の「先生」のようにしか自分を疑うことができず、太宰治『人間失格』の大庭葉蔵のようにしか自分を嫌悪することができなくなった青年期を、教科書時代(!)と呼び変えてもいいではないか。教科書時代こそが、「内面の共同体」をもっとも鮮やかに感じられるはずだからだ。
教科書時代の僕たちは、同じクラスの五〇人のみんなの中で、必死に自分だけの位置を探し続けていた。秋の夕暮れが美しいのは、それが人を「孤独」にするからではなかったか。国民作家夏目漱石は「孤独」を書き続けたが、「孤独」を書かなかった近代文学はあっただろうか。中島敦『山月記』が「自尊心」と「孤独」をもてあましている高校生の心に響くように、すぐれた国語教材はどこかで「孤独」に触れている。そもそも教室こそが人をもっとも「孤独」にする空間だろう。言うまでもなく、「ちがう」は「同じ」からしか生まれないからである。「孤独」を生む「みんなとちがう」感覚は、「みんなと同じ」感覚がなければ成り立たない。そんな教科書時代を体験して、僕たちは大人になったのだ。
こんど、新潮文庫の「新潮ことばの扉」シリーズのお手伝いをすることになった。三ヶ月ごとに教科書で出会った「ことば」をジャンル別に刊行する予定である。教科書で出会った「ことば」を読みなおして、「みんなと同じで、みんなとはちがう」と格闘していたあのころの感覚が甦るだろうか。「二十億光年の孤独」(谷川俊太郎)が、なぜか「わかった」あのころの青くて赤い感覚が。

(いしはら・ちあき 早稲田大学教授)

目次

I 人間の不思議に触れる詩
こだまでせうか 金子みすゞ
雪 三好達治
初恋 島崎藤村
竹 萩原朔太郎
秋刀魚の歌 佐藤春夫
山のあなた カアル・ブッセ/上田敏 訳
ミラボー橋 アポリネール/堀口大學 訳
母 吉田一穂
雨ニモマケズ 宮沢賢治
落葉松 北原白秋
ゆづり葉 河井酔茗
わがひとに与ふる哀歌 伊東静雄
ミミコの独立 山之口貘
レモン哀歌 高村光太郎
雪の日 田中冬二
夕陽 鮎川信夫
二十億光年の孤独 谷川俊太郎
他人の空 飯島耕一
ひばりのす 木下夕爾
わたしが一番きれいだったとき 茨木のり子
夕焼け 吉野弘
夕方の三十分 黒田三郎
佃渡しで 吉本隆明
原っぱ 長田弘
II 自然の美しさを感じる詩
山林に自由存す 国木田独歩
荒城の月 土井晩翠
小諸なる古城のほとり 島崎藤村
道程 高村光太郎
雁 千家元麿
寂しき春 室生犀星
海雀 北原白秋
山の歓喜 河井酔茗
曠原淑女 宮沢賢治
大漁 金子みすゞ
海の若者 佐藤春夫
一つのメルヘン 中原中也
のちのおもひに 立原道造
大阿蘇 三好達治
夏の終 伊東静雄
湖水 金子光晴
北の春 丸山薫
峠 石垣りん
山頂から 小野十三郎
どうして いつも まど・みちお
冬 伊藤比呂美
落日――対話篇 辻征夫
III 苦しみを乗り越える詩
椰子の実 島崎藤村
小景異情(そのニ) 室生犀星
信天翁 ボドレエル/上田敏 訳
永訣の朝 宮沢賢治
旅上 萩原朔太郎
秋の夜の会話 草野心平
春 安西冬衛
汚れつちまつた悲しみに…… 中原中也
歌 中野重治
葦の地方 小野十三郎
ぼろぼろな駝鳥 高村光太郎
未来へ 丸山薫
麦 石原吉郎
死んだ男 鮎川信夫
松 永瀬清子
I was born 吉野弘
紙風船 黒田三郎
私の前にあるお鍋とお釜と燃える火と 石垣りん
鹿 村野四郎
帰途 田村隆一
われは草なり 高見順
発車 吉原幸子
自分の感受性くらい 茨木のり子
IV ことばの響きを味わう詩
落葉 ヴェルレエヌ/上田敏 訳
漂泊 伊良子清白
風景 純銀もざいく 山村暮鳥
シャボン玉 コクトー/堀口大學 訳
私と小鳥と鈴と 金子みすゞ
素朴な琴 八木重吉
甃のうへ 三好達治
ギリシャ的抒情詩(抄) 西脇順三郎
サーカス 中原中也
もうじき春よ サトウ・ハチロー
歓酒 于武陵 井伏鱒二 訳
たんぽぽ 川崎洋
さんたんたる鮟鱇 村野四郎
静物 吉岡実
あめ 山田今次
祭火 吉増剛造
わたしを束ねないで 新川和江
祝婚歌 吉野弘
V 心が浮き立つ詩
春のうた 草野心平
一日のはじめに於て 山村暮鳥
耳 コクトー/堀口大學 訳
くらげの唄 金子光晴
草に寝て…… 立原道造
天 山之口貘
おさるが ふねを かきました まど・みちお
シジミ 石垣りん
朝のリレー 谷川俊太郎
てつぼう 糸井重里
三年よ 阪田寛夫
うち 知ってんねん 島田陽子
未確認飛行物体 入沢康夫
出典一覧
解説――切なくて、美しい。 石原千秋

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