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私は福島県に生まれた。声がする。そこへ行け――。

馬たちよ、それでも光は無垢で

古川日出男/著

1,296円(税込)

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発売日:2011/07/29

読み仮名 ウマタチヨソレデモヒカリハムクデ
雑誌から生まれた本 新潮から生まれた本
発行形態 書籍
判型 四六判
頁数 138ページ
ISBN 978-4-10-306073-4
C-CODE 0093
ジャンル 文芸作品
定価 1,296円

あの日以来、私は時間を喪失した。世界はテレビの向うにあり、自分こそが彼岸にいた。涙がこぼれる、自問する、どうして私は死なないのか。どうしたら苦をともにできるのか――。震災から一月、作家は福島県浜通りをめざす。被災、被曝、馬たちよ! 目にした現実とかつて描いた東北が共鳴する、小説家が全てを賭けた祈りと再生の物語。

著者プロフィール

古川日出男 フルカワ・ヒデオ

1966年福島県郡山市生まれ。1998年に『13』で小説家デビュー。2002年、『アラビアの夜の種族』で日本推理作家協会賞および日本SF大賞を受賞。2006年、『LOVE』で三島由紀夫賞を受賞。2015年刊行の『女たち三百人の裏切りの書』で、野間文芸新人賞および読売文学賞(小説賞)を受賞。他の作品に『聖家族』『馬たちよ、それでも光は無垢で』『冬眠する熊に添い寝してごらん』など。

インタビュー/対談/エッセイ

波 2011年8月号より 【古川日出男『馬たちよ、それでも光は無垢で』刊行記念インタビュー】 いま、馬たちは駆け出した

震災で日付の感覚を失った福島県郡山市生まれの作家。あの日から一月、彼は浜通りへ向かった。津波、原発、傷ついた馬たち……「被災した人が読んでも意味のあることを書かなければならない」と語る小説家が選んだのは、ルポルタージュではなく小説だった。言葉を失う極限の現実を直視し、時間を取り戻す極限の執筆を経て、ついに馬たちが走り出すまでの記録――

日付はもう思い出されるか認識し直
されるかしたのだから――本文より

20110515→20110606
五月十五日に脱稿した後は、編集者と待ち合わせをしたらいつのまにか集合する駅を通過していて気づかないみたいな、これまで一度もやったことがないような現実から遊離した状態が起きていました。福島を書くことをやめた瞬間に現実から離れてしまって、ものすごく精神が不安定な時期が二週間続いた。書くことで何かと繋がって一緒に闘えてたんだけど、書くことがなくなった瞬間からどうしていいか分からなくなったんだなと感じました。書き上げられればそれだけでプラスの何かを世界に投じられると思っていたけれど、自分が作品のために捧げてしまったものがあまりにも大きくて、普段の自分のライフスタイルとか、人になるべくネガティブに接しないみたいなことすら守れない、制御できない。制御できなくなったのは原発なのか僕なのか分からないような状況に入ったなと思った。
三月十一日に震災が起きて、自分に何ができるのかというときに、最終的には書くことだったわけです。最初はまず感じなくてはいけない。とにかく感じ、考え続けなくてはいけない。逃げてはいけない。逃げないってことは「書かない」選択もあるかもしれないということも含めて考えたということです。でもやっぱり自分は書くことが一番力を出せるし、少しでも状況を良くするために貢献できるはずだと信じて書いた、そして書き終わってしまえばもう書けない。そのことが、「俺はもう皆のためになすべき何かが今できていない」となって、それが苦しかったような気がします。


20110411→20110514
ノンフィクションを書く気は一貫してありませんでした。「嘘を一個も書かないフィクション」を書きたかった。小説家である自分が小説を書けなかったら立ち直れるわけはない。そこにしか向かうべき挑戦はなかったんだと思います。
ここまで自分を曝け出すとは思わなかったし、文学の正統的な流れを理解した上で、従来の僕はそういうやり方はしないと思っていました。でも自己や自我を包んでいる建屋のようなものを剥がしていったら、内部から爆発する前に自ら剥がしていったら、この方法だけがあった。だからそれを採るしかなかった。
浜通りへ行ってから四月十一日の起筆まではほんの数日だけど、僕の中ではとても大きな数日でした。四月七日の夜、大きな余震があって、もう一回大規模停電になってしまう地域が出るぐらいの巨大な余震があって。そこからの何日間で、タイトルを含めてどこまで掘り下げるのか、どこまで本気になるか、どこまで退路を断って一切合財を引き受けようという覚悟を示すのかというときに、「僕」でも「俺」でもない「私」という一人称が出てきました。
あの「私」で語っているときは本当に全てを引き受けようとしていた。それを外してしまえば、「俺はあの被災地に生まれて家族いるしさ」となるけど、そうなったら多くの人たちを切り捨てることになる。そういうことは決してしたくなかったんです。ルーツを完全に引き受けながら、ルーツに逃げない。これだけは決定するまでもなく最初から決まっていました。
そして僕は僕自身を半歩でもいいから救わなくてはいけないと思っていました。とにかく俺はもう終わってる、このままではたぶんもう書けなくなるだろうということは分かっていたから。自分を少しでも救うことができれば、被災地をほんの少しでも救えるのかもしれない、僕を救ったレベル分は救えるかもしれない。そして、書き出したならばその原稿、作品を救わなくちゃいけない。それができればほんのちょっとだけど何かが底上げされるだろうとも思っていました。


20110607→
例えば誰かを愛せるとして、自分を愛せない人に果たして他者を愛せるのかという問題はとても大きいような気がするんです。もしもこの状況に救いのようなものを与えられるとして、自分を救っていないのに救うことはできないだろうというのは明らかで、自分を救った以上のことは決して救えない。自分が若干回復できるなら、世の中は少し回復できるはずだと、そこに賭けていました。それは自分の中ではこの本を書けるかどうかだった。それがやれた、つまり自分を回復できた。脱稿直後はやれたかどうか分からないところにいたけど、活字になってから少しずつ、ああできたんだって分かって、まともな道を前進し始めた。再生とまでは思わないけど、安定したなっていう感じでした。
六月七日に雑誌「新潮」で発表された直後から読者が生まれて、思いがけない人がコメントをくれたりしてびっくりしました。皆が言葉にできなかったし僕も書き終わるまで言葉にできなくて苦しんでいたことを言葉にできて、そのことを今共有できてるんだなと思った。本当に些細なことができただけだけど、それは自分にとって嬉しいことでした。
三月十四日の朝に通信社に寄稿した「想像力を善きことに使う」という言葉の実践としての本にしたかったんです。作品の最後に、想像力でエンディングの情景を作れるのか。想像力で作れればそれはイコール小説で、小説の善きことができる。善き想像力を使うことで善き小説が生まれて、それはこの世界に対して有効だっていうことを試そうとしたんです。それで実際書いて、文学は有効だって分かったから、これからは「その先のどこか」に向かおうとしています。

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