ホーム > 書籍詳細:木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか〔下〕

俺は強ェえ男が好きだ。──『グラップラー刃牙』板垣恵介氏。なぜ最強の柔道王は力道山に敗北を喫したのか。戦後スポーツ史最大の謎に迫る。

  • 受賞第11回 新潮ドキュメント賞
  • 受賞第43回 大宅壮一ノンフィクション賞

木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか〔下〕

増田俊也/著

907円(税込)

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発売日:2014/03/01

読み仮名 キムラマサヒコハナゼリキドウザンヲコロサナカッタノカ2
シリーズ名 新潮文庫
発行形態 文庫
判型 新潮文庫
ISBN 978-4-10-127812-4
C-CODE 0195
整理番号 ま-41-2
ジャンル ノンフィクション、スポーツ
定価 907円

牛島辰熊と袂を分かち、プロレス団体を立ち上げた木村政彦。ブラジルやハワイ、アメリカ本土での興行を経て帰国し、大相撲元関脇の力道山とタッグを組むようになる。そして、「昭和の巌流島」と呼ばれた木村vs力道山の一戦。ゴング──。視聴率100%、全国民注視のなか、木村は一方的に潰され、血を流し、表舞台から姿を消す。木村はなぜ負けたのか。戦後スポーツ史最大の謎に迫る。

著者プロフィール

増田俊也 マスダ・トシナリ

1965年生まれ。北海道大学中退。愛知県立旭丘高校から七帝柔道に憧れて北大に入学。4年生の夏の七帝戦を最後に引退し大学を中退、北海タイムス社記者に。2年後に中日新聞社に移る。中日在職中の2006年『シャトゥーン ヒグマの森』(宝島社)で「このミステリーがすごい!」大賞優秀賞を受賞しデビュー。2012年『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』(新潮社)で大宅賞と新潮ドキュメント賞をダブル受賞。2013年、北大時代の青春を描いた自伝的小説『七帝柔道記』(KADOKAWA)で山田風太郎賞最終候補。他著に『VTJ前夜の中井祐樹』(イースト・プレス)など多数。2016年春、四半世紀勤めた中日新聞社を早期退職し、本格的な作家生活に入った。

目次

第19章 鬼の木村、ブラジルに立つ
第20章 エリオ・グレイシーの挑戦
第21章 マラカナンスタジアムの戦い
第22章 もう一人の怪物、力道山
第23章 日本のプロレスの夜明け
第24章 大山倍達の虚実
第25章 プロレス団体旗揚げをめぐる攻防
第26章 木村は本当に負け役だったのか
第27章 「真剣勝負なら負けない」
第28章 木村政彦 vs 力道山
第29章 海外放浪へ
第30章 木村政彦、拓大へ帰る
第31章 復讐の夏
第32章 木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか
あとがき
主要参考文献

解説 板垣恵介

インタビュー/対談/エッセイ

波 2014年3月号より 僕の残りの人生は木村政彦先生からのプレゼント

増田俊也

二〇一一年九月、この『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』のハードカバーが出版されたとき多くの書評が出た。そのなかで僕は芥川賞作家の平野啓一郎さんが書いてくださった書評がいちばん好きだ。
平野さんの文章は、こう始まる。
《司馬遷は、恐るべき恥辱を受けた後に、「徹底的に大きな事を考え」、成し遂げた。彼は『史記』を著し、歴史を書いた。木村政彦は無論、歴史を書いたわけではない。歴史を書いたのは、彼を心から敬愛し、その恥辱を我が事として受け止めた著者の増田俊也氏である。物々しいタイトルに怯む事なかれ。これはまさしく魂の仕事である》(『波』二〇一一年十月号
僕が木村政彦先生の《恥辱を我が事として受け止めた》ように、平野さんはその繊細な感性で僕の気持ちを全身で受け止めてくださり、最後をこう締めくくっていた。
《生き恥をさらし続けた木村に対して、著者は最後まで、爽やかな憧れと敬愛の念を捨てない。その目差しのやさしさが読者の胸を打つ。
この本には、やるせなさが満ちている。しかし同時に、この本は救いである。
木村政彦は、最後に勝利した。彼はその魅力によって復活した。リヴェンジはここに、ペンによって果たされた》(同前)
平野さんは《敬愛》という言葉を使ってくださっているが、この本を読んだ人たちの多くがこの本に《愛》という言葉を添えてくださる。女性読者もそうだ。新潮ドキュメント賞選考委員の恩田陸さんも《愛》という言葉でこの本を評してくださった。はじめ僕はこの本を愛をテーマに書きはじめたわけではない。しかし結果としてそう受け止められた。
なぜなのか。このことは大宅賞受賞パーティのスピーチで触れさせていただいたが、僕の執筆動機がすべて木村政彦先生の復権のためだったからだと思う。人は自身をなげうち、他人のために何かをするとき、とてつもない力を出すことができる。その結果生まれたのがこの本なんだと思う。
昨年出た北海道大学時代のことを書いた僕の自伝的小説『七帝柔道記』(KADOKAWA)に登場する北大柔道部の二期上の先輩で和泉唯信さんという方がいる。
その和泉さんが『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』のハードカバーが出たときに名古屋に来て、こう僕をねぎらってくれた。和泉さんはあの作品のなかでずっと広島弁で話しているが、いまでもその広島弁で訥々と話す。
「これだけのことを一人の人間のためにやったんじゃ。あんたの人生にこれからどんな辛いことがあろうと、天国の木村先生が守ってくれるじゃろうて」
和泉さんは現在医師であるとともに実家の寺を継ぐ浄土真宗の僧侶なので、こういう言葉が出たのだろう。そして和泉さんはこの『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』が『七帝柔道記』とどれほど密接に繋がっているか知っているからこそこんな言葉が出たのだと思う。
実は『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』は、小説家増田俊也の総決算である。まだこれから先たくさんの作品を書いていく僕が、いまから「総決算である」と言うのをいぶかしく思う人が多いと思う。
実は『七帝柔道記』はこれからシリーズ作品として続編、続々編、続々々編と長く出版されていく。それらがすべて終わったとき、読者は『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』が壮大な物語のラストシーンであることを知ることになる。
なぜラストシーンであるこの作品を先に書いたのかというと、僕は人生が有限であることを知っているからだ。死というものが、いつ訪れるのかわからないことを、自分とそしてまわりの人間の人生を通して知り尽くしているからだ。だから、書くべきものを先に書くべきだと思った。
これから先、僕は生あるかぎり小説を書いていく。この先の僕の人生の残り時間は、木村政彦先生が僕にくれたプレゼントだと思っている。だから僕はこの命あるかぎり、小さく儚い生を、小説家として燃やし続ける。
警察小説も書くだろうし、純文学も書くだろうし、歴史小説も書くだろうし、SFだって書くかもしれない。だけれどその作品群はすべてこの『木村政彦はなぜ力道山を殺さなかったのか』に繋がっていく、生と死、男性と女性、人間の尊厳そのものを紡ぐ、壮大な愛と赦しの物語である。

(ますだ・としなり 作家)

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